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作:都神紗茅



15.Clue


 『本部があった』場所と言うのは、一軒家の最寄り駅から出ているある電車に揺られて三十分の駅にあると、ラムは家の鍵をかけた瞬間に言った。ちなみにその最寄り駅は、一軒家から数分歩いたところにあった。
 第一の目的地までの道のり、新一は喉の奥に押し込めざるをえなかった質問をラムに投げかけた。


「あともう一つだけ聞く。さっきのラムの話だと、日本支部にいたのはせいぜい一年だろ? それにしては日本語上手いよな」


 新一とラムの間を、風が躊躇(ためら)いがちに流れていった。
 ラムの声を新一の耳が捕らえることは出来なかった。出来るはずもなかった。そんな彼らの周りには、他の人間の姿は全くなかった。
 意図的に視線を反発させていた新一は、さすがにまずいことを言ったのかと、ラムの顔を一瞥した。すると、違う意味で驚いた。
 ラム自身、別に怒っているわけではなかった。むしろその表情は、昨日新一が目にすることもない(たぐい)のものであった。その類というのは、ラムが漂わせていた負の感情と、正反対なほうのことだ。


「昔は家族で祖父の実家によく遊びに行ったのよ。たまに祖父もこっちに来てくれたんだけどね。その祖父は父方なんだけど……母方の祖父母も母自身も、皆、日本が好きだったから。祖父と会話してくうちに自然と覚えたんじゃないかって思ってる」


 ラムの柔らかい言葉と表情で、新一は初めて彼女の透明な見えない殻の内側に触れられた気がした。
 昨日は正直、新一にはこれから共にやっていけるのかと言う心配があった。しかしそれらはほとんどが他の気持ちに変化した気がした。確信はなかったけれど。
 そんな新一に向かって、祖父の話題にこれ以上の詮索を防ぐかのようにラムが口を挟んだ。


「本部があった場所は最寄り駅から徒歩で数分。駅の周りに彼らの仲間がいるかもしれないから、口と行動には十分注意して」

「あぁ。分かってる」


 新一がラムの視線の先を辿ると、たくさんの人であふれかえる、現在住む家の最寄り駅の看板と言う名の終着点があった。
 さっきまでの穏やかな表情はどこへやら、新一の目に映るラムはいつの間にか他人をはねつける凛々しさを取り戻していた。
 改めて新一も、汗ばんだ両手を握りしめて、緩みかけていた緊張感を全身に行き渡らせた。


















「ほ、本当にこの駅なのか?」

「ええ」


 すっとんきょうな声を上げたあと、新一はそれきり黙り込んで感覚を視覚に集中させた。
 『本部があった場所』の最寄り駅の周りは、お世辞にも都会とは言えなかった。駅の外に出てまず新一の目に入ってきたのは、田園風景。その中に建物が点在していた。


「三年前と何も変わっていないように見えるわ」


 ラムの独り言に新一は更に混乱した。こんな場所にあるとは予想していなかったのだ。しかし、すぐにその考えを脳内から消し去り、独り言に独り言で返した。


「まぁ、裏の裏をかくっていう手もあるしな」


 新一は、そう呟いた瞬間、何か恐ろしいものを見たかの如く表情が歪んだラムの姿が目に入った。真っ直ぐ前を見つめたまま、何かを考え込んでいるようだった。
 するとラムは何を思ったのか、自分の左側にあった新一の腕を無理矢理に取り、両手で抱きしめた。


「お、おい? 何を」

「良いから黙って。このまま真っ直ぐ歩いて」


 静かながら勢いのあるラムの声に気圧されて、新一は言われた通りに歩き始めた。
 新一の足取りがどこかぎこちないまま、二人は前から歩いてきた一人の男とすれ違った。

 その男はスーツを身に(まと)い、黒い(かばん)を片手に提げ、革靴とアスファルトの接触しあう音を奏でながら歩いていた。顔立ちから、どうやらイギリス人のようだと新一は判断した。
 男が駅の中に消えていったのを確認して、ラムは静かに新一の腕を解放した。そうしたあとも、男が消えていった入り口を見据えていた。


「どうしたんだ?」


 新一の問いに、ラムは声を潜めて答えた。


「彼の顔、見たことあるわ。本部の中でね」

「……ってことは」


 そういうこと。ラムは、音のない言葉を新一に示した。













サブタイトルの直訳:手がかり











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