21.Into the light
新一は外国人の男に連れられて、DFCC本社の中を歩かされた。目隠しをさせられていたため、彼には二つの足音が冷たく響いていたことしか分からなかった。しかしその響きが短かったことから、歩いている通路はそんなに広くないだろうと判断した。
男は、曲がり角を迎える度にどちらへ行くかいちいち教えた。拳銃はあてられているままだったが、言葉遣いは至って丁寧であった。
二つのどちらに嘱するか分からない、曖昧な優しさが余計に新一を焦らせた。
どのくらい時間が経ったかは分からなかったが、急に新一は立ち止まらされた。それからすぐに、重厚そうな扉をノックする音が聞こえてきた。
「May I come in?」
(失礼します)
「Ok」
(どうぞ)
外国人の声から遅れて別の男のそれが聞こえた。嗄れている声質からして、年老いているのだろうと容易に想像できた。
続いて、扉の開く音が聞こえてきた。数秒空けてから、外国人の男は新一の体を軽く押した。
一歩前に出た時、新一は靴越しにカーペットの質感をはっきりと感じ取った。それまで足の裏と接していた面とは、明らかに違う柔らかさと厚さを。
「窮屈なら目隠しを外しても構わないよ」
久しぶりに聞いた日本語に、新一は思わず目隠しの下にある目を見開いた。それから男の言葉に沿うように、視界に無数の光を誘い込んだ。
光の中に居たのは、一人の小さな老人だった。豪華な箪笥やシャンデリアの中に埋もれるように、真っ黒な椅子に腰かけていた。彼の目の前にある、漆塗りの巨大な机のせいで彼の足下は丁度見えなかった。
「あなたは、組織の」
「工藤新一君だね? 君の活躍は下の者から聞いているよ。高校生で探偵をしているのだとね」
老人は、柔和な笑顔にぴったり合う語調で言葉を示した。しかし、新一はそのような態度ではいられなかった。全身を駆使しても掬いきれない程の湧き出てくる疑問に押し潰されそうだったのだ。
「そうです。ところで、あなたは……日本人ですよね」
新一が声を振り絞ってやっと出したのは、初歩的で遠回しな質問だった。
「私はね、君に実際に会ってみたいとずっと思っていたんだ」
そんな彼の質問に一切触れることなく、老人は更に続けた。あからさまに困惑する彼の瞳をじっと見つめながら。
「こっちの生活には慣れたかい」
「え? ま、まぁ」
この老人は全てを知っている――新一は、そう確信せざるを得なかった。
「目標を達成するには色々大変なことがあるとは思うけれど、頑張ってな。陰ながら応援しているよ」
目を細め、頬の皺を増やして老人はそう言った。躊躇いながらも、新一はとりあえず頷いておいた。
その仕草を確認してから、老人は外国人の男に向かって二本指でOKサインを作った。
「Do you understand?」
(分かっているな?)
「……あぁ」
外国人と老人の視線がぶつかるところに、新一の姿はあった。それに急かされるように、彼は再度自らの視界から光を断絶した。
新一が外国人の男に誘導されて部屋から出ようとした時、老人が一言だけ放り投げた。
「また会える日を楽しみにしているよ」
新一は立ち止まってはみたものの、当てはまる返答を見つけられぬまま部屋を出ていった。
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