桜花飛行機ー義勇軍航空機調達秘話 上
桜花飛行機は、北海道の十勝平野に本社を持つ小さな飛行機会社であった。社長の大田は日本の衰退した飛行機産業の復活を夢見て、大学の航空工学科を卒業するとグライダー製造会社を立ち上げた。
グライダー製造での業績はそこそこ良く、自信を深めた彼は北海道に工場と飛行場を構えた。さらに動力機の製造と試験に備えてパイロットを雇うべく、遊覧飛行会社も併設した。
しかしながら、たとえセスナ機程度の機体でも飛行機の製造に関しては、やはり後発の小企業に発注がくることなどなく、せっかく拡張した工場も、大企業の下請けで来る部品の製作に使われるという有様であった。
もちろん、大田は積極的に宣伝を行い、さらに実際に自社でセスナ機を設計して機体を造ってみた。しかしながら、それでも注文が来ることはなく、造った機体は自社の遊覧飛行部門で使うしかなかった。
結局これ以降、桜花飛行機が本格的な飛行機を造ることは出来なかった。
「優秀な設計者も、腕の良い工員もいると言うのに、飛行機を造ることさえ出来ないとは。」
大田は何度もそう言ってため息をついた。
会社を立ち上げて10年経っても状況は変わらず、それどころか平成不況のおかげで会社の経営は悪化するばかりだった。せめてものなぐさめは、自社の飛行場を外部に貸し出し、遊覧飛行部門を積極的に活用したおかげで赤字には陥らず、優秀な社員たちを首切りせずに済んだことだった。
そんな桜花飛行機に転機が訪れたのは、ある年の12月のことであった。北海道は例年通り雪に覆われ、大地は白く染め上げられていた丁度その頃、1人の男が訪問してきた。
「はじめまして、社長の大田です。」
大田は突然アポなしでやってきたその男に怪訝な表情をしたが、仕事の依頼と言われては無下に追い返すことなど出来ない。しかも相手はわざわざ東京から冬の北海道にまで来たと言ったのである。
「はじめまして太田社長、私は平賀才蔵と申します。東京で大学の教授をやっておりますが、今年いっぱいで退職する予定です。」
大田は平賀と名乗った男から名刺を受け取りつつ、その顔を見た。確かにその風貌から歳は60代に見える、退職という言葉は嘘ではないようだ。
「今年いっぱいで退職ですか?すると、個人用グライダーか何かの注文ですか?」
最近になって、リタイアしたサラリーマンが趣味にハンググライダーやパラグライダーを始めるという話を耳にしていた大田は、目の前の男もその類だろうと考えてそう言った。
ところが、予想に反して才蔵は首を横に振った。
「いいえ、違います。実は貴社に造って欲しいのはこの2種類の機体です。」
そういうと、彼は鞄から2枚の写真を出した。
写真はいずれもカラー写真で、感じからして極最近になって写されたものらしい。そしてそこに写っていたのは、橙色に塗られたレシプロの複葉機と、優美なデザインのレシプロの単葉機であった。
大田は軍用機に詳しいとは言わないまでも、飛行機を製造している人間であるから、その両方に見覚えがあった。前者は旧日本海軍の93式中等練習機、通称赤とんぼ。後者はやはり旧日本海軍の代表的な戦闘機である零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦であった。
「これは旧日本軍の軍用機ではないですか?ということは、映画撮影用のハリボテか何かを造れということですか?」
日本でも戦争映画を撮る際に、1分の1スケールのハリボテ飛行機を造ることは良くある。大田は彼がそのような機体を造って欲しいのではないかと予測した。
だがまたしても才蔵はその予想を裏切る答えを言った。
「いいえ。実物を造って欲しいのです。」
最初大田は、その言葉が冗談ではないかと思った。個人で本物の飛行機を造って欲しいなどというのはよほどの金持ちでなければ無理である。しかし才蔵は大学教授と言ったから、そんなの無理であろう。
さらに、大田の度肝を抜いたのが才蔵の次の言葉であった。
「なお、複葉の練習機は8機、戦闘機の方は4機造っていただきたい。もちろん、飛んで戦えるだけの性能をお願いします。」
「ちょ、ちょっとお待ちください!一体どういうことですか、レシプロとはいえ、10機以上の軍用機を発注するなんて、正気とは思えません!しかも戦えるだけの性能だなんて、一体何に使うつもりなんですか?」
いくらんでも個人で10機以上の飛行機を発注するなどバカげている。これがせめて映画会社とか、アクロバットチームとかならまだわからなくもない。だが、相手はどう見ても普通の一般人である。その彼が軍用機をまとまった数注文することに、大田ならずとも誰だって不審に思うに決まっていた。
さらに才蔵は爆弾発言を続けた。
「もちろん戦うためです。」
もはや大田は驚くことが出来ず、呆然としてしまった。
「あなたはテロリストか何かですか?」
すると、才蔵は笑った。
「テロリストではありませんよ。それに戦闘に使うのは確かですが、誰もこの日本、さらに大きく見れば地球上での戦闘に使う気は毛頭ありません。」
もはや大田には理解不能だった。
「地球じゃなければどこで使う気なのですか?」
「まあ信じられないでしょうけど、実は異世界なんです。」
大田はその言葉に、口をあんぐりと開けてしまった。
「異世界?」
「ええ、実はですね・・・・」
才蔵はハルケギニアと、そこで編成されている『東方義勇軍』について説明した。
「・・・というわけなんです。」
才蔵が話を終えたが、簡単に信じられる話ではなかった。現代日本において、見ず知らずの人間に、いきなり異世界の話を聞いて信じるような人はよっぽどのお人よしである。
「いきなりそんな話を言われても、こちらとしては簡単に信じるわけにはいきません。」
だが才蔵はそう言われる事など百も承知であった。
「もちろん、信じられない気持ちはわかります。ですからこちらとしても、そちらの人間を異世界へご案内してもこちらとしては構いません。」
「はああ・・・そう言われましても、私だけでは決めかねます。役員会議に掛けませんと。」
「それは当然でしょうね。ただし、受注さえしていただければそちらの言い値で機体を買い取りますよ。ただし、この話は社内以外では他言無用で願います。」
その言葉に、大田はすごく惹かれたが、上手い話に裏があるということもしっかりとわきまえていた。
結局大田は、この時は明確な回答を避けた。ただし、本格的な飛行機をまとまった数で造れるというのは、大田にとって魅力的であることにはかわりない。
彼は急いで役員会議を開いて、この申し出を受けるか否かを協議した。もちろんあまりにも突拍子のない話に、会議は紛糾したが、才蔵は写真や映像資料、さらには前金で払う用意があるという言葉を残して帰っていったので、冗談で済ませる話でもなかった。
最終的に、若手の社員を派遣して彼の言うことが正しいかをまず確かめることとなった。
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