治安維持任務 3
装備を整えた豊以下の義勇軍兵士たちは、各々の仕事に取り掛かった。村人に聞き込みをするファンレイン少尉率いる1班は、早速村内を回って情報収集に入る。豊とトレバーの翼人の集落へ行く2班は、ヘリによって持ち込んだサイドカーを使ってその集落へ向かう。最後の居残り組みの3班は、交代で無線の担当と指揮所の警備をする。
ちなみにテファとマチルダはその間に夕食の準備をする、さらに付け加えると、マチルダの使い魔であるグワネットは、指揮所の外の地中に潜って外敵の接近に備える。
村に来て1日目の行動はこうして開始された。
豊とトレバーは翼人の集落へと向かっていたが、側車に乗るトレバーの顔は緊張のせいで引きつっていた。そんな彼に、運転をしている豊はとにかく声を掛けて、緊張を和らげようとする。
「トレバー、そんな緊張するなって。翼人って言っても吸血鬼みたいに襲い掛かってくるわけじゃないんだ。あくまで話し合うだけだ。」
「けど隊長、そうは言いますけど。翼人は先住魔法を操ると言うじゃないですか。もしそれを使われたらどうするんですか?」
先住魔法は4系統の魔法より強力というのが定説だ。トレバー自身は自分たちの武器が強力なのを知っているが、やはり戦ったことはないからそれが実際に有効かどうかに不安があるらしい。
ところが、豊の次の発言はさらに彼を不安にさせたと言ってよかった。
「その時はその時だ。まあ教科書通りなら、音響閃光弾を投げつけて、相手の目をくらましている内に全力で逃げて、小銃か短機関銃でアウトレンジ攻撃をするしかないだろうな。だが今回の目的はさっきも話しあいだ。そんなことになった時点で任務は失敗だし、俺たちも終わりだ。なにせ交渉の場に、やたら武器を持ち込むわけにはいかないからな。」
そう、今回はあくまで話し合いだ。そんな所に完全武装でいけるはずがない。一応今回2人は定装備であるT1小銃も、T3型短機関銃も持って来てはある。しかし、豊はそれをサイドカーに置いていく気だった。
その言葉に、トレバーの顔が青ざめる。
「翼人に対して拳銃と閃光弾だけでですか?」
その声は震えていた。
「他に、目立たずに服の中に隠せる武器なんかないだろ?とにかく、俺たちの目的は話し合いだ。それをしっかり肝に命じておけ。」
豊はトレバーの気持ちを知ってかしらずか、表情一つ変えずにそう言った。
村人から教えてもらった翼人の集落はそこまで離れてはいなかった。バイクでいけばせいぜい4〜5分と言う所だった。ただし、翼人の住居は彼らが空を飛べるという性質を持っているせいか、概して木の上に作る。つまり、その集落となれば沢山の木が生えている場所でなければならず、森の中でなくてはならない。
サイドカーではさすがに森の奥深くに進んでいくことは不可能なので、森の入り口で2人は一旦サイドカーを降りることとなる。
もちろん、サイドカーには念入りに擬装をしておく。小銃や短機関銃をその場に置いていくので、万が一持ち去られでもしたら一大事である。
豊はその擬装をトレバーにやらせ、自身は地球製のサーモグラフィーを使ってあたりに不審な人物、もしくは動物がいないか確認しておく。
「よし、周りには特に不審な人間とかはいないな・・・トレバー、擬装は終わったか?」
「はい!完了です。」
サイドカーの上には乗せてきた擬装網が掛けられ、さらにその上に木の枝や枯葉で覆ったので、かなり上手く隠せれていた。
「よし、それじゃあ行くぞ!」
2人は徒歩での移動を開始した。もっとも、徒歩になったからといって先ほども書いたとおり、そこまで遠くはない。
森の中はシーンとしており、少しばかり暗かったが、歩くのに苦労するほどではない。5分もしない内に、2人は早速翼人の歓迎を受けた。もっとも、かなり手洗い歓迎であったが。
ヒュン!!
突然なにかが2人の歩く前方5m程行った所の地面に突き刺さった。
「うわ!!」
驚いて腰のホルスターから拳銃を抜き出そうとしたトレバーを、豊が慌てて止める。
「待て!!銃は抜くな!!」
そう言って、彼は地面に突き刺さった物体を見た。
「矢か・・・それもかなり原始的だな、これは。」
矢を見て、豊はそう偽りのない感想を口にした。確かにこちらに向けて撃ち込まれたのは矢であったが、その造りはかなり時代遅れな物だった。刃の部分こそ良く磨がれていたが、本体はほとんど加工がなされていない自然の木の枝だった。
近代兵器を使い慣れている豊としては、この時代の人間が多用する兵器自体超旧式で笑ってしまうのに、こんな物を見てしまうともはや滑稽以外の何物でもなかった。
もっとも、今はそんなことを深く考えている時ではない。こんな武器を使ってくる種族は限られている。そして状況から見て、今彼らが会おうとしている翼人以外に考えられなかった。
豊は大声で叫んだ。
「撃つな!!俺たちはあんたらに危害を加えるつもりはない!!話がしたいだけだ。良かったら姿を見せてくれ!!」
だが返事はない。あたりは先ほどと同じくシーンとしたままだった。1分ほどして、豊がもう一度声を張り上げようとした時、鳥の羽のような音がしてきた。
2人が音のする方向を見ると、羽を生やした人の形をした物体が3体降りてくるのが見えた。間違いなく翼人だ。3人の内先頭を飛んできた男の翼人が豊たちの前に舞い降り、残る2人は弓を持ってその少し後ろに降りた。
「我らと話し合いをしたいというのは本当か?」
先頭の翼人が豊に問いかけてきた。
「ああ。俺たちはあんたたちに危害を加える気は全くない。代表者と話し合いをさせて欲しいだけだ。」
翼人たちはまじまじと豊とトレバーを見た。2人は今野戦用軍服に身を包んでいる。彼らから見れば奇妙奇天烈な出で立ちであることは違いない。翼人たちは何事か小声で相談した後、豊に向けて言った。
「しばし待たれよ、カーチャ様にお伺いを立ててくる。ただし、お前たちが怪しいものではない保証はないので、この2人を監視に残す。良いな?」
「ああ。よろしく頼む。」
そしてその翼人は再び飛んでいってしまい、その場には豊たちと、2人の弓をもった翼人が残された。
「翼人は温和な性格じゃなかったんですか?」
トレバーが皮肉混じりの声で言った。
「どうやら彼らもかなりピリピリしているようだ。平賀大将の言っていた一触即発って言葉も、どうやら間違いじゃないみたいだな。まあ、警告をしてくれただけありがたいと言えばありがたいがな。」
それから10分ほど、その場に待たされた豊たちであったが、ようやく再び羽を羽ばたかせる音がしてきた。
「来てくれたみたいだな。」
豊が上を見ると、先ほどの翼人と、もう1人別の翼人が飛んでくるのが見えた。
そして、その2人が降り立った瞬間、豊もトレバーも少しばかり驚いてしまった。
「女!?」
先ほどの翼人とともに降り立った翼人は、どうみても20代前後の若い女性だった。その姿に、豊もトレバーも面食らってしまった。
そんな2人にお構いなく、先ほどの翼人が言った。
「聞け、我らが群をまとめておられるカーチャ様がお前たちと話をしたいそうだ。」
そして、彼の後ろに立っている若い女性の翼人は笑顔で豊の前に立った。
「ようこそ我らが群へ。私が長のカーチャです。」
あまりにも若い、しかも女性の翼人という代表の登場に、豊は少しばかり、トレバーは大いに驚くだけだった。
御意見・御感想お待ちしています。
本編のほうはちょっと作者の構想が色々と錯綜しているので、しばらく外伝の更新を優先します。
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