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盗賊の転職 中
 スカウトされたマチルダが工場で任されたのは、才吉の説明にあったとおりガソリンの錬金による製造だった。それを朝から晩まで、他にスカウトされた数人のメイジたちと行なうのだ。

 工場自体は、ハルケギニアのそこかしこにある小さな工場より少し広い程度であった。しかし、内部の感じは大きく異なっていた。そこら中の柱や壁に「火気厳禁」、「安全第一」(もちろんハルケギニア語で)と書かれており、また屋根のあちこちに白い変な物(才吉がもち込んだ火災報知機)が付けられている。何より、ガソリンという液体の放つ独特の臭いが強烈だった。

 また、働き出す前に雇用契約だのと言って色々な書類にサインさせられたのも、マチルダたちには初体験だった。というか、そのような概念はハルケギニア世界には存在していなかった。

 とにかくガソリンを作り始めたのであるが、最初の頃、マチルダ達にはこんな物を錬金してどうするんだろう?という疑問が強かった。一応飛行機の燃料というふうに説明をされてはいたが、機械文明とは程遠いハルケギニアの人間では、どうしても想像に限度がある。

 そして1人のメイジがその疑問を才吉に対して言うと、彼は「じゃあ見せてあげるよ。」と言って全員を工場の外へと連れ出した。

 ちょうどその日、工場の外にはUH60Jヘリが飛んできていた。

「このヘリコプターという機械も、諸君らが作ったガソリンで動く。今からそれをお見せしよう。」

 ちなみに、この頃はヘリやゼロ戦に燃料を給油するのはそれなりに苦労する物だった。現代地球のように電動ポンプなどという便利な物が無く、すべて手動ポンプで行なわなければいけなかったからだ。

 その作業を行なったのは、ヘリコプターを操縦する2名の搭乗員、清水一尉と山田三尉だ。2人はガソリンが入った樽からホースを繋ぎ、そして手動ポンプを回して燃料をヘリに入れた。

 その作業が終わると、ようやくエンジンを始動させた。その光景を見ていたマチルダたちは驚きを隠さなかった。本当にあんな液体を入れるだけで動くことに、少しばかり不信感を抱いていたからだ。加えて、上の風車みたいな物(プロペラの事)を回すだけで宙に浮くことも彼らには驚天動地の出来事だった。

 まあとにかく、こうして工場で働くメイジたちは、自分たちが錬金で製造している謎の液体の使用用途を理解したのであった。

 ところで、この時の話には続きがある。その日の夕方、マチルダは仕事を終えて、才吉が用意した宿舎へと帰ろうとしていた。すると、工場の影で立っている男の姿があった。西日のせいで顔はよくわからなかったが、その男は手に持った何かで火をつけているようだった。

 工場の外は一応火気厳禁というわけではないが、それでも危なくないわけではない。マチルダはその男に近づいた。

「ちょっと、そこのあなた!ここは火気厳禁よ!!」

 マチルダが注意すると、男は振り向いて謝ってきた。

「あ、すいません。ちょっとタバコを吸いたかったもので。」

 そう言って振り向いた男の姿に、マチルダは大いに見覚えがあった。ハルケギニアではめずらしい黒い髪、見たこともない奇妙な服(これは自衛隊のパイロットスーツ)。昼にヘリコプターに燃料を入れていた男の1人だ。

「あら、あなた確か昼間いたわよね?」

「ええ。ヘリコプターパイロットの山田明雄三尉です。よろしく。あなたは?」

 パイロットや三尉と言われてもマチルダには意味が理解できるはずも無かったが、とりあえず彼の名前は理解できた。

「ここで働かせてもらっているマチルダよ。」

 そう名乗ると、マチルダは目の前の男をもう一度眺めた。歳は自分と同じか、1,2歳年上ぐらいだろう。

「タバコを吸うなら、他の場所でしてくださいね。」

「そうします。それにしても、あなたみたいな若くて綺麗な女性が工場で働いているなんて、本当に意外ですね。」

 明雄はそれを正直、誉めたつもりで言ったのだが、ハルケギニアで生まれ育ったマチルダはそうは受け取らなかった。

「あら?今の言葉は嫁に行き送れた人間への当て付けかしら?」

 そんなつもりは毛頭なかった彼は、その返答に少しばかり狼狽してしまった。

「ま、まさか。なんでそうなるんですか?」

 すると、マチルダが言い返す。

「だって普通はそうでしょ?嫁に行くのは20歳までにっていうのが慣例じゃない。私は23だもん。普通に行き送れよ。」

 それに対して、明雄は面食らってしまった。一応言葉が通じているから良いものの、日本とハルケギニアの文化や考え方の違いはやはり大きかった。

「こちらの常識じゃそうなんですか?けど、俺たちの世界じゃ、普通にみんな30過ぎで結婚してましたよ。俺だって25ですけど、未だ独身だし。まあ、気分を悪くされたのなら謝りますけど。」

 実際マチルダは気分を害していた。いくら他人の国の常識ではよくても、やはり人間自分の文化で物事の常識を測ってしまう。

「まあ別に良いけど。」

 一応はそう言ったが、明らかに声には不快感が混ざっていた。

「そんな声で言われても説得力がないんですが・・・じゃあちょっとしたお詫びです。これをあげますよ。」

 そう言って彼が懐から差し出したのは、銀紙に包まれた黒い塊だった。

「何それ?」

「チョコレートというお菓子です。」

 ハルケギニアにはチョコレートは存在しない。そもそもカカオの原産であるアフリカや南米にあたる地域があるかすら判っていないのだ。

 マチルダは恐る恐るその塊をとって、口に含んだ。

「苦い。けど、これはこれでおいしいかも。」

 マチルダは、地球での大人向けの味をそれなりに気に入ってくれたようだ。それを見て、明雄も一安心した。

「気に入っていただけて良かったです。」

「うん。ありがとう。ところで、あなたさっきからどうして敬語で喋っているのさ?別に普通に話せば良いよ。」

「ああ、そう。いや、なるべく初対面の人には敬語を使うよう心がけているもんで。」

「そうなの。」

 それからしばらく2人はお互いのことを喋りあっていた。

「それじゃあ、自分はやることがあるのでこれで。話が出来て楽しかった。」

「私も、こんなにお喋りしたのは久しぶり。」

「なら良かった。それと、さっき言った事は本当ですからね。あなたは綺麗で若いから、歳のことなんて気にする必要ないよ。」

「え!?」

 そして2人は分かれたわけだが。マチルダは少しばかりそのままその場に立ち尽くしていた。魔法学院にいた時や、泥棒稼業をしていた時は、若い男性と会うことなどほとんどなかった。つまり、先ほどの様な言葉を掛けられることもなかった。だから今回が初体験だった。

 これがマチルダの心に、何かが芽生えた時だった。
 御意見・御感想お待ちしています。
 予定ではマチルダの話は次話で終え、その後コルベールの話をする予定です。
 その後は未定ですが、タバサが義勇軍に接触する話とか、オリキャラたちが地球へ行くとか、色々考えています。


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