治安維持任務 6
豊とその部下達は村人と翼人から集めた情報を整理し、襲撃発生地点を地図に書き込み、さらに襲撃時間や襲撃時の状況をノートに書き留めた。
その作業が終わると、手の空いている隊員、さらにテファやマチルダも交えてそれらの情報から「ファントムメナス」の姿や目的を推測する。
「村人に対する襲撃に関して言えば、襲撃場所や襲撃時間に共通性はほとんどありませんね。強いて言うなら夜の事例がないってことでしょうか?」
ワトソン二等兵曹が地図とメモを見比べながら言う。
「翼人の方も同じです。」
同じくワレン兵曹長が言った。
「うーん・・・」
豊は地図に書かれた襲撃地点を表す印を見る。村人、翼人の区別なく描かれたそれであるが、確かに集中的に同じ場所で起きているわけではなかった。村から少し離れた街道上、森の中、畑の近く、中には大胆にも村や集落の入り口で襲われた事例もあった。
場所や時間に特徴があれば、相手の行動パターンを読むのに有効であるのだが、今回その2つについては、夜に発生していない点を除けば何も共通項はなかった。
「また、襲撃方法もまちまちです。弓を射られたこともあれば、『風』魔法と思われる攻撃もあります。ただし、重傷者こそ出ていますが、いずれの被害者も傷が急所を外れており、大事には至っておりません。」
「魔法が使われたってのは本当かい?」
自身もメイジであるマチルダが問うた。
「ええ、何せ凶器がありませんでしたから。凶器無しで人体を傷つけるには、魔法以外ありえません。先に捜索した王軍もその点だけは断言しています。」
「じゃあ、犯人はメイジなのかい?」
「その可能性もありますが、ただ色々と不自然な点が多いんですよね・・・」
ワトソンが首を傾げた。そして、豊は彼の言葉に同調した。
「確かにな、襲撃した相手全員の急所が外れているなんて話が上手すぎる。これじゃあ、まるで故意に狙いを外したみたいだ。・・・もしかしたら、人を傷つけて楽しむ愉快犯かもしれない。」
「それだったら、悲しいわね。」
テファが表情を暗くする。しかし、ワレンがそれに対して肯定するように答えた。
「けど、その可能性は非常に高いと思います。なにせ、襲撃された全員が何も盗られていませんから。普通の野盗や盗賊が犯人ならこんなことは有り得ません。」
「確かに何も盗らないっていうのも不自然だね。」
自身も以前は窃盗犯だったマチルダが頷きながら言った。
「それに他にもあります。現在まで襲撃をした相手を見た人間がいないというのも妙です。」
「どうして?遠くから襲ったのなら、やられた方が探す前に逃げ出すのは簡単じゃない?」
マチルダがまたも指摘するが、それに対して報告しているワトソンは困ったような表情をした。
「いや、マチルダさん。確かに1人でいた所を襲われたのならそれで片付けられるんですが、そうじゃないんです。実は翼人たちの多くは1人でいた所を狙われたんですが、村人で襲われた人間の内、1人でいたところを襲われた者はいないんです。」
「え!?そうなの?けど、それでも気が動転していたのなら?」
「その可能性もありますが、しかし何件かでは側にいた人間がすぐに辺りを見回したと言っています。さらに、見通しの良い街道上で襲われている人もいます。それでも「ファントムメナス」の姿を見た者はおりません。これじゃあ本当に先日慰労会で見たプ○デターですよ。まあ、こっちは殺して皮を剥いだりはしていませんが。」
すると、明らかに何名かが嫌な表情をした。この映画は隊員たちからの受けは好評と不評で完全に真っ二つに分かれていた。それを無視してワトソンは、報告を続けた。
「それから後、これは村人のみの共通項ですが、襲われたのはいずれも親子連れですね。しかも、子どもには目もくれず、親のみが襲われています。また一件だけですが、祖母と孫の内、祖母が襲われている例もあります。」
「単なる偶然なのか、故意なのか、どっちだろうな?」
豊が問いかけるが、答えられるものはいなかった。
「まあ、それについて捕まえて直接聞いてみるしかないな。」
「けど、隊長。相手は一体どうやって姿をかくしているんでしょうかね?」
ワレン兵曹長が言った。すると、豊ではなくトレバー二等兵が手を上げて、元気よく言った。
「もしかして、相手は姿を見せないように魔法を使っているのでは?」
だが、それに対してマチルダがブンブンと首を振った。
「そんな便利な魔法、四系統にはないわよ。あったらとっくの昔に皆使っているわ。それに先住魔法でも、そんなのがあるなんて聞いたこと無いわよ。」
その言葉にトレバーは落胆したが、今度は豊が彼女に問いただした。
「それじゃあ、マジックアイテムでそういうのはありませんか?」
すると、彼女は少しばかり考え込んで言った。
「確か、『不可視のマント』っていうマジックアイテムがあるとは聞いたことがあるけど、そいつはある貴族の家宝だったから、可能性としては低いわね。」
「そうですか・・・まあ、どっちにしろ相手が魔法を使えて、目に見えないのはどうやら確実のようですね。そうなると、人間ならメイジ、先住民なら故意に外している所、場合によっては家族連れを狙い打ちにしている可能性がある所から見て、翼人か獣人と言った比較的知能の高い種類になりますね。」
豊はそう結論付けた。
「けど、それじゃあどうやって奴を見つけるんだい?」
「そうよ、マチルダ姉さんの言う通りよ、見えないんじゃ捕まえるどころか、いつ襲われても不思議じゃないわ。」
だが、2人の心配を他所に、豊は笑顔で言った。
「大丈夫。俺たちはそんな簡単にやられるほど、やわじゃありませんよ。皆、明日は2人1組で村の周辺を捜索する。なお、装備は1人が小銃、1人は短機関銃を持て。それから重いだろうが、防刀チョッキも着るんだ。あと、これはまだ分からないが、サーモグラフィーを常時携帯しろ。目には見えなくても、赤外線じゃ見えるかもしれないからな。・・・それじゃあ、今日はもう寝て、明日に備えよう。」
この日の会議はそこで終わりとなった。豊たちはそれぞれ装備の準備を済ませると、早朝からの出動に備えて床に入った。ただし無線と歩哨を交代でするために、ずっと寝られたわけではない。
翌日、早々に朝食を摂った一行は、早速装備を整えると村の周りや街道付近での捜索に入った。たった8人でどこまで出来るかは疑問符が付くが、とりあえず手持ちの戦力で出来る限りのことをしなければいけない。
村人の鋭い視線もなんのその、隊員たちは見えない敵の姿を追い求める。
一方テファとマチルダの2人は隊員たちが出掛けている間、昨日と同じく食事の準備をしていた。
そんな中で、2人は井戸まで水を汲みに行った。ちょうど、そこには、一組の親子連れがいた。彼らのうち、子供のほうはテファを見ても特に驚きはせず、逆に無邪気な笑顔で挨拶してきたが、母親の方は表情を厳しくすると、子供の手を引っ張ってその場を急いで離れようとした。
当然、この行為はテファの心を傷つけるわけだが、持ち前の明るさに加えて、彼女を支えてくれる人々がいる今、そんなことで挫けたりはしない。
テファは離れていく子供に笑顔で小さく手を振った。事件が起きたのは正にその時であった。
テファが何気なく少し離れた木の上を見たとき、何かが太陽に反射して光るのが見えた。自然の物ではない、まるで何か金属に反射したような光だった。
反射的に彼女はその木と親子の間に走った。
「テファ!?」
マチルダが、テファの不可解な行動に疑問の声を発した時、何かが空気を割いて飛ぶ音と、そしてテファの腕に矢が刺さった。
「テファ!!!」
マチルダの叫びが響き渡った。
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