結婚 6
開かれた礼拝堂の扉から入ってきたのは、もちろん花嫁のルイズである。ちなみに、こちらの世界にはキリスト教はないから、当然結婚式の仕方も少しばかり違う。
才人は先に礼拝堂で花嫁の到着を待っていたのであるが、やってきたルイズを見て一瞬唖然としてしまった。それほどまでに、この時のルイズは美しかった。以前着ていた魔法学院の制服姿や、日常的に着ている代王のドレス姿もそれなりに綺麗で可愛かったが、今回のウェディングドレス姿はそのどれよりも彼女の美しさを引き立てていた。
両親と2人の姉に付き添われてやってきた彼女は、顔を赤らめながら才人と対面した。
「ど、どうかしら才人?似合ってるかしら?」
ルイズに言われて、才人は我に帰った。
「え!?ええと・・・その・・・ごめん、気の利いたセリフが思い浮かばない。だから、単刀直入に言う。すっごく似合ってる。それと、すごく綺麗だよ、ルイズ。」
そう言って才人も顔を赤らめた。
「あんたらしいわね・・・けど、ありがとう。才人もその制服すっごくかっこいいわよ。」
ルイズも才人の制服姿を誉めた。もちろん、これは彼女が心の底から感じたことである。純白の制服に身を包み、勲章を胸元につけた才人の姿は彼女にそう思わせるに充分だった。
「そ、そうかな・・・」
「うん・・・」
2人は互いに顔を見合わせて、そして少しばかり緊張も解けたのか、笑った。
そんな2人に、マザリーニ枢機卿が声を掛ける。
「それでは、式を始めたいと思いますが、お2人ともよろしいですか?」
「「はい!」」
2人ははっきりと答えた。その声によってそれまで礼拝堂の中で、バラバラになってお喋りなどをしていた参加者たちが集まる。そして、2人の結婚式が始まった。
式は滞りなく進んでいった。マザリーニ枢機卿が二人の前で祝福の言葉を読み進め、二人は黙ってそれを聞いていた。
最後の言葉を読み終えると、マザリーニは軽く咳払いをした。
「オホン・・・それでは、花婿、平賀才人に問います。あなたは、花嫁、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを永遠に愛することを誓いますか?」
もちろん、才人の答えは一つだ。
「誓います。」
「よろしい。では、花嫁、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに問います。あなたは花婿、平賀才人を永遠に愛することを誓いますか?」
彼女の答えも、才人と同じく一つだけだった。
「誓います。」
2人の強い意志を含んだ答えに対して、マザリーニは満足気な笑みを浮かべて頷く。そして式を進めた。
「それでは、指輪の交換を。」
こちらの世界でも、結婚指輪を交換するという習慣があった。ハルケギニアの結婚指輪は夫が妻になる者へ、そして妻が夫へなる者へそれぞれ準備しておいて送る形式だ。(オリジナルの設定です。)
そのため、才人とルイズはあらかじめ、それぞれ相手に渡す指輪を買ってあった。もちろん、ルイズは王宮の中から簡単には外へと出られないから、才人と一緒に買うことは出来ず、そのため2人は別々に指輪を買い込んでいる。
才人とルイズは向かい合うと、この日のために準備しておいた指輪の入った小箱をそれぞれ取り出し、蓋を開けた。
周りの出席者は、2人が一体どんな指輪を準備していたのか興味深々といった態度で見ていたが、すぐにその中身を見てほとんどの人間が驚きの声を発した。
なんと、2人が出した指輪はどちらもシンプルな銀の指輪であったからだ。それは平民から貴族になったばかりの才人はともかく、現在は王位についているルイズにはあまりにも似つかわしくなかった。
もっとも、当の本人たちは全くその視線も、そして相手がそのような指輪を出してきたことも気にはしなかった。
2人は互いに無言のまま、指輪を交換した。才人がルイズの左手の薬指にまず指輪をはめ込んだ。つづいて、ルイズが才人に対して同じように指輪を嵌めた。
これで指輪交換は終わりである。この瞬間、2人は正式に夫婦となったことを、目に見える形で示した。
「それでは、最後に誓いのキスを。」
現代日本では定番となっているこの習慣も、ハルケギニアにはちゃんとそんざいしていた。マザリーニ促されて、向かい合ったままの2人は、緊張と興奮から上気していた顔をさらに赤くしつつ、お互いに一歩前に出た。
そして、才人はルイズの背中に手を回して自分の顔をルイズの顔に近づけた。ルイズもそれにあわせて目を瞑った。
2人の顔の距離が徐々に縮まり、間もなくその唇が合わせられた。
そのまま数秒間、沈黙がその場を支配した。ようやく才人の顔がルイズの顔から離れると、彼は一言こう呟くように言った。
「ルイズ、愛してる。」
その言葉に対して、ルイズも満面の笑みを浮かべて言った。
「私も、愛してる。才人、これからも私のことしっかり守ってね。」
「ああ。」
その瞬間、周りから一斉に黄色い歓声が飛んだ。
「おめでとう!!」
「お幸せに!!」
「羨ましいぞお二人さん!!」
祝福の声を浴びながら、2人は気恥ずかしそうにしながらも、感謝の想いを込めて参加者たちに頭を下げる。
結婚式はこうして大成功で終わり、その後ささやかな祝宴が行われた。才人とルイズの2人は式に参加した親族や友人たち1人1人に挨拶して回った。
その中で特に祝福してくれたのは、やはり2人にとっての友人たち、魔法学院のメンバーだった。
「おめでとう才人!!」
「おめでとうルイズ、末永くお幸せに。」
キュルケ、ギーシュ、モンモランシー、さらには今回菅野中佐と結婚したシエスタ、才人にとってはまだ出会って1年ほどしかないとはいえ大切な友人たちだ。そしてルイズにとってはライバルでもあり、悪友でもあり、親友でもある。
このメンバーが集まると、それこそほんの数ヶ月前までの光景が再現される。
例え肩書きは大きく変わっても、その中身までは変わることはない。ルイズも代王としてではなく、魔法学院の同級生として彼らと接する。
用意されたワインを飲み交わし、料理に舌鼓を打ちながら、お喋りにも花が咲く。
そんな中、ギーシュが才人に声を掛けた。
「そういえば才人?」
「うん?なんだ?」
「どうして君もルイズもあんなシンプルな結婚指輪にしたんだい?送るならもっと良いのを買えば良かったのに。」
すると、才人は笑って答えた。
「あれで良いんだよ。俺もルイズも、確かに結婚は出来た。けど、まだ本当の意味で夫婦になれたわけじゃない。だから、この指輪はそれを自分たちに自覚させる意味があるんだ。これは、本当に2人一緒に暮らせるまでの間の仮約束・・・そういう意味を込めたんだ。」
「そうか・・・そう言えば結婚では出来ても一緒に暮らせるわけじゃないんだね。」
ギーシュが同情の言葉を掛けた。
「けど、いつか一緒に暮らせるようになって、誰にも気兼ねすることなく俺たちが結婚したことを言えるようになったら、俺はルイズに本当の意味での結婚指輪を送るんだ!約束する。」
その言葉に、ルイズが感無量といった顔をする。
「才人・・・ええ、期待してるわ。それに、その時は私もあんたにちゃんとした指輪を送るんだから。」
「ああ。さ、皆。仮初の結婚式だけど、今日は楽しんでいってくれ。」
才人の一言で、皆の表情がさらに明るいものとなった。そして宴はより熱く、皆の心に刻まれるものへとなった。
ちなみに、才人とルイズがこの約束を果たすこととなるのは、2年後のことだ。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。