緊急出動!!連合歩兵隊 序章
トリステインの首都であるトリスタニアから西へ5km程行った場所は、かつて王家直轄領であった。しかし、現在はアルビオン解放戦争で手柄を建て伯爵となった平賀才助『東方義勇軍』トリステイン方面軍司令官の領地となっていた。そしてその義勇軍の拠点もここにあった。
新設された義勇軍の基地には、飛行機を飛ばすための飛行場、戦車やトラックの駐車場、歩兵の練兵場などが整備されている。さすがに、建てられた建物自体はこの時代の技術で作られているものが多いがそれでも毎日飛行機が離着陸を繰り返し、時折戦車がキャタピラの音も高らかに走り回る風景はさながら異世界の光景だった。
実際彼ら『東方義勇軍』の幹部のほとんどが異世界である地球からやってきた人間であったし、使用している武器も同様だった。
戦争が終わった現在、彼らのやることといったらひたすら自分たちの訓練と、新兵に対する教育だった。幹部陣はのきなみ地球出身者だったが、兵士の多くはハルケギニアで募集した志願兵だったからだ。その多くは行き場を失っていた若い平民たちだった。
彼らの多くは文盲で、さらに他のハルケギニア人同様機械文明に触った事などなかった。しかし3ヶ月間の猛訓練で、なんとか最低限の戦闘が出来るレベルにまで練度を上げることができた。
しかしそうなってくると、よりレベルの高い戦闘訓練が必要となってくる。義勇軍内での訓練では、どうしても地球式の近代戦法しか知らない者同士の戦闘となる。しかし彼らが万が一の場合に戦うのは、この世界、すなわちハルケギニアの人間だ。そうなると勝手が違ってくる。
総司令官である才吉や才助が警戒していたのは、ハルケギニア人がこの世界にある手段で、近代兵器に対抗する戦法を開発する事だ。
昔公開された映画で「戦国自衛隊」という話があったが、この中ではヘリコプターをはじめとする近代兵器ごとタイムスリップした自衛隊が、上杉謙信と協力して武田信玄の騎馬隊と戦闘するストーリーであった。しかし、それら近代兵器が敵の原始的な戦術でやられてしまうという描写がある。
同様なことがここハルケギニアで起きないという保証はどこにもなかった。それに「戦国自衛隊」は抜きにしても、ベトナムでは原始的な戦法でベトナム軍が米軍を打ち破っている。また最近でも近代兵器を持っている米軍がアフガニスタンやイラクで武装ゲリラに悩まされている。
そこで、才助たちはなるべくこちらの世界の軍隊と模擬戦を行なってこれに対抗しようとした。ところが、この結果は才吉たちを非常に落胆させる物だった。
トリステイン軍のメイジで構成された部隊の多くは、よほど魔法に自信があるのかバカの一つ覚えの戦法しかかけてこなかった。すなわち正面からの魔法を使っての突撃攻撃である。
これでは義勇軍に勝てるはずなど無い。義勇軍の一人あたりの歩兵装備は、旧日本軍の99式小銃をモデルに開発したT1型歩兵銃に手榴弾、音響閃光弾である。これだけでも普通のメイジに対抗するだけなら充分だ。音響閃光弾で相手の動きを奪って攻撃するか、小銃でのアウトレンジ攻撃で倒せてしまう。
さらに部隊装備として、陸上自衛隊からの払い下げである迫撃砲や無反動砲も備えている。(これは才吉が仕入れてきた物。例によって出所不明。)
こうなるとお話しにならない。これらに正面から向かうなど自殺行為も良い所だ。しかも、プライドからか、1回負けてもその戦訓を根本的に生かそうとしない。とにかく向上心があまり見られないのだ。
どうも魔法に頼りきっているのと、貴族というプライドが冷静な判断力を奪っているようだった。
一回だけマンティコア隊が義勇軍に大打撃を喰らわせたことがあったが、これは義勇軍側のミスで起きたことだからあまり参考にはならない。
一方、戦訓を提供してくれないメイジたちであったが、義勇軍にとって頼もしい敵となったのは、今やトリスタニア中にその名を轟かせている女剣士、アニエス率いる銃士隊であった。
アニエスはアルビオン解放戦争の際は義勇軍と共同でハヴィランド宮殿強襲作戦を行い、皇帝クロムウェルを捕縛する功績を残した。
そんな彼女率いる銃士隊は全員が平民、しかも女性で構成されている。そして最初の模擬戦からこの銃士隊は手強い相手となった。
彼女らは常に如何にメイジに勝つかを考えて訓練している部隊だ。だから思考の柔軟性という点ではメイジたちの比ではない。
最初の模擬戦はほぼ同数の兵士で、森の中で行なわれた。アニエス率いる銃士隊はメイジたちのように真正面からの戦闘という愚は犯さず、分散しての少人数グループで戦った。しかもその動きは機敏で、義勇軍兵士を一時混乱させた。
ただし、さすがに兵器の質はどうにもならず最終的には銃士隊の完敗で終わっている。
しかしそこからがメイジと一味違うのが、アニエスだった。彼女は敗因を徹底的に分析し、例えば銃士隊の兵士の格好が森に溶け込めず目立ったとわかれば、すぐに隊員たちの服を染めさせた。また勝った義勇軍兵士達への聞き込みも欠かさなかった。
そんな彼女の態度に感心したのが、歩兵部隊隊長の梶田幸一少佐だった。彼はもと陸上自衛官の普通科(所謂歩兵科)出身者だ。別にこの世界に飛ばされてきたわけではなく、地球でスカウトされて、新月を使ってこちらの世界にやってきた人間だ。
なんでわざわざこんなことしたかといえば、こちらの世界に飛ばされた人間だけではカバーできない分野も結構多いからだ。
梶田がスカウトされたのは、近代的な歩兵戦術を知っている人間が少ない事と、ヘリパイロットの山田少佐の知り合いであったからだ。また陸自の兵器を使いこなすことも出来た。
日頃から政府の失政に失望していた彼は、最初こそ困惑したが、この話に直ぐに飛びついた。自衛隊では絶対無理な実戦を経験できるかもしれないというのも彼にとっては大きな魅力だった。
そんな彼、アルビオン解放戦争の1ヶ月前にハルケギニアからやって来たわけだが、結局歩兵部隊の編成が間に合わず、同戦争には出陣できなかった。
だから模擬戦が彼にとってのフラストレーションを発散できる場所であったが、そこで出会った銃士隊兵士たちは彼の興味を大いに引いた。そこで、彼はこんな提案をアニエスに申し出た。
「お宅の部隊とうちの部隊で共同訓練をしてはいかがだろうか?」
これがこの物語のスタートだった。
梶田少佐からアニエスに申し出が行われてから数日後の早朝、義勇軍基地内に起床ラッパが鳴り響いた。
「総員起床!!」
起床時刻を告げる兵士の声に反応して、兵士たちが一斉に飛び起きた。ただし、その兵士たちは見慣れた義勇軍兵士ではなかった。
「全員もたもたするな!遅れて銃士隊の名を汚すようなマネをするんじゃないぞ!!」
「「「はい!!」」」
飛び起き、急いで着替える兵士たちに向ってアニエスの強い意志の籠った声が掛けられた。
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作者近況・・・自分の下宿(山梨県)ではゼロ魔が見えないことにやっと気付きました。
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