治安維持任務 7
「テファ!!!」
マチルダが叫ぶと同時に、テファは腕に手を当てながら地面に蹲った。マチルダは慌てて彼女に駆け寄った。
「テファ、大丈夫!?」
「う、うん。なんとか。ちょっと痛いけど・・・」
口ではそんなこと言っているが、彼女は痛みから顔をしかめている。マチルダはそんな彼女を見て、ただ肩を支えてやることと、表情を歪めることしか出来なかった。
マチルダにとってテファは大切な妹だ。これまで例え盗賊に身をやつしても、彼女のことを想い、一心に守ってきた。それなのに、目の前で彼女が傷つくさまを見ることになるなんて。彼女の悔しさと怒りは計り知れない。
すぐにマチルダは、矢が飛んできた方を見回した。だが、そこに矢を撃ったと思われる者の姿はなかった。昨日豊たちと話していた状況そのままだ。
そこへ2人の男が走ってきた。いずれも野戦服を着込んだ義勇軍兵士だった。
「どうしました!?」
先ほどの悲鳴を聞きつけたのか、やって来たのは近くを捜索中だったワトソン二等兵曹とウィルソン兵長だった。2人に向かってマチルダは叫んだ。
「ああ、急いでファンレインを呼んで!!テファがやられた!!」
「「え!?」」
2人はマチルダの言葉と、彼女に肩を支えられて地面に膝をついているテファの腕に、矢が刺さっている姿を見て、何が起きたのか把握した。
「大変だ!!こちらワトソンです!!ファンレイン少尉、応答願います!!」
急いで無線機を取り出したワトソンが、別行動中のファンレインを呼び出す。彼は『水』系統のメイジだ。
「おう、どうした!?」
すぐに返事が返ってきた。
「いそいで村はずれの井戸に来て下さい!!ティファニアさんが攻撃を受けました!矢が腕に刺さって!!」
「了解!!今すぐ行く。お前たちは、応急手当をしておけ!!」
「了解!!オーバー!!ウィルソン、救急キットで応急手当だ!!」
「はい!!」
ワトソンの指示を受けたウィルソンは、すぐに常時携帯の医薬品である包帯と消毒薬を腰のポーチの中から取り出して、テファの応急処置に入った。
一方、その間にワトソンの持っている無線機には新たな交信が入る。
「こちら葛西だ!!どうした?現状を報せ!!」
葛西の声はいつものように冷静に聞こえなくはなかったが、どこか感情が混じった物であるようにワトソンは感じた。もっとも、そんなことは気にせず、聞かれたことだけを答える。
「こちらワトソン、現在位置は村の西にある井戸の側です。つい先ほどティファニアさんが矢で襲撃を受けました。矢は腕に刺さりましたが、見る限りでは、なんとか命には別状ないと思われます。」
「だが仲間がやられたことには変わりない!!犯人は確認したのか!?」
「ちょっと、お待ちを!!」
その質問を聞くと、ワトソンはテファの方に顔を向けた。
「矢を撃った人間を見ましたか?」
すると、痛みで顔をなお歪めているテファは力なく首を横に振り、また彼女の肩を支えながら、ワトソンと一緒に彼女の応急処置をしているマチルダも同じように首を横に振ると言った。
「すぐに辺りを見回したけど、そんな奴はいなかったわ。」
「わかりました。・・・確認しておりません!」
「わかった。俺も今からそこへ行く。お前は再襲撃に備えて警戒を続けろ!!オーバー!!」
「了解です!!」
交信を終えたワトソンは、肩に担いでいたT1小銃を発射できるように手に持ち、辺りを見回す。
だが、マチルダの行ったとおり、一通り見回してもそこに襲撃者の姿はない。既に逃げてしまったのかもしれないし、あるいは昨日話していたとおり、姿を見えなくしているかもしれない。
そこで、彼は念を入れて、今回2人に1つ支給されたサーモグラフィーを取り出した。肩で持てる小型の物で、感知距離はそこまで遠くはない。だが、矢を放ったその位置に留まっているなら、見つけられる可能性もあった。
ワトソンは電源を入れると、それを慎重にかざしてみた。そして。
「うん!?」
少し離れた森との雑木林との境界に生えている一本の木。そこの枝の上に、明らかに異常な、人型とも見える熱源が探知された。
彼は一端サーモグラフィーから目を放して、肉眼でもその場所を見てみる。だがそこには何もない。
もう一度サーモグラフィーを見るが、それにはしっかりとその姿が映し出されていた。機械は朝点検をしているから、故障とは考えにくい。
「間違いない!!見つけたぞ!!」
彼は叫ぶやいなや、T1小銃のボルトを引いて初弾を装填し、その場所目掛けて発砲した。肉眼では見えないので、サーモグラフィーに映った場所からだいたいの位置を推測しての射撃だった。
パン・・パン・・パン!!
一回、一回手でボルトを引いて再装填する必要があるために、発射の間隔は機関銃ほど早くない。それでも、ハルケギニアで未だ主力銃の座にあるマスケット銃や火縄銃に比べれば、遥かに速射である。
ワトソンは装填してあった7発全てを撃ちきった。
「どうだ!?」
撃ちきった所で、もう一度サーモグラフィーをかざすが、その時には既に先ほどの影は、消えていた。
「逃がしたか!?」
絶好のチャンスだったにも関わらず、「ファントムメナス」を逃がしてしまったことにワトソンは歯噛みした。
だからといって、彼は1人で相手を追うほど無謀ではなかった。彼の任務は再襲撃に備えて今ここにいる人間を守ることであった。
とりあえず、彼は銃に弾丸のクリップを再び装填して、再度の射撃に備えつつ、サーモグラフィーで敵影を探した。しかし、その後「ファントムメナス」が現れることはなかった。
「まさかテファが襲われるなんて・・・」
夜、指揮所に戻ってきた一同の前で、豊が悔しそうに言った。
あの後、豊たちも合流して、付近の捜索を行ったが、結局手がかりは何もつかめなかった。朗報といえたのは、処置が早かったおかげでテファのケガが早く治りそうだということと、今回初めて敵の姿を見た者が現れたことであった。
「隊長、落ち着いて下さい。隊長が取り乱してはいけません!!」
副隊長であるファンレインが豊の隣に立って言った。頼もしい副隊長である彼は、指揮官の存在する上での重要性をしっかりと認識していた。
「ああ、すまない。わかってる・・・それじゃあ、状況を整理しよう。」
豊は、テファやマチルダ、さらに現場の目撃者となった親子、さらに敵を発見し発砲したワトソン兵曹の証言を整理し、情報を得ようと試みた。もっとも、直接犯人の姿を見ていないマチルダや親子の証言は役に立つとは言えなかった。
豊たちが注目したのは、テファの言った矢が反射する光を見たこと、そしてワトソンの証言だった。
矢が反射したということは、姿を隠す範囲に限界があるということを示している。また、ワトソンの証言からは、相手が肉眼では見えないが赤外線では探知可能ということが確実になった。つまり、サーモグラフィーを使えば相手を容易に発見できる。
そこで、豊は基地にサーモグラフィーをさらに寄越すよう要請した。これを受けて。翌日早朝には飛行機で追加装備が送られてくることとなった。
そしてもう1つ。豊たちが注目したのは、テファに刺さった矢だった。
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