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シエスタの休日 下
 シエスタが菅野中佐と出会ってから1週間後、彼女はスカロン店長から新しく開店する支店の仕事を手伝うよう頼まれた。

 魅惑の妖精亭の支店は、義勇軍基地のすぐそばに作られた店である。スカロンが何故そんなことをしたのかと言えば、常にかなりの金を払っていく義勇軍兵士の来店をより積極的に望んだことと、現在基地一帯の領主となっている才助が、土地の税金を非常に低く抑えていたからだ。

 大概貴族は平民に対して色々と税金やらなんやら理由をつけて金を吸い取る。しかし現代日本からやって来た才助はそんなことはしない。むしろ税金を安くして、基地近くに商店や住宅が増えることを望んでいた。そして実際、既に目敏い商人たちが次々と店を建て、さらにその商人たちが住む家が建てられるという形で、街が形成されていった。

 シエスタは魔法学院へ戻る時期になっていたがスカロンからしつこく頼まれ、結局才人のいない魔法学院に既に未練はなかったから、辞表を出してこちらの仕事をすることとなった。

 支店での手伝いを始めたシエスタであったが、開店当初からてんてこ舞いとなった。義勇軍の兵士にとって、歩いて行ける範囲で可愛い女の子と会えて美味い料理が食えるなど、夢のようなことだったからだ。

 そしてスカロンの目論見どおり、この店の収入は良かった。コストパフォーマンスという点からみたらトリスタニアの店よりこちらの方が儲かっていたかもしれない。

 魅惑の妖精亭の支店は義勇軍の基地から400m程離れていた。これは才助が万が一の事故に備えて基地から300m以内に建物の建築を禁止したからだ。元自衛官である才助にとって、民間人を巻き添えにする事故は最も恐れる物だった。

 そんなわけで、店自体は基地の真ん前にあるわけではなかった。しかし、離れている分逆に基地から飛び上がる飛行機が良く見えた。

 そして開店から数日したある日、シエスタは義勇軍基地内から出前の注文を受けた。出前の注文と言っても、電話などないから基地から誰かが代表として数人分の注文を言いに来るのであるが、それはともかく、シエスタは早速注文された料理を作って基地へと向かった。

 正門で衛兵から許可を貰い、注文した人物がいる場所を説明され、そこへ向かった。その場所は飛行機の格納庫だった。

「すいません。魅惑の妖精亭ですけど。」

 彼女が声をかけると、中から聞きなれた声で返事がされた。

「やあ、君が出前か。」

「あ!菅野さん。こんにちは。」

 あの一件以来、顔見知りとなっている菅野中佐だった。

「あなたが注文を?」

「ああ、と言っても俺は食べないけどね。食べるのは午前の飛行を終えた俺の部下たち。」

 そう言って菅野は指差した。シエスタが見ると、そこには自分と同年代、もしくは1、2歳ほど若い少年たちが座り込んでいた。明らかに元気がない

「あいつらはパイロットの訓練生1期生なんだけど、体験飛行しただけであのざまでね。まあ一度も空を飛んだことないから仕方ないといえば仕方ないけど・・・そう言えば君は飛行機に乗ったことがあったんだよね?」

「はい、以前タルブに帰る時に一度乗せてもらいました。」

 すると、菅野は彼女の方を見て何かを考えていた。そしてこんなことを言った。

「じゃあこいつに乗ってみる?」

「はい?」

 菅野が乗らないかと言ったのは、複葉のPo2練習機だった。

「こいつは風防もない吹きさらしだけど、その分風を受けて飛ぶことが出来るから楽しいよ。こいつらが食事を終わらせるまで時間はまだあるし。」

 菅野としては、とくに何か理由があって彼女を乗せようと思ったわけではない。ただ何か心に引っかかる物があったのだ。

「ええと、それじゃあ折角なので乗ってみようかな。」

 シエスタは少しばかり迷ったが、乗ることにした。

「ようし。それじゃあ早速行くとするか。」

 早速菅野は飛行帽子と飛行服を持ってきて、彼女に着るように指示した。

 着てみると、中々決まっている。おまけに体の線が綺麗に出るので、若い練習生たちにはかなり刺激的なようだった。ただ菅野はそんなこと気にせず、整備兵に機体を格納庫から引き出させて飛行準備に掛かっていた。

 菅野が操縦席に乗り込んでエンジンを始動させる。本来なら少しばかり暖機運転が必要だが、午前中練習生を乗せて飛行していたからエンジンは温められていた。

「じゃあ乗って。」

「はい。」

 シエスタは菅野に説明されて後部座席に乗り込んだ。

「じゃあ行くよ。ベルトは締めたね?」

「はい。」

「それでは出発。」

 菅野はスロットルをフルにして離陸に掛かった。

 離陸すると菅野は時速100km、高度1000m程での飛行を行なう。

「どうだい、直接空から眺める地上の景色は?」

 菅野は無線越しに後部座席のシエスタに尋ねる。

「とっても綺麗です。それに風が心地良いです。」

「それは良かった。ところで、気持ち悪いとか、そういう感じはしないかい?」

「いいえ、全然。」

「ふうん・・・」

 練習生たちの多くがただ1回の飛行で飛行機酔いを起こしたのに対し、シエスタはいたって元気そうだ。この違いは一体何であるのか?

(そういえば曾御爺さんがパイロットだったな・・・血かな?)

 もしシエスタが佐々木少尉の血を濃く引いているなら、もしかしたらパイロットとしての素質があるかもしれない。

(ちょっと試してみるか。)

「シエスタさん、ちょっと機体を回すよ。腹に力を入れて。」

「は、はい。」

 菅野はそこまで荒くはないが、通常よりきつい感じで機体を旋回させてみた。

「キャ!」

 急な動きに、シエスタが声を上げた。

 旋回が終わると、菅野は再び尋ねた。

「大丈夫かい?」

「ええ、ちょっと冷っとしましたけど、大丈夫です。なんともありません。」

「そうか・・・」

 この後、菅野は10分ほど飛行した後機体を着陸させた。そしてそのまま格納庫の側まで滑走させた。

 その頃には、既に練習生たちが食事を終えて2人が降りてくるのを待ち構えていた。

「楽しかったです。ありがとうございました。」

 そう言いつつ、シエスタは足取りも軽く地面に降り立った。その光景に、練習生達は唖然としていたが。

「それは良かった。」

 意外な人材の素質が発見できたかも知れないので、菅野もご満悦である。

「それじゃあ私はお店に戻るので。」

「ああ、ちょっと待って。」

 菅野がシエスタを引き止めた。

「シエスタさん、飛行機の操縦を習う気はないかい?」

「え!?飛行機のですか・・・そうですね、自分で空を飛べれば楽しそうですけど、お店もありますし。」

 シエスタが断ろうとするが、菅野は彼女の中に感じる物に賭けてみたかった。

「君は筋が良いと思うんだけどな。お店が休日の日とか、お店が開く前の早朝でもいいから習ってみる気はないかい?もちろん義勇軍としての訓練だからタダだ。だめかな?」

 その言葉に、シエスタはちょっとばかし考えていた。

「それでしたらなんとかなると思います。考えてみます。」

 一応断言せずにそう答えた。

「そうか。だったらいつでも良いから、また返事を聞かせてくれ。」

「はい。それでは。」

 そして彼女は空いたお皿を持って帰っていった。

 このときは曖昧な答えしかしなかったシエスタであったが、この数日後の定休日、彼女の姿が基地内で見られたから、その後どうなったかは容易に推し量れるだろう。

 彼女、そして菅野中佐がさらにその後どうなったかは、本編に続く。

 
 というわけでシエスタ編終わりです。というか、もうタイトルとは全く違う話になってしまいましたが(笑)
 彼女の活躍はいずれ本編で語ることとなるでしょう。
 次のネタは一体誰にしようか・・・考え中です。アニエスか、それとも何か学院ネタにするか・・・どうしようかな?


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