8.The confession
どのくらい階段に座り込んでいたのか分からない。そんな中、雨が降ってきていたことにやっと気づいた。
さっきまで日本晴れと言う言葉が似合う天気だったから、まだ帰ってこない蘭が心配になった。
「どっかで雨宿りしてれば良いけどな」
何気なく呟いた言葉は、限りなく聞こえる雨の音にかきけされた。
そんな一方で、新一の背中に迷いがのし掛かってきていた。蘭を待ち、蘭を想うごとにその迷いは揺るぎないものへと近づいていった。
これから本当に、会ってしまっても良いのだろうか? 何も言わずにいる方が、確実に蘭を傷つけずにいられるんじゃないのか?
後者に後押しされ、新一はやっと体を階段から離した。そして、雨の降る道路に向かって歩き出した……その時。
「新一……?」
景色が、あっという間にスローモーションに変わった。それに合わせて、自分の顔の動きも遅れた。
新一の視線の先には、折り畳み傘を差した蘭の姿があった。彼女は目を大きく見開き、今にも傘を落としそうに見えた。
「よぉ、蘭」
さっきまで迷ってたくせに。もう後戻り出来なくなってしまったじゃないか。 新一は自分に言い聞かせた。しかし、蘭の表情が明るくなるのと比例してさっきまでの迷いが薄れていくのが分かった。
「もう、びしょびしょじゃない! ホラ、とにかく中に入って。タオル貸すから」
「あ、あぁ」
断ることも出来ずに言われるがまま、また階段を上がっていった。さっき自分がいた場所に、服から水が滴り落ちていく。
「ねぇ、いつからあそこにいたの?」
「さっきから、かな」
蘭に無理矢理タオルにくるまされた上に事務所の椅子に座らされ、新一は曖昧に返した。
蘭はもう、と軽く声を出すと、
「いっつも計画性ないんだから。帰ってくるなら連絡ぐらいしてよね」
「ごめん」
蘭の言葉が、全身に痛く突き刺さる。蘭にとっては只の意地っ張りなのだが、今の新一にとっては心臓に悪いものだ。
(そうだよ、オレはまたオメーを突き放すことになっちまった。それなのに、またオメーに会ってる。ひでぇ男だよな)
自己嫌悪に襲われていた新一を知ってか知らずか、蘭は表情を柔らかくして呟いた。
「でも嬉しかった。ずっと、会いたかったんだから」
「!」
気づいた時には、新一は椅子から立ち上がっていた。蘭の目の前に体があったことも、それと同時に目にした。
新一の、頭に載せたタオルが床に落ちる程の勢いに驚いて、蘭は間抜けな声を漏らした。
「し、新一?」
「オレさ、オメーに言わなきゃいけないことがあるんだ」
「え……?」
激しかった行動と思ったより落ち着いた言葉の差に、蘭は目を真ん丸にして新一を見つめた。
新一はそれから一息ついて、躊躇いがちに言った。
「江戸川コナンは、オレなんだ」
「コナン君が、新一?」
新一の既に消えた声をもう一度口にして、蘭はそれきり、目線をどこか分からないところへとやってしまった。
これだけは必ず蘭に言おうと、前から新一は決めていた。例え、それから解放されたことが、一時の気休めにしかならなかったとしても。
「じゃあ、ずっと前からわたしの気持ちも分かってたってこと?」
顔を上げ、自分の目を見据えた蘭から、予想の範囲を超えた言葉が返ってきて新一は思わずたじろいだ。
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