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ティファニアの使い魔召喚 中
 ゲートから現れた青年、葛西豊は正直何が起きたかわからなかった。政府軍にアジトが見つかり、周りにあった武器の入ったバッグを持てるだけ持って走り始めた直後、目の前に鏡のような物が現れたのだ。既に勢いのついていた彼は止まることが出来ず、そのまま鏡の中へ入ってしまった。

 そして数秒後、彼は盛大に尻餅をついていた。

「一体何が起きたんだ!?」

 彼は置きながら悪態をついた。

 一方、その光景を見ていたマチルダとテファの2人は茫然としていた。まさか使い魔召喚で人間が現れるなど全く考えていなかったのだ。

「「・・・」」

 2人とも何を言って良いのかわからず、ただ黙って現れた青年の方を見ていた。

 一方豊の方も、視界内に入ってきた光景に唖然としてしまった。先ほどまでは確かに東京にいたはずであった。それなのに、今目の前に広がっているのは透き通った様な青空と、緑豊かな森の光景だった。

「これはどういうことだ!?」

 理解し難い事態が起きたのは間違いなかった。豊は周りの様子をさらに確かめようと、後ろを振り向いた。そしてようやく自分の側に2人の人間が立っているのに気付いた。

「うわ!?」

 いきなり豊が声を上げたもんだから、マチルダとテファが一瞬ビクッとしてしまった。

「あんたたち一体誰だ!?ここは一体どこなんだ!?」

 豊に聞かれ、それまで黙っていたマチルダがようやく口を開いた。

「私はマチルダ。こっちにいる娘はティファニア。別にあんたに危害を加える気はないから安心しな。それであんたの名前は?」

 マチルダとティファニアという明らかに日本人離れした名前に違和感を当然のごとく覚えた豊であったが、とりあえず目の前の2人が政府の警察の人間でない事は理解できた。だから彼も大人しく名を名乗った。

「俺は葛西豊。自由日本戦線のメンバーだ。さっきまで東京にいたはずなんだが、一体これはどうなっているんだ?もうわけがわからない。」

 マチルダとテファはもちろん自由日本戦線だの、東京だのと言われても理解出来る筈がなかった。しかしながら、彼の名前を聞き、その発音の感じからして彼女らと縁深い平賀才人や山田明雄と同じ国の出身だろうなということは直感できた。

「ええと、言っていることの意味があまり理解できなかったけど、あんたもしかしてニッポンていう国の人間なの?」

 マチルダが確認する。

「そうだけど。」

 すると、マチルダは顔を手で抑えた。義勇軍の人間とそれなりに縁深い彼女は、日本がハルケギニアとは違う次元に存在する国であるということを聞いていた数少ない人間であった。そしてその異次元へハルケギニアから帰る事が難しいということも。

「ええとね、ちょっと言いずらいんだけど、ここはハルケギニアっていうニッポンていう国がある世界とは違う世界なんだよ。」

 マチルダがそう言うと、豊は怪訝な表情をした。

「え?つまり・・・ここは異世界だと仰りたいんですか?」

「まあ、そう言う事になるかな。」

 どこか歯切れの悪い言葉で返事するマチルダ。対する豊は、普通の人間であったなら抱く心情をそのまま口にした。

「からかっているんですか?そんなことあるわけないでしょ。」

 何をバカなことを、と言いたげな表情でマチルダをみる豊。そこで彼女は、少し前に恋人の明雄から聞いたことを思い出し、もっとも手っ取り早い手段でここが異世界であることを証明する事にした。

 彼女は懐から杖を取り出すと、呪文を唱えた。すると、その途端すぐそばの地面の中から巨大なゴーレムが形成された。

「おお!?」

 いきなり現れたゴーレムに、腰を抜かさんばかりに驚く豊。その様子を笑って見ながら、マチルダは再び杖を振った。先ほどと同じように、唐突にゴーレムは消え去った。

「い、今のは一体?」

 もはや何がなんやらわからないという表情で聞く豊。

「今のは魔法だよ。確かあなたの暮らしていた世界には魔法がないそうじゃないか?これならここが違う世界だと信じられるだろ?」

 マチルダがそう言うと、豊は考え込んだ。今のがなんらかのトリックではないかと疑ったのだ。しかし、周りには特に何かの仕掛けがあるようには見えなかった。さらに、目の前の女性があのような大仕掛けまでして自分を騙す理由も検討がつかない。挙句の果てには、もしかしてこれは全て夢幻の類ではないかと考えて、自分の頬をつねってみた。

 その結果は。

「痛い。」

 それは今自分に起こっている事態が現実である事を示していた。そして彼は再び考えた。今自分は先ほどまでいた東京とはどう考えても全く違う場所にいる。そして目の前で女性が見せた魔法は本物の可能性が高い。この二つを併せれば、彼女が言ったここが異世界であるという言葉も信憑性の高い物となる。

 最終的に彼の至った結論は、ここが異世界である可能性が非常に高いということだった。

 それがわかると、彼の疑問はどうしてこのような事態が起きてしまったのかということと、どうして彼女が日本のことを知っていたのかだった。

「ここが異世界だと言うことは、とりあえずわかった。けど、一体どうしてこんなことになってしまったんだ?それに、なんで異世界の人間であるはずのあなたが日本のことを知っている?」

 豊に聞かれて、マチルダが再び答える。彼女はとりあえず彼の質問の内、前者について答える事にした。後者については事情がやや複雑であるし、なによりより詳しく説明できる人間が他にいたからだ。

「ニッポンのことを私が知っていることについては、いろいろ説明しなくちゃいけないからまたゆっくり話すとして、どうしてあんたがここにいるかについては答えられるわ。あんたがこの娘の使い魔として召喚されたからよ。」

 すると彼女は、それまで完全に蚊帳の外におかれていたティファニアの方へと視線を向けた。

「いったいどういことだ?説明してくれ?」

 豊はテファの方へ顔を向けると、彼女に問うた。

「ええと、実は・・・」

 いきなり話をふられたために、テファは戸惑ってしまったが、すぐにしどろもどろになりながら説明を始めた。自分が魔法を使えること、この世界では魔法使いが使い魔召喚の儀式が慣例として存在すること、そして彼女が召喚の儀式を行なったら彼が現れたことを話した。

 説明を聞いている間、豊は何も言わずただじっと彼女の言葉に耳を傾けていた。そして彼女が説明を終えると、静かに聞きかえした。

「つまり、俺はあんたの使い魔としてこの世界に召喚されたってことか?」

「そういうことになるのかな・・・」

 テファが言いにくそうに言い返した途端、豊は叫んでいた。

「それは困る!!俺は平和で人が幸せに生きていける日本を作るために仲間と一緒に政府軍と戦っていたんだ!!あいつらは今この瞬間も戦い続けているはずなんだ!!俺だけがこんな所にいるわけにはいかないんだ!!すぐに俺を元の世界に戻せ!!」

 豊がテファに掴み掛からんばかりの勢いで言う。それに対してテファはたじろぎ、ただ・・・

「ごめんなさい。」

 とだけ言った。

「謝る暇があるのなら、俺をすぐに日本へ戻してくれ!!」

 彼は先ほどと同じことを言った。だが、彼に掛けられた言葉は無情な物だった。

「それは無理だよ。」

 そう彼に言ったのはマチルダだった。

「え!?」

「あんたが元の世界へ戻るのは無理なんだよ。」

「それは一体・・・どういうことなんだ?」

 彼の質問に対して、マチルダは何も言えなかった。
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