ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
治安維持任務 10
「どうぞ。」

 テファが答え、扉が開く。入ってきたのは豊とトレバーだった。2人とも野戦服から第2種軍装に着替えていた。もちろん、万が一に備えて拳銃は持っていた。ただしホルダーに閉まってあるので、ケイトに必要以上に警戒感を取らせずに済んだ。

「初めまして、ケイトさんだったね?俺は『東方義勇軍』今派遣部隊隊長の葛西豊大尉だ。こっちは、部下のトレバー二等兵だ。」

 豊は笑顔で名乗った。しかしながら、ケイトの方は明らかに彼を見て警戒の色を示した。

「あんたたちが、私を捕まえたのか?」

 ケイトの表情が厳しくなる。そんな彼女を見ながら、豊はベッドの側に歩み寄った。

「そうだ。けど安心すると良い。義勇軍は軍規で逮捕者や捕虜に対して残虐な行為をすることを禁じている。君の身の安全は我々が保証する。ただし、こちらの質問には答えて欲しい。まず、この付近で村人や翼人を無差別に襲撃したのは君だね?」

 豊の口調は優しいものだが、話の内容は尋問へと移った。もちろん、ケイトは簡単に答えようとはしない。

「言いにくいのは当然だろうね。けど、こっちは君がしたという決定的な証拠を握っている。だから否定しても無駄だよ。それに、答えないと無駄に時間を過ごすだけだ。あと逃げようとしても無駄だよ。この部屋の外には銃で武装した兵士がいるからね。君も昼間の一件で、俺たちが使う武器の威力を、身を持って確かめたはずだ。」

 もう逃げ場は無いから言え。豊の言葉は暗にそう言っていた。ただし、豊としては彼女が簡単に口を割るなんて考えてはいなかった。犯罪者がそう簡単に罪を認めるという楽観的な考えは豊にはなかった。

 もっとも、だからと言って拷問をしようなどとは考えていない。もし、口を割らなければ基地まで連れて行って辛抱強く口を割るのを待つだけだ。

 ところがである。

「わかったよ。そうだよ、私だよ。」

 予想に反して、あっさりと認めた。表情には出さなかったが、豊は内心少しばかり驚いた。

「随分と簡単に認めたな。まあ良いや。それで、どうして村人や翼人を襲ったんだ?何かを奪った訳でもない。またワザと急所を外していたね。あまりにもおかしい点が多い。とくに翼人は君にとっては同胞だろう?」

 すると、ケイトは表情をさらに険しくした。

「同胞か・・・普通ならそうかも知れないけど私からしてみればあんな連中同胞じゃないね。」

 その穏やかでない言葉に、豊は冷静を保ったが、彼の後ろに立つトレバーと、ベッドの側に座るテファは怪訝な表情を浮かべた。

「それは、どういうことだい?」

「アタシは翼人の集落から追い出されたのさ。母さんと一緒に。」

 その言葉に、テファとトレバーは驚きを隠せなかった。

「え!?」

「な!?」

「良かったら、もう少し詳しく聞かせてくれないかな?まあ強制はしないけどね。」

 テファとトレバーが驚く中、豊は表情を崩さずさらに彼女から情報を聞きだそうと試みる。もっとも、かなり暗い話であることは直ぐにわかったから、無理に言わせる気もなかった。

 だがケイトは、そのまま続けた。

「アタシの父親は人間だったのさ。もっとも、アタシが生まれる前に病気で死んじゃったからどんな人かはわからないけど。母さんは生まれたばかりのアタシを連れて元いた集落に戻った。けど、どこの誰かもわからない人間の男との間に子供を作ったことで、母さんは散々嫌がらせを受けた。そして、最後にはアタシ共々集落を追われたのさ。」

 ケイトの言葉に、テファが表情を暗くした。彼女とケイトの間には、境遇が繋がる部分が多々あるからだろう。

「それで?お母さんは?」

「2年前に死んだ。1人でがんばってアタシを育てたけど、最後にはボロボロになって・・・
その後アタシは1人で生きてきた。アルビオン内を点々としながら、母さんが教えてくれた先住魔法と、弓矢を使ってね。」

 母親のことを思い出したせいで、彼女の顔は悲しみの色を帯びていた。そしてテファは同情するような視線を彼女に注いでいた。

 だが豊には感傷に浸っている余裕はない。そのまま話を続けた。

「それじゃあ、やっぱり君が姿を消していたのは先住魔法の一種だったのか?」

「そう。母さんが言うには、母さんの一族にだけ伝わる秘伝の技だったって聞いた。」

「なるほどね。そして君はその技を翼人への復讐に使ったと。村人を狙ったのは、家族の姿を見ての嫉妬って所か?」

 豊の言葉に、ケイトが頷いた。そしてトレバーが声を上げた。

「あ!?それで村人の被害者が親子連ればかりだったんですか。なるほど。けど、そうなるとわからないのはどうしてわざわざ急所を外したんでしょうね?普通恨んでいる相手なら容赦しないと思うんですけど。」

 トレバーが納得すると同時に、次なる疑問を口にした。その答えについては、豊が言った。

「それは、おそらくこの娘が完璧な復讐者に成りきれなかったからだろうな。翼人や幸せそうな家族の姿を見るのは我慢ならないが、かといって良心の呵責から殺すことは躊躇われる。だからワザと急所を外した。そうだろ?」

 すると、彼女はまたも頷いた。

「けど、まあ今回はそれで色々助かった。村人にも翼人にも死者は出なかったし、俺たちも君を殺さずに済んだ。もし君が大量殺人を行っていたなら、こっちも実弾を容赦なく使って、最悪森狩りでもしなきゃいけなかったからね。」

 豊はそう言うと、小さく笑った。

「話はそれだけさ。それで、あんたたちはアタシをどうする気だい?」

「そうだな。今回は君は確かに誰も殺さなかったし、何も奪わなかった。ケガ人も既に皆回復している。しかし君が多くの人を傷つけ、恐怖を与えたのも事実だ。それ相応の罰を受けてもらうのが本来は筋だろうね。死刑ということは無いだろうけど、重罰は間違いないね。」

 彼女が今回したことを考えれば、極刑は免れないだろう。すると、テファが立ち上がった。

「ねえ豊、何とかならないの?確かにケイトちゃんがしたことは許されることじゃないけど、いくらなんでも可哀相よ。」

 自分が彼女によって傷つけられたにも関わらず、テファはケイトを庇おうとする。

「テファ、君は彼女によってケガをしたんだよ?それでも彼女を庇うのか?」

「確かにそうかもしれないけど。私は別に気にしないわ。ケガならもう治ったし。それに、ケイトちゃんの気持ちも分からなくはないから。」

 さらに、トレバーも彼女を擁護した。

「そうですよ隊長。それに最終的に被害は最小限に留まったんですから。」

 だが、豊は冷静に言った。

「しかし、彼女が犯した罪も直視しなきゃいけない。犯罪者を同情で許していたら、誰も裁けないよ。」

「「そんな・・・」」

 2人が失望の色を浮かべる中、豊は続けて言った。

「ケイトさんのした罪は重い。本来なら、罰を受けて当然だ。」

 豊は本来という所を強調した。すると、ケイトを含めた3人が、今度は怪訝な表情をした。

「しかしながら、ケイトさんはハーフかもしれないがどうみても翼人だ。つまり、アルビオンの法律では裁かれる対象にはない。だから、その身柄については俺に一任されることになる。」

「え!?」

「な!?」

「じゃあ!!」

 テファとトレバーは表情を明るくした。

 豊は笑顔を浮かべた。

「ケイトさん。俺たちの所に来ないかな?義勇軍で働くか働かないかは君の自由だが、俺たちの総司令官は領主をしていて、屋敷の半分を君のような身寄りのない子供たちに解放している。不自由はあると思うけど、衣食住は保証される。場合によっては、市民権も獲得できる。どうかな?」

 豊に言葉に、ケイトは少しばかり考え込んだ。そして。






 ビギン村での治安維持任務から3ヵ月後。

 その日、豊は基地の宿舎の前に、今日から新兵を加える分隊の兵士たちを整列させていた。その分隊はあの日任務に従事した分隊だった。

「皆聞いてくれ!今日から新しい仲間が加わるぞ。女で翼人だが、だからといって変な気を起こすなよ。それから差別も絶対にするなよ。言っておくが彼女は射撃テストでは最優秀で、先住魔法を使えるからな。」

 その言葉にも、隊員たちは落ち着いていた。いや、むしろ何人かは苦笑していた。皆彼女のことをよく知っているからだった。

「ようし、それじゃあ紹介しよう。ケイト兵長だ。」

 彼に呼ばれて前に出たのは、キュロットスカートの第二種軍装に身を纏った、翼人の少女だった。

 彼女は隊員たちに向かってピシッと敬礼した。

「ケイトです。本日からお世話になります。」

 隊員たちも一斉に答礼した。





 その日のお昼。豊はテファと歩きながら話していた。

「ケイトちゃん、今日入隊したのね。」

「ああ、彼女はとても優秀だよ。あの時村人たちを宥めて連れてきて本当に良かった。それにこの領地での市民権も獲得できたし。才吉さんとマチルダさんには本当に感謝だよ。けどまさか、義勇軍に入ってくれるとは思わなかった。」

「それだけ豊に感謝しているのよ。」

 あの後、ケイトは豊の提案にしたがって彼らと共にホープの基地までやって来た。豊としては彼女を無理に義勇軍に入れるつもりはなかったが、彼女は彼に恩を感じていたのか、そのまま志願兵の道を進んだ。

 彼女の弓矢で発揮された腕は銃でも劣ることなく、射撃テストでは最優秀の成績となり、その結果兵長としての任官となった。

「なんにしろ、彼女をこの道に進ませた以上。俺はしっかり上官として、彼女のことを守らなきゃいけないな。」

「がんばってね。」

「ああ。俺は絶対に部下を・・・仲間を失うつもりはない。もちろん、テファも含めてね。」

 豊はそう言ってウィンクした。そしてその言葉に、テファは頬を赤くした。

 

 後のハルケギニア戦役で、ケイトやテファと言った亜人やエルフとのハーフが活躍することによって、ハルケギニアに住む先住民族や亜人に関する保護法が制定されることとなるが、この時点でそれを知る者はいない。
 御意見・御感想お待ちしています。

 50話で切りが良いので、外伝は次から第2部に移したいと思います。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。