追跡!! 上
無線交信から1分ほどして、二コラたちの真上に1機の複葉機がやってきた。空に溶け込むように塗られた青色の塗装に、主翼と胴体に描かれた百合のマーク。義勇軍の機体だった。
「こちらシエスタ、上空につきました。このまま旋回に入りますがよろしいですか?」
先ほどの少女の声が無線機から流れる。すかさず二コラが返信する。
「ご苦労。そうしてくれ。もし一味がここを突破したら空からの追跡と、出来るなら支援攻撃を頼む。」
「了解です!!」
二コラは送信機を置き、空を飛ぶ複葉機を眺めた。
「女神様の登場か・・・」
二コラはそうボソッと呟いた。
女神様と言うのは、シエスタに与えられた隊員たちからの愛称である。
菅野中佐からその能力を見出された彼女は、その期待に見事に答えた。なにせわずかな時間で飛行に必要な計器類の読み方等の知識をマスターし、飛行開始20時間で単独飛行を成し遂げ、50時間で一人前と認められた。
これは異例の事だ。機械文明が全く発達していなかったこの世界の人間で、ここまで早く一人前のパイロットになれるとは誰も予想していなかった。旧日本海軍でも飛行時間が100時間でようやくひよっこ扱いであったから、教えた菅野中佐もビックリであった。
ちなみに、彼女と同時期に訓練を開始したパイロット練習生は30名ほどいた。この世界でもパイロットは人気が高かった。これまでメイジの専売特許であった空を飛ぶという行為を、平民にも可能にしたこの職種に多くの人間が募集してきたからだ。
しかし、まず文盲という時点で9割以上が脱落し、さらに模擬飛行で体質的にあまりにも適さない人間も落とされ、先ほどの人数になった。そうして残った人間でも、機械に触れた事がない人間ばかりであるから、養成には手間取っており、現在までに単独飛行可能と認められた人間は、シエスタを除いてたった2人だけだった。
だからシエスタが、義勇軍養成パイロットで卒業した最初のパイロットだった。
ただし、彼女は制式に義勇軍には入っていない。彼女は今もって、スカロンから頼まれた『魅惑の妖精亭』の支店店長であるのだ。だから常にパイロットでいられる人間ではない。
しかし彼女の腕は捨て難い物だった。そこで基地司令官の才助は、特務兵と言う新たな階級を作った。これは、簡単に言えば予備役身分のことだ。非常時にのみ兵隊として呼集され、平時は指定された訓練時以外は普通に民間人として暮らすというもので、予備自衛官をヒントにしている。だから旧日本海軍の特務とは意味が全く異なる。
現在のところ、この特務兵はシエスタあわせて数人だけである。ついでに本来なら1等兵が妥当な彼女が、2段飛びの兵長であるのは、非常に腕が良かったことによる。
そんな彼女、訓練のときに面倒くさがって妖精亭で着ているビスチェのままで基地にやってくることもあってか、兵士たちの憧れの的になっていた。それが女神様の愛称の元である。
そんなわけで、現在ほとんど彼女の専用機になっているPo2練習機の尾翼には、白ペンキで長槍を持った戦乙女の絵が描かれていた。
閑話休題。
そのシエスタ機が支援に到着してから数分後、トリスタニアの方から何かが近づいてくるのが見えた。
「おいでなすったな・・・総員配置につけ!!」
二コラの命令が飛び、兵士達が銃を持ち、スライドを引いて初弾を装填する。そこへ再びシエスタからの連絡が入る。
「こちらシエスタです、数頭の馬が来るのが見えます。前に2頭並んで走ってます。その後ろは銃士隊の方のようです。」
「了解!・・・となると軸線が銃士隊に重なるな・・・」
そうなると、味方撃ちを演じる危険性があった。
「全員発砲は極力控えろ!!まず音響閃光弾で攻撃する!!」
二コラは対メイジ戦法の常套手段となりつつある音響閃光弾による攻撃を選んだ。この攻撃は敵の目と耳を塞ぎ、たとえ呪文を詠唱できたとしても狙いがつけられないことからこの時点でも有効な戦法だった。
二コラの命令を受けて、兵士達は持っていた音響閃光弾を取り出した。
その間に、銃士隊に追われた犯人と思われる二人組と銃士隊の姿が、肉眼でもわかるようになった。
「来たぞ!!」
街道はトラックによって塞がれている。相手には止まるか、それとも道を反れるかしか道はない。
「ジープと、サイドカーはいつでも発進できるようにしておけ!!」
「了解!!」
兵士達がエンジンを掛けて、いつでも発進できるようにしておく。
相手との距離がどんどん近づく。その距離は50m程にまで迫った。その時である。先頭を走っていた2頭の馬は二手に分かれて、道を反れた。
「道を反れたな。ようし、追え!!」
ニコラの命令のもと、エンジンをかけていたサイドカーとジープがエンジンを全開にして追尾を開始した。
敵は道をそれると、そのまま森の中へと入った。その後をアニエス率いる銃士隊の5騎の馬、そしてジープ1両とサイドカー3両が追う。また空からはシエスタが旋回して、敵の逃走経路を探り当て、下にいる義勇軍の兵士達に無線越しに伝える。
「相手は森の中をひたすら西に逃げています。そのままとにかく西へ向かって追ってください!」
「了解!!」
道なき道を走っているために、激しく揺れるジープの上で、ニコラはなんとかシエスタに返答を送る。さらに、ダイヤルを回して、味方にも通信を送る。
「こちら隊長のニコラだ。トラックの連中は先回りして展開しろ!!敵はもう一度街道沿いに出るかもしれない。とにかく街道を西へ行け!!」
命令するだけ命令すると、二コラは無線機置き、逃げる敵を凝視した。敵は巧に森の中を右左に走り、後を追う銃士隊と義勇軍を蒔こうとしている。
狭い森の中での追跡は難しい。木にぶつからないために、二コラらはいきおいスピードを落とさざるを得なかった。
「相手はプロか?」
敵の動きを見ながらニコラは呟いた。
敵との距離は開いてはいないものの、縮みもしない。
「隊長、このままじゃ埒があきませんよ!どうします!」
運転している1等兵がそう言ってきた。
「そうだな・・・ようし、ちょっと脅かしてやろう!!」
二コラは激しい運転で揺れるジープの上になんとか立ち上がり、備え付けられている12,7mm重機関銃のスライドを引く。
「く・・・・」
激しく揺れて、しかも間に銃士隊の騎馬がいるためになかなか発射するタイミングを掴む事が出来ない。それでも二コラはなんとか撃てる瞬間が来るのを待つ。
そして2分ほどして、ようやくその瞬間が訪れた。ジープの動揺が少しおさまり、さらに敵との射線が確保された。
「ようし・・・撃て!!」
二コラが引き金を引いた。
ドドドドド・・・・
重々しい重機関銃の発射音が森の中に響きわたり、曳光弾の作った赤い線が走っていった。
御意見・御感想お待ちしています。
それにしても、長引いてしまった。
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