義勇軍VS空中装甲騎士団 4
噂をすればなんとやら、才人ギーシュのもとへやってきた少女こそ、クルデンホルフ大公国からの留学生であり、その大公家の娘であるベアトリスであった。
その姿を見て、ギーシュは顔を死人もびっくりなくらいに蒼くしていた。一方の才人は噂していた張本人が現れたことに少しばかり驚いたものの、それと同時に少しばかりうんざりする気もした。
なんでそんな気持ちになったかといえば、それはベアトリスを見て一瞬の内に彼女が生まれを鼻にかけて自慢し、威張り散らすような、言わば性質の悪い貴族の典型であることが直感的にわかったからだ。
顔と容姿はそれなりに可愛いのだが、才人とギーシュを見るその表情はまるでいたぶる獲物を見つけたような憎たらしい笑顔であった。さらに、そばに2人の少女が子分よろしく、くっつくように立っているのも才人には気に入らなかった。これではどこかの安っぽい学園ドラマに出てくるような、意地悪生徒会長そのものである。
もっとも、だからといっていきなり嫌味で返すほど才人も子供ではなかった。ハルケギニアに来たばかりのころならそうしてしまったかもしれないが、今は才吉たちから軽挙妄動は絶対にしてはいけないと厳しく教えられたこともあり、とりあえず理性を保つことができた。
「ええと、もしかして君がベアトリスさん?」
すると、ベアトリスは才人をバカにするように言った。
「普通人に名前を聞く前に、自分の方から名乗るのが礼儀というもの。そのくらいのことも知らないなんて。」
その言葉にムッと来る才人だったが、なんとか抑える。
「失礼しました。自分は平賀才人。見てのとおり、『東方義勇軍』の軍人です。」
才人が名乗ると、ベアトリスは再び人をバカにしたような態度で言う。
「『東方義勇軍』?ああ、確か平民で構成された田舎軍隊よね。そんなところの兵士がこの由緒正しいトリステイン魔法学院に入り、なおかつ我が国に対する侮辱の言葉を平然と言うなんて、いったいどういうつもりかしら?・・・それと、私がそのクルデンホルフ大公家のベアトリスよ。」
「そうよ、以後失礼のないようになさい。」
「本来ならあんたのような下賎な人間が口を聞けるようなお方ではないのよ。」
まるで挑発するかのように言うベアトリス。さらに傍につき従う少女たちも彼女を持ち上げるかのように発言をする。外国出身のベアトリスならともかく、トリステイン人なら『東方義勇軍』の実力を知っているはずであろうが、彼女に対する気兼ねからか全く否定しようとしない。
才人は目の前の少女たちに腸が煮えくり返るような気持ちになるが、なんとか堪える。ここで怒っては負けである。そこで、彼は嫌味には嫌味で返すことにした。
「失礼しましたベアトリス殿下。先ほどの非礼をお詫びいたします。いやしかし、あの程度のお喋りを聞きつけるなんて、なかなか優れた耳をお持ちのようで。クルデンホルフの貴族は平民が言う戯言一言一言に気を配られるようで。しっかりと覚えておきます。」
才人は敬礼しながら努めて冷静に言った。それが逆にベアトリスたちにはストレートに言うよりも憎たらしく思えた。そして才人の言葉を聞いた瞬間、ベアトリスたちはまるで時が止まったかのように口をあんぐりと開けて固まった。
そしてギーシュと才人の部下であるカルロ兵長はその様子を戦々恐々の気持ちで見守っていた。
才人の予想外の言葉に一瞬固まってしまったベアトリスたちであったが、すぐに復活した少女たちが顔を真っ赤にして才人に向かって言い始めた。
「な、なんて無礼な!!」
「自分が言った言葉の意味がわかっていますの!?」
そんな中で、ベアトリスはしばらく何事かぶつぶつ言っていた。
「べ、ベアトリス様?」
少女の1人がベアトリスの様子に気づいて恐る恐るたずねた。
「フフフ・・・どうやら貴族に対する礼というものを教えてあげる必要がありそうね。」
本気で怒りを含ませた声で言うベアトリス。
「へえ、どのように?」
才人が顔に笑みを浮かべて聞いた。
「あなたは曲がりなりにも軍人でしたわね、だったら戦いの場で教えてあげるというのが礼儀というもの。私の連れてきた空中装甲騎士団がお相手してあげます。それにさきほど飛んでいた鉄の竜はあなたのものでしょ?」
その言葉に、才人は笑いを堪えるのに必死だった。
なんとか本心を押し込めて、才人は答えた。
「良いでしょう。では20分後に上空でその貴族の教育とやらを見せてもらいましょうか。ああ、手加減は無用でよろしいですから。」
そう言い切ると、才人は彼女に背を向け、会話している間に距離をとったギーシュとカルロの方へ向けて歩き始めた。
「さ、才人。君はなんということをするんだ!確かにベアトリスは気に入らん奴だが、相手は小国とはいえ独立国の姫殿下なんだぞ、たとえ勝ってもあとで外交問題になりかねんぞ。」
ギーシュがまくし立てるように言った。
「大丈夫だよ。まあ確かに俺が言ったことも失礼だったかもしれないけど、相手がトリステインの属国のようなもんなのは事実だし。それなりにあそこまでバカにされて黙っていろって方が無理だって。」
才人が平然と言う。それにいざという場合には、切り札をちらつかせればベアトリスは黙るはずだった。
「それにしても、どうしてギーシュはあいつにそんなビクつくんだ?いくら姫様だからって、相手は小さな国なんだぞ?それに俺のことだって知っているだろ?・・・まさか、何か弱みでも握られているのか?借金とか?」
才人が問うと、ギーシュの体がビクッと震えた。どうやら借金、もしくは金に関する弱みを握られているようだ。才人は呆れてしまった。
そんな彼がしばし放心状態になった間に、今度はカルロが声をかけた。
「中佐、良かったんですか?中佐は平民ではなく男爵なんだし、それに奥さんは・・・」
カルロが口を噤んだ。
「良いんだよ。ああいうプライドの高い貴族様には、口で言うより実際に目の前で現実を見せたほうが効果的だって。それに実戦に近い空戦訓練が出来るんだぞ、こんなチャンス滅多にないって。」
ベアトリスに手加減無用とか言っておきながら、才人には竜と戦うことなど訓練にしか思えないらしい。
「まあとにかく、出撃準備しなきゃな。」
才人は空中装甲騎士団との空の決闘をするべく、まず学院の外へ着陸させたゼロ戦へ向かって歩き始めた。その後をカルロも慌てて追いかけた。
「ああ、待ってください中佐!」
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