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力を持つ者として
 トリステイン魔法学院教師であったジャン・コルベールが、王室から新設の科学研究所所長に任命されたのは、アルビオン解放戦争が終ってから1ヶ月ほどたった時だった。

 最初、自分はそのような器でないとして辞退しようとも考えた彼であったが、才吉や才人らの強い勧めもあって、引き受ける事にした。

 校長のオスマンも、「教師が減るのはちとキツイが、君が全力を発揮できるのなら、私は温かく君を送り出そうと思う。」と言って彼を送り出した。

 魔法が広く使われているハルケギニアでは、工学、化学、物理学などの研究が地球ほど進んでいなかった。あっても極初歩的な物に限られていた。

 その状況を大きく打破したのが、才人を始めとする異世界から飛ばされてきた人間で構成された義勇軍の存在だった。彼らは魔法を一切使わずに空を飛ぶ飛行機や、高性能の大砲を搭載して地面を走り回る戦車などで、トリステインとアルビオン(王室軍)を勝利に導いた。

 彼らの扱う科学という力を活用せねば、ハルケギニア世界の発展は有り得ない。そう判断したトリステインのアンリエッタ女王と、ウェールズ国王によって、今回両国に科学研究所が設けられることとなった。

 コルベールが科学研究所の所長に任命されたのは、彼が魔法使いには珍しく、科学を研究している人間であったからだ。

 その他に集められたスタッフたちは、いずれもハルケギニア世界にはめずらしい科学やそれに近い物を研究していた人間たちだ。魔法が主流のこの世界において異端者扱いされてきた彼らに、トリステインとアルビオン王室からの王命によって召集がかけられた。

 集められた人間は総勢10人。この10人が後に、トリステインとアルビオンを科学先端国に押し上げる原動力となった人々だった。

 研究所が設立されて1日目、その研究所を才吉たちが訪れた。開設のお祝いを言うのと同時に、あることを伝えるためであった。



「コルベール先生、いや今は所長でしたね。研究所開設おめでとうございます。我々は心から祝福いたします。また今後も出来うる限りの支援をあなた方に行なっていこうと思っております。」

 まずは社交礼儀で挨拶する才吉。

「ありがとうございます。科学が進歩した世界から来たあなた方の支援を受けられる事は、こちらとしても大変助かります。」

 頭を下げて礼を言うコルベール。

「今は来月の観閲式に備えなければならないので余裕がありませんが、来月には落ち着くでしょう。その時には、あなたを地球へご案内したいと我々も考えております。」

 この言葉に、コルベールは色めきたった。

「本当ですか!?それは今の私にとって、何よりも喜ばしい事です。」

「私としても、あなたのこれからの研究に大いに期待しています。それがあなた自身にとっても最善の道であるとも考えております。」

「そうですね・・・」

 コルベールは言葉に詰まった。かつて自分が犯した罪と、アニエスから言われた事を思い出していたのだ。

 あの時から時間は経っているが、未だに彼女とは和解していないし、また彼自身自分が採れる最善の道に疑問を感じていた。

 コルベールがそんな事を考えていると、才吉が話題を変えた。

「ところで、実は今日こちらに参ったのは、お祝いを述べさせていただくのもありますが、実は今後あなたがた科学を扱う人々に是非とも見ていただきたいものがありまして。」

「ほう。一体それは何でしょうか?」

「見ていただければわかります。おい才助に才人!例の物を準備しろ!」

 才吉は2人に声をかけた。この時、才助は映像投影機を持ち、また才人は同様に再生用のパソコンを抱えて持っていた。

 2人は手早くコードを繋ぎ、電源を入れ、さらに部屋の窓際のカーテンを全て閉めて映写の準備にかかった。その作業も2人にとっては手馴れた物であるから、数分で完了した。

「曾爺ちゃん、出来たよ。」

「おう。それではみなさん、座ってこちらのカーテンの方を見てください。」

 才吉に言われて、コルベールを含めて研究所の全ての人間が、映写された映像が映るカーテンに向かって座った。

「じゃあ才人、始めてくれ。」

「オーケー。」

 才人はパソコンを操作して、映像を投影した。

 この段階で何人かの研究者は、「おお!」とどよめいたが、もちろん才吉らの目的はこんなことではない。重要なのはこれから彼らに見せる映像の内容なのだ。

 ちなみに、これまでに才吉たちは、数本の映画などを持ち込んでこちらの人間に見てもらったが、どういうわけかちゃんと中で流れる言葉は理解されていた。しかも、英語、フランス語、韓国語、どんな言語で流しても理解された。

 そういうわけで、字幕こそ読めないものの、ハルケギニアの人間が地球製の映像を見るのにはなんの不都合もない。

 そして画面にタイトルが映し出された。そのタイトルは「原子爆弾の実相 広島・長崎」

 この作品は、才吉や才人らが、これまでに放送されてきたN○Kやその他のテレビ会社のドキュメント番組を無許可で編集した物であった。思いっきり著作権を無視しているが、ここは異世界なのでそんなことは関係ないのだ。

 映像が始まると、まず映し出されたのは原子爆弾のメカニズムと、開発の経緯、さらに投下までの経緯(いきさつ)に関する物だ。

 このあたりの映像は、はっきり言えば地球の歴史を習った事などないコルベール他の人間たちには、理解できない物が多かった。ただし、この原子爆弾なるものが科学によって作られた兵器であるということだけは理解してくれたようだ。

 そして場面は広島と長崎への原爆投下に映る。

 凄まじい、太陽がもう一つ現れたかのような火球の発生と、それとともに巻き上がる巨大なきのこ雲。さらにCG映像ではあるが、街が一瞬にして吹き飛ばされていくシーンに、コルベールたちは息を飲んだ。

 広島、長崎というトリスタニアよりも大きな街が、全長5メイルもない爆弾1発によって灰燼に帰してしまうなど、ハルケギニア人の常識からすれば考えられないことだ。

 驚く彼らを他所に、映像はさらに進んだ。続いて映し出されたのは、原子の火を浴びた人々の映像、厳密には写真や被爆者が遺した絵であるが、それを見ただけで何人かの人間は目を背けた。中には失神する者も出た。

 場面が代わり今度は放射線に関するシーンに移ったが、それを見て、というより解説を聞いてコルベールたちは再び驚愕せざるを得なかった。人や街を汚染し、死ぬまで体を蝕み続ける放射線障害など、もはや言葉も出ない物だった。

 映像が全て終わった時、表情を変えず平静でいられたのはコルベール1人だけだった。その他の研究者は呆然としたり、泣いたりしていた。

「これはなんと言ったら良いのか・・・正直恐ろしいの一言だ。あなた方の世界の科学はあのような悪魔を生み出したというのですが?」

 コルベールが才吉に問い掛ける。

「ええ。この映像の内容はその多くが再現映像、つまり後から造った映像ですが、まぎれもなく、60年前に起きた事実です。幸いにも、この後使われることは有りませんでしたが。」

「むう。それであなたはこれを我々に見せてどうしろと・・・まあ大体の見当はつきますが?」

「ええ。私達はあなたがたに理解して欲しかった。科学、いや魔法にも通じる事でしょうが、その力の使い方を謝れば、生きる物をとんでもない地獄へ貶める可能性を含んでいる事を。力は、人間の心ひとつでどう使われるか決められる事を。」
 
 才吉が言っているのは、当たり前のこととは言える。しかし、才吉の知っている人間はこれを知りながら、幾度となく愚かな間違いを犯してきた。地球を数回壊滅させられる核と、地球自身を危機にさらしている環境破壊がそれである。

 才吉、才人もふくめて、それを知っている人間の共通の考え。それは「地球での失敗をハルケギニアに持ち込まない。」ということだ。だから、今回原爆の映像を見せて、コルベールたちにそれを知っておいて欲しかったのだ。

「コルベール先生、我々の過ちを、この世界で繰り返さないでください。」

 すると、コルベールは驚いた。

「わかりました。いや、そもそも私は人々のためにしか科学や魔法を使わないと肝に命じています。あなた方の想いを決して裏切りません。またここの人間にも、それを周知させることをお約束いたします。」

 コルベールは、強い意志でそう言い切った。



 この翌週に書き記されたトリステイン科学研究所の規範には、永久条項として次のような物が存在した。

「科学や魔法といった力をを扱うものは、人としての矜持と道徳を決して失ってはいけない。」
 
 今回はコルベールネタでしたが、作者の文章能力が追いつかず、なんとなく中途半端な長さになってしまいました。すいません。

 御意見・御感想お待ちしています。

 次回は・・・考え中です。タバサ編にするか、皆で地球に行く話にするか迷っています。


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