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シエスタの休日 中
「何!?」

 衛士は自分たちの行動に横槍を入れてきた声の主の方に顔を向けた。そして、その服装を見て驚愕した。

「ぎ、義勇軍!」

 義勇軍の存在は王都を守る衛士たちにとっても大きな物となっていた。ほぼ構成している全員が平民でありながら、現女王であるアンリエッタから高い信頼を誇り、さらにその使用する武器はこれまでの概念を覆すほど高い威力を持っている物ばかりだった。

 実際、義勇軍の兵士は外出する際も自衛目的での武器(拳銃や音響閃光弾)の携帯が許可されている。そのお陰で、これまで数回メイジとの乱闘騒ぎを起こしたが、いずれも死者も負傷者も出さずに済んでいる。

 そんなわけで、この時点において義勇軍の兵士はメイジたちからは恐れられ、平民たちからはヒーローのように崇められていた。

 衛士たちがうめく様に言うと、先頭の男が敬礼しながら言った。

「義勇軍航空部隊の菅野直中佐です。」

「中佐・・・」

 再び衛士達が驚いた。中佐は軍隊内の階級では士官に入り、比較的高い階級である。衛士達は姿勢をただした。

「失礼しました。」

 彼らに対して、菅野は問い掛ける。

「何をやっているんですかな?大の男が3人で。」

「あなたには関係ないことです。我々は高貴ある衛士にワインをかけた不届きな平民に相応の罰を与えようとしただけです。」

 貴族が侮辱してきた平民をいたぶるのは当然とばかりに言う衛士。しかし、菅野はせせら笑うように言い返した。

「別に悪気があってしたわけではないでしょう。そんなことで一々目くじらを立てるなんて、みっともないと思わないのですか?彼女だって謝っているではないですか。」

 言われた衛士の顔がカッと赤くなる。彼らメイジには平民を虐げても良いというのがこれまでのハルケギニアの社会的な通念であった。それなのに、目の前の男(しかも平民)は否定してきている。

 彼の手が一瞬杖に伸びる。だが、義勇軍の兵士達も腰に吊った拳銃のホルスターに手を伸ばす。

 一瞬の内に、場の空気がピリピリした物に変わった。

 だが、実際の所衛士達にはこれ以上言い返すことや力にうって出ることなど出来はしなかった。そんなことしたら最終的に痛い目に遭うのは自分たちだとしっかりわかっていたからだ。

 これまでにも義勇軍とメイジとの間で乱闘騒ぎがあったのは先にも述べたが、その全てで非があるとされたのはメイジ側だった。騒ぎの原因、またはふっかけたのがメイジ側であり、おまけに義勇軍兵士達にはいつも味方となって証言してくれる平民たちがいたおかげだ。そして今回も悪いことに義勇軍側に非はないから、見ている客や店員たちは義勇軍側の味方をするだろう。

 非があるとされたメイジは大概なんらかの制裁が加えられる。例えメイジといえど、理不尽な暴力を振るったことが証明されれば、実刑が加えられると最近になって法が整備されたからだ。これまでの最高刑は罰金2000エキューだった。

 こういうこともあり、メイジ達は義勇軍の人間、ましてや高い階級の人間にこれ以上楯突く事など出来なかった。

「そ、そうですな。我々も大人気なかったようです。失礼します。」

 衛士達はそう言い残すと、バツの悪そうな顔をして店の外へと出て行った。すると、客の間から拍手が巻き起こった。

「いいぞ兄ちゃん!」

「スカッとしたぜ!」

 法が整備されたとはいえ、未だに隠れて理不尽な暴力を振るうメイジは多い。平民たちの鬱憤は相当な物である。菅野たちが賞賛されるのも当然といえた。

 もっとも、菅野はそんなこと気にすることなく、いまだに座り込んでいる少女、シエスタに手を差し出した。

「大丈夫かいお嬢ちゃん?ケガとかしてないか?」

 それまで恐怖のあまり思考停止状態だったシエスタは、ようやく我に帰った。

「あ!は、はい。大丈夫です。」

 菅野の手をとって立ち上がるシエスタ。

「そうか。なら良かった。」

「助けていただき、ありがとうございました。」

 シエスタは菅野に頭を下げた。

「なあに、女がいじめられているのが気に入らなかっただけさ。それにしてもあいつらが早い所退散してくれて良かったぜ。後2,3言何か言ってきやがったら本当に殴ってやろうと思ってたからね。」

 かつて憲兵隊に喧嘩をふったことがある彼は、その事を思い出しながら言った。一方、シエスタは別な反応を示した。

「メイジに挑むなんて、まるで才人さんみたい。」

 才人という名前に、菅野が反応した。

「うん?君は才人君を知っているのかい?」

「え?はい。私は魔法学院で働いていますから。」

「そうかい。」

 と、菅野彼女をじーっと見始めた。男として女を見定めているわけではなく、彼女の要望に引っかかる物があったからそうしたのだ。

「あの?どうかしました?」

 さすがに変と思ったシエスタが問いただした。

「いや、ここに来て色々な髪の色の人間を見たけど、黒髪は珍しかったから。」

「ああ、これは曽祖父譲りなんです。私の祖父はこことは違う世界から来たんです。確か才人さんと同じ世界だとか。」

 すると、菅野は納得したように言った。

「ああ、それじゃあ日本人の血が混じっているのか。そういえば、平賀司令もそんなこと言っていたな。」

 菅野は才助から、ずっと昔にこちらの世界に飛ばされた人間がいることを既に聞かされていた。

 するとここで、シエスタも菅野が黒い髪と才人と似たような顔立ち(アジア系)であることに気づいた。

「それじゃあもしかして、あなたも才人さんや曾祖父と同じ世界から?」

 その言葉に、菅野がうなずいた。

「まあそうなるかな。そういえば名を名乗ってなかったね。俺は菅野直義勇軍中佐だ。ちなみに飛行兵をしている。」

 遅ればせながら名乗る菅野。続いてシエスタも自己紹介をした。

「シエスタです。よろしく。・・・飛行兵ですか?それじゃああなたも才人さんみたいに『竜の羽衣』・・・ゼロ戦を飛ばせるんですか?」

 少女の口からゼロ戦という単語を聞いて少しばかり驚いたものの、菅野は返答する。

「まあね・・・」

 と、そこで後ろから声をかけられた。

「中佐、立ち話もなんですから座ったらどうです?」

 部下の少尉がそう声をかけてきた。

「ああ、そうだな。君も座りなさい、もっと話を聞きたい。」

「え!?はい。」

 断っても良かったのだが、シエスタはその場の流れで菅野たちの宴席に加わることとなった。

 その後、シエスタを加えた5人による食事会兼お話し会は終始和やかな物となった。やはり同郷の血が混じっているということが、菅野たちの心を和らげたらしい。

 話の中では、やはりシエスタの曽祖父の話題が一番盛り上がった。シエスタにとっては曾祖父の足跡をたどるいい機会であったし、菅野らからしてみれば、こちらに来た大先輩のことであるから、興味は尽きなかった。

 そして2時間後、食事会を終えた菅野たちとシエスタは別れたのだが、人の繋がりとは意外な物で、彼らはこれ以後も顔を会わせることとなる。また、シエスタの心の傷はこの数時間のうちに完全に消え去っていた。

 御意見・御感想お待ちしています。

 作者近況・・・ようやく10巻読破。そして古本屋でゼロ魔11,12巻とタバサの冒険漫画版を購入。


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