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ティファニアの使い魔召喚 下
 召喚された日の夜、葛西豊は平賀公爵家の庭で1人夜空に輝く星を見ながら考え込んでいた。

「・・・・」

 あの後マチルダとテファに案内された屋敷で、彼は平賀才吉と引き合わされた。日本人が目の前に現れた事で、彼は再び驚くと共に喜んだ。もしかしたら帰れる可能性があるのかもと考えたからだ。しかし、才吉が彼に語った話は彼のかすかな希望を粉々に打ち砕いてしまった。

 才吉から言われたのは、元の世界へと戻れる見込みはほとんどないという無情な事実だった。彼の話によれば、才吉以外にも現在ハルケギニアには地球から流れ着いた人間は数多くいるが、元いた世界の次元はそれぞれバラバラで、唯一新月と日蝕を利用した手段で行き来出来るのは才吉たちのいた日本だけであるという。

 才吉のいた日本について聞いた豊は、自分がいた世界の日本とは全く違う歴史を辿っている別世界であることをすぐに理解した。彼のいた独裁者によって多くの人々が圧制され、数多くのレジスタンス組織が反政府運動を行なっていた日本と、才吉の天皇はいるが民主政治体制となっている平和な日本とではまったく違っていた。

 一応最近になって研究がスタートしているので、元いた世界へ戻れる可能性はゼロではないらしい。しかし、現状では限りなくゼロに近かった。そうした事実を突きつけられた時、彼の頭の中は真っ白になってしまった。

 出された夕食を無理矢理腹の中へ入れると、彼は許可を貰って庭で考え事をしていた。今後自分はどうするべきなのか、それが目下の課題であった。

 才吉からは、彼ら地球からやってきた人間たちが、この地で自らの生存権を確保するために、『東方義勇軍』を組織して戦っている事や、それ以外でも民生面でこの世界のために働いている事を説明された。もちろん、それに協力して欲しいとも言われた。

 だが、いきなり飛ばされたわけのわからない異世界で、はいそうですかと簡単に答えられるはずがなかった。とりあえず、その場はしばらく考えさせてくださいと言って答えを先送りにした。

 星空の下で考えてみるが、頭の中に浮かんでくるのは元の世界で戦っていた戦友たちの顔ばかりであった。彼らは今も苛烈な戦いに身を投じているはずである。それなのに、彼は何も出来なくなってしまったのだ。そして彼に出来るのは、このハルケギニアと呼ばれる異世界で生きていく事だけになってしまった。

「皆に何てお詫びすれば良いんだろう・・・」

 自分だけがこうしてのうのうとしている事に、彼は自分自身が情けなくなっていた。もっとも、今回の件は不可抗力であり、どうしようもなかったのであるが。

 そんな彼に近づく人影があった。長年戦いの場に身を置いていた豊は、すぐにその人物ことに気付き、振り返った。

 歩いてきたのは、自分を召喚したという金髪の少女だった。

「ああ、確かティファニアさんだったよね?」

 彼を召喚したのは彼女だったが、マチルダや才吉とばかり話していたせいで、彼女とはほとんど会話らしい会話はしていなかった。

「ええ。テファで良いわ、皆そう呼んでいるから。」

「そうか、じゃあ俺のことも豊で良いよ。」

「わかったわ。・・・あの、隣、座っても良い?」

「別に良いよ。」

 豊に促されて、彼女は彼の隣に腰掛けた。

 しばらくの間2人は無言であったが、テファがまず口を開いた。

「あ、あの・・・」

「?」

「ごめんなさい。」

 テファが突然頭を下げて豊に謝った。これには豊も面食らってしまった。

「ちょ、ちょっと顔を上げてよ。なんだよいきなり?」

 慌てて頭を上げるように言う豊。テファもそれで頭を上げた。

「一体なんだよ?いきなり頭を下げて謝って?」

「だって、その豊を召喚したのが私だから・・・最初はよくわからなかったけど、豊はここ(ハルケギニア)とは違う世界から来たんだよね?」

「ああ。」

 実際それは間違いなかった。しかし、豊は別にテファに対しては恨みなどの感情は覚えなかった。マチルダから、使い魔を呼び出した側が相手を指定する事は出来ず、その場の行き当たりばったりであると聞かされていたからだ。

 むしろ、本来召喚されることなどありえない人間である自分が呼び出されてしまったことに、同情の念さえ抱いていた。

 彼自身は、レジスタンス運動に身を投じてきた事もあり、銃をはじめとする近代兵器はおおよそ扱う事ができる。それに加えて、各種武芸もそこまで上手いというわけではない程度だが学んでいる。しかしそれ以外には特に特技も何もない一青年に過ぎない。それが現実であり、彼の自分に対する認識であった。

 しかしテファはかなり今回の事を重く受け止めたようだ。これが普通のメイジだったら、意識改革が進められているとはいえ、彼のことを魔法の使えない平民とバカにする可能性が高い。だが、彼女はそうした先入観に毒されてはいなかった。

「だから、私のせいでこんなことになったから・・・本当にごめんなさい。」

 そう言って再び頭を下げるテファ。

「顔を上げろよ。別に俺は今回の件があんたのせいじゃないと思ってる。確かに召喚の儀式をやったのはテファかもしれないが、別に俺を狙ってやったわけじゃないんだろ?」

「え?・・・うん。」

「だったらそこまで深く考えなくて良いよ。今回のことは一種の事故みたいなもんだろ?あくまで俺の運がわるかっただけさ。だからテファが謝る必要はないよ。」

 怒られると思っていただけに、この豊の言葉は意外だった。

「やさしいのね、豊は。」

「そうかな?ただ親からは人には寛容であれって言われていたから。」

 そう言って彼は笑ったが、テファの方は親という単語を聞いた途端、表情を曇らせた。

「あれ、何か悪い事言った?」

「え!?いいえ、なんでもないわ。それより、豊はこれからどうするの?」

 テファの問いに、豊は表情を険しい物にした。

「まだ、決めてない・・・正直どうすれば良いのか俺にもわからない。」

「あのね豊・・・その召喚しちゃった償いってわけじゃないけど、もし困っているのなら遠慮なく言って。私の出来る範囲で、あなたを助けてあげるから。」

 そのテファのセリフを聞いた途端、豊はキョトンとしてしまった。

「え!?あの、何か気にいらないことでもあった?」

「いいや、本来なら召喚された使い魔は主人の手となり足となって働くって聞いたから。そんな言葉を主人になるはずのテファが言うなんて不思議だなと思って・・・君って本当にやさしいんだね。」

 やさしいという言葉に、テファは少しばかり照れた。

「そ、そうかな?ところで豊。実はあなたとの儀式の続きについてなんだけど。」

 この時点で、2人は昼間のごたごたのせいで、まだ『コントラクト・サーヴァント』を終わらせていなかった。

「ああ、マチルダさんがそんなこと言っていたね。」

「それでね、実は私はあなたと主人と使い魔っていう関係に別になりたいとは思わないの。さっき言ったこともあるし。けど、友達にはなってほしいの。それで良いかしら?」

 すると、豊は即座に言い返した。

「ああ、正直俺も使い魔になるのはちょっと抵抗があったから。けど、友達ならいくらでもなってあげるよ。」

 こうして、テファと豊は本来主人と使い魔という関係になるところを、友人という関係にするという、前代未聞の選択をした。そしてこれが後々ハルケギニアさえ揺るがす事態を巻き起こすのだが、それは別の話である。

 それから数日後、悩みぬいた末に豊は義勇軍に協力する道を選んだ。銃器を扱える上に、シュミレーションで訓練しただけとはいえ、飛行機の操縦が出来る彼には少尉の階級が贈られた。

 異世界に移動しても、軍人という仕事に就いた彼であったが、休日にはテファとともに子供たちと遊んだりする時間が出来た事に、彼は何よりも幸せを感じることになる。

 一方で、彼もまたこのハルケギニアで起きている大きな歴史のうねりの中に身を投じていくことともなる。

 
 御意見・御感想お待ちしています。
 豊の能力については先送りしてしまいましたが、考えている案としては、時空を自由に操る能力を考えています。
 作者近況・・・ここ数日遊び続き。13日は「スカイ・クロラ」を見に行き、14日は自衛隊の友人と食事し、15日は名古屋の古本屋回り、昨日は伊勢神宮へ行っていました。そして明日は山梨へ一端帰ります。また小説が滞るかもしれません。


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