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治安維持任務 8
 滞在3日目の早朝、前日夜に豊が要請した追加の装備がホープ基地から空輸されてきた。ただし、空輸してきたのはヘリではなく、最近になってようやくアルビオン方面軍にも配置された、地球の桜花飛行機製のOR1型43式練習機「赤とんぼ」であった。

 ちなみに43はハルケギニアで使われているブリミル暦6243年の末尾2桁の数字から採られている。愛称は地球出身のパイロットが使っていた名がそのまま定着した。

 一応練習機に区分されているが、機銃は装備されているし、また簡単な改修でロケット弾発射機を取り付け可能な設計になっているため、連絡任務や今回のような輸送任務、場合によっては治安維持任務にも使用されていた。

 その「赤とんぼ」2機に対して、豊は空中支援機として村に留まるよう命令した。もちろん、総司令官である才吉にはその許可を予め連絡を入れて取っておいたので、「赤とんぼ」の搭乗員たちはその命令に従った。

 そして豊は全員にサーモグラフィーを渡すと、前日と同じく2人1組で捜索活動に入った。ただし、前日探した地域より翼人の集落に近い所で行う。

 これは豊が隊員たちと話し合って決めた行動であった。「ファントムメナス」は不規則に村人と翼人を襲っている。しかし、前日村で襲撃を行って自分が発見され反撃されたことは、奴に大きなプレッシャーを与えたのではないかと推測された。

 そうなると、今日「ファントムメナス」が採るとする行動は、ジッと森の中で身を隠すか、もしくは翼人への襲撃であった。

 他にこの付近から逃げてしまうという可能性も考えられたが、以前王軍が捜索に入った際も逃げなかった奴が、一度発見されたぐらいで逃げるとは考えにくい。

 と言う訳で、豊たちは村から見てかなり翼人たちの集落に寄った所で敵を求める。もっとも、口で言うのは簡単だが相手は動くことが出来るし、限られた地域とはいえ鬱蒼とした森の中だ。10人(赤とんぼの乗員2名が村での任務を肩代わりしたので増えた) で探し出すには少しばかり荷が重い。

 しかしながら、姿を見つけ出すことが確実になったことと、テファの敵討ちということで隊員たちの士気は高かった。

 また今回は全員、小銃ではなく射程は短いが短時間で多数の弾をばら撒ける短機関銃を持つ。これは森の中では、50m以上の距離を取っての戦闘など起こりはしないし、例え起こっても命中弾を出すのが難しいだろうということから決められた。

 さらに、相手から発見されることを防ぐために、全員念入りに擬装をしていた。顔には迷彩を施し、さらにヘルメットと帽子には葉っぱや木の枝をつけた。また当人たちも足音を極力立てないよう、慎重に動いた。



 豊はこの日も一昨日、昨日と相棒を組んだ新米のトレバーと一緒に行動していた。

「隊長、本当にこのあたりにいるんでしょうかね?」

 トレバーが小声で豊に言った。昨日、一昨日と豊に付き従っているお蔭で、彼も大分戦場の空気に慣れてきたようだ。

「そんなことは本人に聞かないとわからないよ。とにかく、今は探すだけだ。それから余計なことはあまり喋るな。相手はどこにいるかわからないんだぞ。声でこちらの位置がばれるかもしれないからな。」

 そう言うと、豊はサーモグラフィーを翳して辺りをうかがった。

 トレバーも口を閉じて、同様にサーモグラフィーを翳して、近くに敵がいないか確認した。そしていないのを確認すると、その場を移動する。

 同様に他のグループも、森の中で地味に相手を探し続けたが、結局午前中は全員敵の姿を捕捉することは出来なかった。

 そのまま、各々森の中で携帯食の簡単な昼食を短時間で摂ると、再び捜索活動を続行した。

 だがどの班も、その後2時間経っても発見することはできず、もちろん「敵発見」の報告が無線を飛ぶこともなかった。

「後3時間で日没か。」

 豊が腕時計を見て呟いた。

「今日はもう駄目なんじゃないでしょうか?」

 少しばかり諦め混じりの声で、トレバーが言った。

「わからないぞ。最後まで諦めるな。俺たちはこれ以上犠牲者を増やすわけにはいかないんだ。」

「あ!?はい!」

 豊の言葉によって、トレバーのやる気が再び湧き上がる。2人は森の中で根気強く見えない敵、「ファントムメナス」を探し続けた。

 そして1時間後、ついにその努力が実る時が来た。2人が地面に腹ばいになって敵を探していた時、トレバーのサーモグラフィーに熱源が現れた。

 トレバーは急いで豊の肩を叩いた。豊は声を出さず、トレバーのほうへと顔を向けた。そして小声で彼に尋ねた。

「どうした?」

「見つけました。見て下さい。」

 トレバーが手に持つサーモグラフィーの映像を豊に見せた。豊は肉眼でもその場所を見てみる。2人がいる所から距離にして大体40m位の木の上。肉眼では何もないようにしか見えないが、サーモグラフィーは明らかに人と思われる熱源を感知していた。

「間違いないな。良くやったぞ。ようし。トレバー、やるぞ。打ち合わせどおりだ。」

「はい。」

 まず豊は無線機の非常信号発信機のボタンを押す。これで緊急事態発生ということが、離れた場所にいる隊員たちにも分かり、直ぐに来てくれる。また待機している「赤とんぼ」も飛び立つ。そうなれば、敵の逃げ道を塞げるはずだ。

 豊はT3型短機関銃の狙いをつける。サーモグラフィーと肉眼の映像を見比べながら、慎重に狙いをつける。相手は幸いにも休んでいるのか動かない。チャンスだった。

 豊の横では、トレバーが彼同様銃を構えていつでも撃てるようにしていた。彼と目を一瞬合わせて2人は頷き、豊は引き金を引いた。

 ダダダダ・・・

 連続した銃声が森の中に響き渡った。T3型自動小銃は分あたりの発射速度が700発。対して弾倉の弾は50発である。単純計算で5秒もしない内に撃ち切ってしまう。

 だがそれで十分だった。予め狙いをつけていたため、銃弾はちゃんと目標に命中していた。

 目標に命中した銃弾は、そこで炸裂すると赤い染料を撒き散らした。実は豊、相手の確保を優先するためと、逃げられても逃がさないように演習用のペイント弾を使用していた。

 だがたとえペイント弾でも当たればそれなりに痛い。だから、目標は悲鳴を上げた。

「痛い!!」

 その声は非常に高い声だった。同時に、魔法が解けたのか「ファントムメナス」がついにその正体を表した。

 2人は相手が怯んだ隙に距離を詰めた。

「大人しくしろ!!もう逃げられんぞ!!無駄な抵抗はしないで投降しろ!!」

 だが「ファントムメナス」は抵抗してきた。

「枝よ、我に仇名す者の動きを封じよ!!」

 すると、周りの木の枝が2人の方へと迫ってきた。先住の魔法だ。万事休すかと思えるが、歴戦の豊は一筋縄ではいかない。それがたとえ魔法使いが相手でも。

 彼はちゃんと対策を打っていた。2人に木の枝が襲いかかろうとした瞬間、付近一帯を凄まじい閃光と音響が包んだ。

「うわああ!!」

「ファントムメナス」が再び絶叫した。その瞬間、木の枝の動きも止まった。一体何が起きたのかというと、実は相手が魔法を使えることを知っていた豊は、近距離に近付いた所で、トレバーとともに音響閃光弾に手を掛けていたのだ。そしてそれを投げつけたのである。もちろん、その瞬間彼らは目を閉じて耳を塞いでいる。

 凄まじい閃光によって「ファントムメナス」の視力が奪われ、さらにすさまじい音響が耳の奥にまで届いた瞬間、バランスを崩して木の上から落下した。

 ドサ!という音ともに、「ファントムメナス」の体が地面についた。幸いそんな高くはないから、命に関わるケガはしていないはずだった。

 閃光と音響が納まると、豊とトレバーがその場に近付いた。もちろん、銃を構えてである。だが、もはや2人が反撃されることはなかった。

 そして、2人は初めて敵の姿を間近で見た。

「やっぱり・・・」

「子供ですね・・・」

 2人は呟いた。そこに倒れていたのは、どうみても15歳前後の子供だった。そしてその背中には、翼人であることを示す羽が生えていた。
 次回で取りあえず終りの予定です。

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