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義勇軍VS空中装甲騎士団 3
 才人は校長室を出ると、部下のカルロ兵長を連れて魔法学院の裏庭へと向かった。そこでは、オスマン校長の言ったとおり、男子生徒を中心に編成された水霊騎士隊が訓練中であった。

 才人は訓練をしている所を邪魔してはいけないと思い、その様子をじっと少し離れて見ていた。しかしながら、その内に口にこそ出さなかったが不安になってきた。

 水霊騎士隊の動きはお世辞にも良いとは言えなかった。むしろ、かなり乱れている。今才人たちの目の前ではちょうど行進している所であったが、どうも動きがぎこちない。ちゃんと行進する意識があるのか疑いたくなるくらいにバラバラである。

「これは、何かの悪い冗談でしょうかね?」

 才人の隣にいたカルロがあまりにもひどいその動きを見て言った。義勇軍の近代的な動きを知っている彼の場合、もしかしたらそれ以上のことを思ったかもしれない。

 さらに才人が背中に担いでいたデルフも言う。

「相棒、あれならオーク鬼にやらせた方が、まだましだぜ。」

 デルフの評価は文字通り、ズタボロだった。

 しかし才人もそれも仕方がないと思った。なにせ魔法学院では魔法や貴族としての礼儀作法は教えてくれるが、騎士としての戦い方などは教えてはくれない。

 有事に備えてせっかく編成したというのに、これではとても戦闘になど出せないだろう。もちろん経験不足という点もあるが、ちゃんとした教官がつくか、彼ら自身しっかり学んでいくかしないと改善しないと才人は思った。

 そんなことを才人が考えていると、少年たちの先頭で指揮を執っていた1人が、才人の存在に気づいた。

「おお!才人じゃないか!?」

 才人にとって聞き覚えのあるその声は、ギーシュだった。

「全員小休止!」

 彼は他の隊員たちにそう言うと、才人の方へと走ってきた。

「ようギーシュ。騎士隊隊長だってな。おめでとう。おっと、そうなるとお前の方が上官か。失礼しましたギーシュ隊長殿。」

 才人が敬礼しながら、笑って言った。

 義勇軍の登場もあって、最近になってトリステインとアルビオンでもこれまでの軍関係の組織に関する階級呼称が見直されている。すなわちそれは、本格的な階級制度の取入れで、これまでの大雑把なものから、近代的で厳密な物へと変えられている。

 これに伴って騎士隊隊長の場合階級は大佐、もしくは准将となっている。だから中佐の才人よりも騎士隊隊長のギーシュの方が偉くなる。

 だが、ギーシュは笑いながら言った。

「そんなにこだわらなくても良いよ才人、この騎士隊はまだ出来たばかりで、僕が隊長に就いたのだって、アルビオンでの従軍経験と勲章をもらったからにすぎないよ。」

 実際派閥にとらわれなく、また将来の軍人を育てる意味で作られた水霊騎士隊であったが、まともな教官がいないことでもわかるように、実際期待されているとは言い難い。一応隊員のほとんどはアルビオン戦争に従軍し、簡単な軍事教練を受けてはいたが、アルビオンでの戦争が3日で終わったために、実戦参加した隊員はなんと隊長のギーシュだけだった。これでは他に隊長など選べられる筈がない。

「けど隊長は隊長だから。」

「別に学院内にどこかのお偉いさんがいるってわけでもないから。前みたいに普通に接してくれれば良いよ。」

「そう。それじゃあ改めて、久しぶり。騎士隊の隊長なんて、出世したなギーシュ。女の子にさぞやもててるんだろうな。」

 才人がちゃかすように言うと、ギーシュが自慢するように喋り始めた。

「そうなんだよ。もうすでに3人の女の子からラブレターをもらちゃってね、いや、本当に嬉しくてたまらないよ。」

(相変わらずの女好きだな。)

 と心のなかで思いつつ、才人は警告の意味を含めてギーシュに一言。

「まあモンモランシーにばれないように気をつけろよ。」

 その言葉を聞いた途端、ギーシュの顔は一気に青ざめ、引きつった。

(あ、まずいこと言ったみたいだな。)

 才人がそう思った途端、ギーシュが話題を急に変えた。これ以上その話をすると何かやばいらしかったようだ。

「ところで才人、そっちにいるのは誰だい?」

 ギーシュがカルロを見て言った。

「ああ、紹介するよ。俺の部下のカルロ兵長だ。」

「お会いできて光栄でありますギーシュ隊長殿。『東方義勇軍』航空部隊所属のカルロ兵長です。」

 才人に紹介されて、カルロがギーシュに対してピシッと敬礼した。もちろん、ギーシュも答礼する。

「へえ、君もついに部下を持ったんだ。」

 そんな感じでしばらく談笑を続けていたが、その時空中を何かが横切った。

「うん?」

「竜だ。」

 才人が呟いた。彼らの頭上を通り過ぎたのは、数羽の竜だった。

「野生・・・なわけないよな?」

 野生の竜が何羽も群れを成して飛んでいたら、それは恐るべき事態である。しかしギーシュも、そして少しばかり離れた場所で休んでいる水霊騎士隊の隊員たちも驚くようなことはしなかった。

「あれは空中装甲騎士団の竜だよ。」

「空中装甲騎士団?」

 才人にとって、それは聞いたことのない名の部隊である。

「今年の新入生に、グルデンホルフ公国のベアトリス殿下が入学されているんだ。それでその警備に派遣されてきたらしいんだけど、たかが一人のために30羽近い竜と騎士を派遣するなんて、僕には理解できないよ。」

 ギーシュの言葉を聞いて、才人は半分納得し、半分ギーシュの意見に頷きたい気持ちだった。

 グルデンホルフ公国はトリステイン近郊にある小国で、外交権や軍事に関してはトリステイン王国の手中に置かれているが、曲がりなりにも内政権を独自に持った国であった。しかしながら、才人の感覚からすれば外交と軍事を明け渡している国を独立国と呼んでも良いのか迷う。

 そのため、才人はついついこんな言葉を口にしてしまった。

「ふーん、けどあの国って言っちゃえばトリステインの傀儡国家だよな?」

 その言葉を言った途端、ギーシュの顔が再び青ざめた。

「あれ、俺何かまずいこと言った?」

「バカ才人、もしそのことをベアトリスに聞かれたら、君と言えどただじゃ済まな「もう手遅れですよ。」

 ギーシュが話している途中で、どこからか少女の声がしてきた。才人が声のした方へ顔を向けると、そこには2人の少女を付き従えたツインテールの少女が立っていた。
 
 その姿を見て、ギーシュはさらに顔を真っ青にし、才人はわけがわからずきょとんとしていた。

 そして同じころ、学院長室ではオスマン校長が『遠見の鏡』を見ながら笑っていた。

「ほほお、これはまたおもしろくなってきたわい。」

 魔法学院に、波乱が起きようとしていた。
 御意見・御感想お待ちしています。なお、ベアトリス登場の12巻が下宿にあるので、1週間ほど更新が停滞するかもしれない。


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