義勇軍VS空中装甲騎士団 5
才人たちとわかれたシエスタと菅野の2人は、厨房でマルトーらと会っていた。案の定、マルトーやかつてのシエスタの同僚であるメイドたちは、いきなりやってきた義勇軍の制服を着た彼女の姿を見て驚いた。
さらに傍にいた菅野の腕に抱きついて、「私の夫です。」なんて言ったもんだから、厨房は一時パニックになってしまった。
幸いにも、指揮官として場を纏めるのが上手い菅野のおかげで、すぐにその場は納まった。
その後は、マルトーらによる質問攻めとなった。最初は若い男たちからは白い目で見られていた菅野も、彼らと話すうちに認めてもらえた。
そんな感じで、場が和み、シエスタはかつての同僚たちとキャッキャワイワイとお喋りに興じ、菅野がマルトーら男性スタッフらと机に座ってワインを酌み交わし始めた頃、外のほうが騒がしくなってきた。
「なんだ一体?」
「あ、俺見てきます。」
マルトーの言葉に答えるように、一人の若いスタッフが厨房を出て行った。そして彼は3分後に血相を変えて帰ってきた。
「た、大変です!!あのクルデンホルフの竜騎士団と義勇軍の飛行機が戦うそうです!!」
それを聞いて、当たり前のことだがシエスタも菅野も驚く。
「直さん、もしかして才人さんたちが?」
直さんというのは、シエスタがプライベートで使う菅野の呼び方だ。
「他に考えられんよ。」
シエスタの言葉に答えるやいなや、菅野はコップを置いて上着を着て、帽子を被って立ち上がった。
「行くぞ、シエスタ二飛曹。」
「はい!」
2人は唖然とするマルトーたちを差し置いて、軍人モードバリバリで厨房から出ていった。
2人が建物の外へ出ると、今まさに2機のゼロ戦が城壁外の草原から離陸し、上昇していくところだった。
「あら、飛んじゃいましたね。」
「ああ。」
2人は上昇しているゼロ戦をただ眺めるしかなかった。今から飛び立ったところで間に合いあわないのは目に見えていた。
「大丈夫でしょうか?」
シエスタが心配そうに2機を見つめ・・・はせず、彼女が見たのはゼロ戦と戦うために同じように上昇を始めた空中装甲騎士団の方だった。
「才人さん、最近は大分冷静になりましたけど、頭に血が昇って実弾を使ったりしないかしら?」
すると菅野が笑いながら言った。
「まあ才吉さんや才助さんがしっかり教え込んでいるからさすがにそれはないだろう。しかし、やられるあの竜騎士たちは本当に気の毒だな。・・・お、空戦に入るぞ。」
才人は飛び立つと、列機であるカルロ兵長に無線で支持する。
「いいかカルロ、俺の後ろにしっかりと付いて来い。竜のスピードじゃこの零戦改には追いつけるはずはないけど、手加減はしてこない。まぐれでも魔法を喰らったら大変だ。無理に攻撃をする必要はない。とにかく、今回は最後まで無事でいることだけ考えておけ。」
「了解。」
少し緊張交じりの威勢の良い返事が、才人の耳に入ってきた。
最初才人は自分一人で勝負を受ける気だった。しかしカルロが自分は才人のパートナーであるから絶対についていくと言って聞かず、やむなく連れてきた。
カルロはハルケギニアの現地採用パイロットの中では優秀である。しかし、実戦経験はない。一応義勇軍内で行う模擬空戦とか、マンコティア隊や竜騎士隊との共同演習は一通りやってきている。
だが今回の相手は演習とは違って手加減しないはずだ。こちらが実弾を使わない以外は実戦同様と言って良い。だから才人は先ほどのように、自分の防御を優先するよう念を押しておいた。
「さあ、お客さんが来たぞ。」
見ると20騎近い竜が上昇してくる。才人たちは彼らを待つために、上昇してから魔法学院の上空でグルグル旋回を続けていた。
「使う機銃は模擬弾を積んだ2挺だけだぞ、間違えるなよ!」
「わかってます。」
零戦改の武装は主翼に備えられた4挺の12,7mm機銃である。この内2挺には緊急時いつでも使えるように実弾を装填することが義務付けられている。しかし残る2挺には通常弾がないか、演習用の模擬弾が装填されている。
相手は本気で魔法を撃ってくるだろうが、才人らには人を殺す気など毛頭ない。12,7mm機銃弾は人の体をバラバラにするほどの威力があるのだ。だから今回使うのは模擬弾が装填されている2挺のみにし、それを何度も確認する。
そして2機が戦闘準備を完全に済ませる頃には、相手はほぼ同高度に達していって。
「ようし、戦闘開始だ!!行くぞカルロ!!」
「はい!!」
才人はスロットルを押してエンジンの出力を最大にした。カルロも少し遅れてほぼ同じ動作をする。それまでグルグル旋回を続けていた2機は、水平飛行に移行すると、一気に空中装甲騎士団目掛けて突撃を開始した。
一方、2機と向かい合う形で飛んでいた空中装甲騎士団の騎士たちは、隊長以下ほぼ全員が戦いの行方に楽観していた。確かに彼らも『東方義勇軍』の戦いについては伝え聞いていた。しかし、やはり平民から構成されている軍隊ということが、彼らの判断力を狂わせていた。
人間中々変わるのは難しい。例えそれが自らに不利益なこととなっても、自身の中にある価値観を捨て去ることは容易ではない。そして大概、そうした古い価値観のみに固執する者はなんらかの代償を支払わされることとなるのだ。
「速い!!」
装甲騎士団の隊長は、まず向かってくるゼロ戦の速度に驚かされた。
義勇軍が王軍の協力の下で行った速度計測では、火竜、グリフォンなどの最高速度はどんなに出せても200kmが限界と判断されている。また速力でそれらに勝る風竜でも500kmが限界で、さらにそのスピードを出せるのは相当なベテランのみと結論付けられた。
今回装甲騎士団の乗っている竜はいずれも火竜で、部隊全体での平均飛行速度は150km出るか出ないかだった。対して零戦改の最高速度は620km。巡航速度も415kmである。はっきり言ってスピードではお話にならない。
そしてスピードの差は、騎士たちの目測を誤らせた。冷静さを取り戻し、ゼロ戦とすれ違う瞬間に攻撃をかけようとした騎士もいたが、竜のブレスも、騎士自身が撃った魔法もゼロ戦が通り過ぎた空に、空しく放たれただけに終わった。
その間に才人とカルロは装甲騎士団の後ろに出ると、急横転して最後尾の竜に狙いを定めた。
照準気のど真ん中に目標を捕捉し、間を置かずに2人は機銃の発射ボタン(零戦改は機銃の発射装置をボタンに変更している)を押した。
ドドドド・・・・
重々しい発射音を轟かせ、大気を切り裂いて、機銃弾が発射された。
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