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結婚 1
 ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。トリステインでも名高い公爵家であるヴァリエール家出身である彼女は、幼少の頃よりアンリエッタ女王からの信頼が厚く、彼女(アンリエッタ)がアルビオン王室へ嫁いで以降のトリステイン王室王位(厳密には代王位)を任された。

 後にハルケギニア全体を巻き込んだハルケギニア戦役において、当初は絶望的と言われた状況を見事切り抜け、トリステインに勝利をもたらし、聖地の謎を解き明かしてエルフとの和睦の切欠を掴み、さらに新たに発見されたロマノフ公国との友好関係を結んだことにより、貴族、平民問わずに国民からの支持を集めた彼女が正式な王位に就いたのは極々自然な成り行きと言えた。

 そんな彼女とともに有名となったのが、異世界から彼女の元に償還された平賀才人である。地球からやってきた人間を中心にして編成された『東方義勇軍』の兵士としてトリステイン、ひいてはハルケギニアのために戦い、タルブ防衛線、アルビオン解放戦争、ハルケギニア戦役で多大な戦果を挙げた。そして最終的に公爵中将まで昇りつめた彼は、かなり早い時期にルイズの夫としてトリステイン王室へ入っている。

 公式に発表された時(結婚から2年後)は、トリステインを救った王と戦士である2人の結婚、才人の王室入りに対する国民や貴族からの反対は特になかったが、結婚に至るまでと、また結婚してからしばらくの間は2人にとって苦しい時期が続いた。

 今回はそんな2人の結婚前後の物語である。



 ルイズが王宮へ入った直後の頃、彼女の心は穏やかなものではなかった。慣れない公務に加えて、先日才人と婚約したにも関わらず、彼との結婚の話が全く進んでいないのが原因だった。王宮内の一部重臣から、たとえ現在は男爵であるといえど、一時的に平民出身者を王室へ名を連ねさせることに批判が出たのである。(この時点では、ルイズはあくまで一時的に王位に就くだけで、アンリエッタとウェールズに2人目の子供が生まれたらその子が正式な王位に就く予定だった。)

 前女王のアンリエッタや、アルビオン国王のウェールズは賛成してくれているにも関わらず、もともと伝統と名誉を重んじるトリステイン貴族の性格が、ルイズと才人の結婚を阻む形となった。

 さらに、王宮へ入ったことで彼自身と会う機会さえ激減してしまった。そんなわけで、王宮へ入ってからしばらくの間、彼女は溜息を日に何十回とつく日が続いた。

「はああ・・・今日も才人と会えない・・・」

 執務用の机に突っ伏して溜息をつく彼女の姿が、この時期マザリーニ枢機卿や、王宮で働く使用人からもよく見られた。

「なんで才人と結婚できないのよ・・・私たちはちゃんと親の許可を得て婚約したのよ・・・」

 2人とも相思相愛であるのに関わらず、階層や立場の差が2人の前に大きく立ちはだかっていた。

 晩年、彼女が書き記した回顧録には、この時期のつらい心境がかなりのページを割いて書かれることになる。それだけ心に残るほど、彼女にとってはつらかったようだ。

 一方ルイズの相手である才人の方はと言うと、この時期義勇軍の任務で飛び回っていた。彼自身は航空隊のパイロットという肩書きであったが、それ以外にも連絡任務や書類の輸送任務、さらに多忙のためアルビオンから動けない才吉総司令官に代わっての視察など、やることはかなり多かった。

 そんな彼は、ルイズと会えないことを悲しんだり嘆いたりすることは決して人前ではしなかった。だが、時折人目を憚るように、ルイズと2人で撮った写真を納めた手帳を愛おしそうに見ている姿を、同僚(シエスタ)や上官から何回も見られている。

 また他の任務が忙しく、王宮への連絡任務に就けない時などは、大いに落胆している姿も見られている。

「今日もルイズに会えない。」

 そう言って一人、何かを想いつめているようなことが何度もあった。

 使い魔時代には結構喧嘩していたにも関わらず、2人の愛し合いっぷりはこれでもかというほど強かった。あまりに強いもんだから、後に恋愛ドラマにまでなるのであるが、それは別の話である。

 そんな2人の周りは、2人を早く結婚させたいなとは思っていたが、さすがに相手が政府の大臣では、説得するのは容易なことではなかった。

 だから、たとえば才人の周りの人々、菅野中佐とか才人の生徒であるカルロ上等兵とかシエスタ、相棒のインテリジェンスソードのデルフリンガーなどは、才人を励まそうと色々なことをした。厳密には一緒に酒を飲んで彼の愚痴に付き合ったり、一緒に食事して彼の愚痴に付き合ったり、一緒に遊びに行ってその先々で愚痴に付き合ったり、etc・・・・

 そんな感じで、ルイズが王宮へ入ってからの2ヶ月近くの間、2人はお互いの仲を進展させられないことに悶々とする日々が続いた。

 状況に変化が見られたのは、ロマリアから教皇のヴィットーリオがやって来た時である。彼のトリステイン来訪の目的は、自らの目で異世界の人間が作った『東方義勇軍』を見ることと、そして彼らをいざ聖戦が起きた時に味方へと引き込むことであった。

 最終的にその目的を彼が果たすことはなく、それどころか地球の宗教戦争の歴史を聞いて、逆に自分たちの聖戦について深く考えるようになるのであるが、それは別の話である。

 とにかく、その彼は義勇軍がアルビオン内戦で始祖が賜った王権を守ったことに深い感謝を示した。これは未だに義勇軍に対して侮蔑の念を抱いていた、保守派の貴族たちに大きなショックを与えた。

 また、彼が去り際にトリステイン王宮でした発言が、ルイズと才人の2人に大きく味方するものとなった。

「そう言えば、ルイズ殿下は義勇軍の平賀才人男爵と婚約をしているそうですね。しかし結婚は王宮内で反対が起きているので先送りしていると聞きました。私は別にお2人が結婚しても良いと思いますよ。才人殿は確かに平民の出身かもしれませんが、アルビオンやタルブで類まれなる戦歴を残していますし、神が遣わした『左手』であるのですから。」(ヴィットーリオはスパイ情報によって2人が婚約していることまでちゃんと把握していた。)

 ルイズからしてみれば、言動とその情報収集能力からロマリアの教皇とその使い魔には大いに警戒心を持っていた。また才人からしてみれば、やはりルイズ同様2人のことを大いに警戒していたし、またブリミル教は否定こそしないが、別に信じているわけでもなかった。

 だからヴィットーリオにこう言われることに、ハルケギニア人のルイズはともかく異世界出身の才人はそんなに嬉しくは感じなかった。

 しかしこの言葉によって、政府内の結婚反対を唱えていた重臣たちに変化が起きた。それまで頑なに反対していたのが、賛成、もしくは条件付の賛成に回ったのである。それこそ掌を返したということばが相応しい物だった。

 警戒していた人物の鶴の一声で結婚への話が進展したのは、2人にとって皮肉以外のなにものでもなかったが、取り敢えず結婚できるのだからということで、気にしないことにした。

 こうして2人の結婚は現実味を帯びだした。その事に本人たちはもとより、ヴァリエール公爵や才吉ら父兄も喜んだことは言うまでもない。しかしながら、結婚できることになったといっても、それで全てが良いわけではない。本番はそこからで、王宮では喧々諤々の議論が開始されることとなる。
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