緊急出動!!連合歩兵隊 中
昼食の時間が終わり、午後の訓練の時間となった。アニエスら銃士隊の面々は、演習場の外側に立って、梶田少佐の言う機動合同演習を見学していた。そしてそれは、実際に彼がアニエスに言ったように、アニエス達の概念外の物だった。
キュラキュラ・・・
キャタピラとエンジンの音を響かせて、3両の戦車が横一列にならんで前進する。その戦車の上には歩兵が乗り込み、さらに戦車の後ろには歩兵を満載したトラックや無反動砲を搭載したジープ(4輪駆動車)が後続する。
時速30kmの速さで綺麗に前進するそれら戦車とトラックの群だけでも、ハルケギニアの人間から見れば壮大な光景である。しかし本番はそこからである。
指揮官である梶田少佐が、指揮官用ジープの上から白い信号弾を打ち上げると、戦車やトラックの動きが急に激しくなる。
今回の演習では演習場の端に作られた、仮想敵陣地の攻略を行なう。もちろん演習であるから、その陣地には敵はいない。あくまで想定として行なう。
戦車とトラックはジグザグに動いて陣地に接近しながら、一定の距離まで近づくと歩兵を降車させる。そして再び前進するが、それとともに戦車は戦車砲を発砲する。もちろん空砲であるが、その衝撃はかなり離れた場所にいるアニエス達にも伝わってくる。
さらに無反動砲や、歩兵の迫撃砲の攻撃が加えられる。これらも撃たれるのは空砲であるが、午前中に実際の発砲シーンを見ているアニエスには、一体どれほどの火力が敵陣地に降り注いでいるか容易に想像できた。
「すさまじい火力だ・・・」
さらに、歩兵の動きにも目を見張った。戦車が動き回る中で踏み潰されないかと不安になるが、実際そんなことはなく、しっかりと連携が取れていた。
戦車は歩兵の動きに合わせるために速度を落としているが、アニエスは直ぐに敵の歩兵やメイジが戦車へ接近することをさせないための動きである事を見破った。
そして最終的に歩兵の支援を受けた戦車が陣地を蹂躙し、さらに歩兵が完全制圧した。
今回は訓練であるから、敵の反撃などは全くない状況である。しかしアニエスは、あっても状況は変わらないと考えた。
いまだ強力な砲や、自走兵器のないこの世界では歩兵や騎兵が砲撃支援をしてもらいながら前進するというのは不可能で、正面きって突撃する以外に手段がない。
ちなみに、この戦法は梶田少佐が戦車部隊司令官の長田少佐と話し合って採用した戦法で、旧日本陸軍の戦法を参考にしている。
旧日本軍では、歩兵を軍の主力としていたため戦車を歩兵支援用兵器と見なす風潮が終戦まで残っていた。そのため戦車、戦法共に世界の潮流から見れば時代遅れの物となっていた。
しかしこの世界では、相手は歩兵や騎兵中心である。戦車の脅威になる戦車や、対戦車砲、バズーカ砲もない。だからこの戦法も充分有効だった。
唯一恐れるとすれば錬金魔法や『火』系統の魔法だが、魔法の有効射程がそれほど長くはないから、戦車からの戦車砲や機銃によるアウトレンジ攻撃で何とかできる。仮に戦車に接近しても、錬金魔法に対しては固定化の魔法が掛けられているし、『火』魔法に対しても歩兵の支援があれば充分に阻止できる。
もっとも、梶田少佐としては、「APCがあればより高速で陣地を蹂躙できるのだが。」と決してこの戦法に満足しているわけではなかった。
ちなみにAPCとは兵員輸送装甲車の事だ。
訓練が終わると、梶田少佐は見学していたアニエスに感想を尋ねた。
「如何でしたかな?アニエス隊長。」
「いや、なんとも。凄まじいとしか答えようがないです。あの最初の砲撃が実弾だったと考えると、恐ろしい。それに歩兵と戦車の動きの速さや連携の上手さも驚嘆する物です。」
「そうですか。しかし、戦場では実際どうなるかわかりません。例えば上空から竜が攻撃してこれば、さすがにこちらも無傷とはいかないでしょうし。それに非常に原始的ですが、落とし穴などを造られると厄介です。だから実戦では航空部隊の支援が必要不可欠になるでしょうし、斥候による綿密な戦場偵察も多用する事になるでしょう。まあ如何に連携するかが重要です。」
梶田は他の部隊との連携を重要というが、アニエスにはそんなことは簡単でないことぐらいわかる。ハルケギニアには無線どころか野戦電話さえないのだ。頼りに鳴るのは伝書鳩や伝書フクロウ、伝令ぐらいだが、そんな物では先ほど見たような戦闘は出来ない。
「あなたがたは、確か無線機という機械を多用していましたな。あれはどれほどの距離まで通じるのですか?」
アルビオンで無線機を使い、非常に便利だと身をもってわかっていたアニエスだが、その性能の詳細までは知らなかった。
「そうですね、戦車同士の通信なら半径5km程度なら。歩兵部隊同士の野戦無線機は半径10kmまで通用します。ちなみに野戦無線機は周波数さえ変えれば航空機や戦車との直接対話も可能です。」
周波数という言葉はよくわからなかったが、とにかく歩兵から直接空をとぶ航空機や戦車に連絡が取れるということは理解できた。
「むう・・・」
彼らの使う兵器の凄まじさは知っていたが、直接戦う武器だけが戦場の勝敗を決めるわけではないと考えるアニエスだった。
「しかし我々としては本来歩兵1人1人に持たせたいというのが正直な所ですね。まあいずれそうなるでしょうけど。」
この言葉にまたも目を見開くアニエス。これまで説明を受けた物だけでも驚異的なのに、歩兵1人に1台持たせるというのだ。
「これが東方とハルケギニアの差なのか・・・わかっていたつもりだが恐ろしい。」
「まあ遅れている分はこれから努力して追いつけば良いのです。確か先日科学研究所で電話の実用化に成功したと聞きましたから。」
科学研究所と聞いて、アニエスは眉をひそめた。彼女は所長のコルベールと未だ和解出来ていなかったからだ。
とその時、彼らの方に赤旗を立てて向かってくる1台のバイクが見えた。
「何か起きたみたいだな。」
梶田が表情を厳しくする。赤旗の伝令は緊急の命令か連絡を運んでいる事を意味する。
「梶田少佐!アニエス銃士隊隊長!!」
オートバイに乗った若い兵士が叫ぶ。
「どうした!?」
「王室から、銃士隊の引き上げ命令です!!それと我が軍への出動要請です!!」
この言葉に、梶田もアニエスも目を丸くした。
「一体何が起きたんだ!?銃士隊はともかく俺たちにもお呼びが掛かるなんて!」
義勇軍はトリステインとアルビオン王室から侵略以外の名目なら、要請を受ければすぐに出動とはなっている。しかしどちらともに近衛を始め様々な騎士団を指揮下に治めている。だから義勇軍に対しての出動要請はこれまでに、1回災害派遣があっただけだ。
「それが王都にて、要人を狙ったテロが発生したそうです。既に近衛各部隊が動いているそうですが、犯人が街の外へ逃げ出している可能性が高いので、人手が足りないそうです!!」
「何!?わかった。すぐに各部隊を集める。・・・アニエス隊長、そういうわけです。我々も急いで出動準備を整えるので、あなたたちも準備してください。」
「わかりました。銃士隊集合!!」
アニエスが部隊に整列をかける。続いて梶田も命令を発する。
「義勇軍各部隊集合!!」
緊急の命令が出され、両軍の動きが慌しい物となった。
そして、義勇軍にとっては思いもかけない初の王室からの要請による戦闘参加であった。
御意見・御感想お待ちしています。
今回の話はかなり趣味を丸出しにしてしまっていてすいません。ちなみに、この話の時系列は現在の本篇から見て少しあとの話です。
次回はシエスタも少しですが登場予定です。
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