治安維持任務 2
村長との挨拶を終えた豊は部下たちとともに、まず指揮所の開設に入った。最初豊は持ってきたテントを張るつもりであったが、ちょうどよく村の中に空き家があったので、村長に頼んでそこを使わせてもらえることになった。
臨時の野戦指揮所になったその家には、早速基地や隊員との間での通信に使う無線機や電信機、それらの電力を供給するのに必要な、持ち運びが便利で騒音も少ない小型風力発電機と小型太陽光発電機が持ち込まれて設置された。
前線で使う発電機に関してはこれまで、小型の自家発電機が用いられてきたが、騒音が問題となったために、一部で試験的に小型の風力発電機や太陽光発電機が用いられることとなった。これらは自家発電機に比べて発電量が少ないというのがネックだった(ついでに若干高価だが、これについては目を潰れる範囲だった。) が、数基を併用することでなんとか解消した。
また、無線や電信の電波が拾い易いように屋根の上に特設のアンテナも建てられた。
こうした隊員たちが行う作業の光景を、村人たちは当然見たことがないので、好奇の眼差しで見ていた。
さらに、山田中佐操縦のUH60Jヘリがホープ基地と村との間にピストン輸送を行い、1回目の輸送で運びきれなかった武器やバイクと言った装備、さらには燃料や携帯食料などを運び込んだ。
ちなみに、テファとマチルダは豊たちがこうした作業をしている間に、昼食の準備を行っていた。最初は全ての食料を野戦食や携帯食料で済ませようと考えていた豊たち隊員にとって、暖かい手料理(しかも美女が作る)を食べられることは思いもよらないことだった。
食事は軍隊において士気を維持する上でとても大切な要素であるから、そういう意味では2人を連れてきたことが思わぬ副産物をもたらした。もっとも、美女が2人いるだけでも相当な士気高揚になっていたようではあったが。
とにかく、2人が作った昼食のおかげで、隊員たちは午前中の作業がなかったかのように、午後も高い士気を発揮出来た。
指揮所の設営作業は午前中で終わったので、午後からはいよいよ本格的に動く。
昼食が終わって少しばかりの休憩時間を取った後、豊はテーブルの上にこの付近一帯が載った地図を置き、その周りに隊員たちを集めてブリーフィングを始めた。
「今回の任務は、昨日話したとおり、村人と翼人を無差別に襲撃している犯人を捕獲、もしくは撃滅することだ。ただし、俺たちは未だ敵の正体が全くわからないという困難な状況にある。だから当面の目的を敵についての情報収集と捕捉、これ以上の被害者を出さないこととする。そしてこれからの行動だが、まずは隊を3つにわける。一つ目の班は村人からの情報集をする。二つ目の班は翼人の集落へ行き、彼らから情報を収集してくる班。そして最後にここに残り、無線連絡と指揮所の防衛を担当する班だ。」
「班の構成についてはどうしますか?」
ファンレイン少尉が尋ねた。彼は元傭兵のメイジで、系統は『水』だ。豊よりも20歳近く年上であるにも関わらず、副隊長格として不平一つ言わず彼を支えている。そのため豊も彼の意見を非常に大事にし、そして信頼していた。メイジ特有の平民への見下しもしないため、部下からの尊敬も厚い。
彼が平民をバカにしないのは、これまでの実体験でメイジや平民で差別することは不合理であるとわかっていたからだった。
義勇軍に入るメイジの多くは元傭兵で、そうでない者でも平民をバカにするような思考を持つものはいない。もっとも、そうでなくては平民ばかりの義勇軍に入ろうなんて考えもしないであろうが。
閑話休題。
ファンレインの質問に、豊は即座に答えた。
「村人から情報収集する班は6人、翼人の所へ行く班が2人、そして居残りが2人だ。班の呼び出し符号は便宜上、1班、2班、3班としておく。」
すると、またもやファンレインが質問をした。
「班の名前はそれで良いでしょうが、翼人に会いに行くのに2人では危険ではないですか?相手は強力な先住魔法を使えるような連中ですよ。」
彼の言葉に同調するように、何人かが頷いた。だが、豊は表情一つ変えずに言った。
「常識的に考えればそうだが、今翼人と村人との関係は最悪だ。そんなピリピリしている時に、謎の武装集団が何人も押しかければ逆に相手の不信感や警戒感を煽るだけだ。だったらむしろ少人数のほうが良い。それにある程度のリスクを怖がっていては、いつまで経っても前には進めないぞ。」
その言葉に、隊員のまとめ役であるファンレインがまず賛成した。
「わかりました。隊長がそこまで言うなら自分は反対しません。」
「ありがとうファンレイン少尉。・・・他に意見はないか?」
豊が10人の顔を見たが、誰からも意見はなかった。
「ようし。それじゃあそれぞれの班のメンバーを決めておく。まずファンレイン少尉、1班の隊長を頼む。」
「了解!!」
「よし。それから残る1班のメンバーだが、ワレン兵曹長、セルジュ二等兵曹、ワトソン二等兵曹、クラーク三等兵曹、ヘイズ一等兵とする。それで良いか?」
「「「「「「了解!!」」」」」」
言われた6人は敬礼をした。
現地採用兵であり、実戦を一回しか経験していないヘイズ一等兵以外は、全員3回以上の実戦経験がある、言わば戦いに大分慣れ、勘を掴めてきた人間であった。このメンバーなら自分がいなくても大丈夫だと豊は考えていた。
「それじゃあ、次に居残りの3班だが、これはエドワルド一等兵曹とウィルソン兵長に頼む。」
「「了解!!」」
エドワルドはメイジではないが元傭兵で、戦歴は豊富である。またウィルソンは現地採用兵だが、成績優秀者であった。この2人なら指揮所を任せ、なおかつテファやマチルダを守ることも出来るだろうと豊は判断した。
そして残るは翼人の村へ行く班だが、これは他のメンバーが既に決まっているので、自ずとわかる。隊員たちの視線が残された1人の兵士へと行く。
「残る俺と一緒に翼人の村へ行くのは、もうわかっていると思うが、トレバー二等兵、お前だ。」
指名されたトレバーは、幼さの残るあどけない感じの兵士だった。というかはっきり言って子供である。それもそのはず。彼の歳は15歳。すなわち志願制限ギリギリの少年兵だった。
「じ、自分がでありますか!?しかし、自分にはまだ実戦経験はありません。どなたか、経験のある方をあてるべきでは?」
彼は緊張した声で、表情を驚愕のものにして言った。
「実戦経験が無いのは誰だって最初はそうさ。大丈夫、何もドンパチしに行くわけじゃないんだ。俺の指示にしっかり従えばそれで良い。他の皆も別に良いだろ?」
豊とトレバーを除く8人は一様に頷いた。他のメンバーが賛成したとなれば、下っ端のトレバーに反論の余地などなかった。
「そういうわけだ。それじゃあ、このメンバー構成で行く。各員装備を整えて、30分後に行動開始とする。それから、今回の敵だが、名前を付けたほうがわかりやすいので、コードネームを付けておく。見えない敵ということで、「ファントムメナス」だ。良いな?」
「「「了解!!」」」
「それでは、各員出動準備!!」
豊の命令を受けて、9人の兵士たちは一斉に動き始めた。
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