(13/22)縦書き表示RDF


作:都神紗茅



13.Vicious circle


「ここよ」


 新一がラムに案内されてやってきたところは、あの方提供の家。その見た目は、良くも悪くも他の民家と何も違っていなかった。
 その家があるのはヒースロー空港から徒歩で十五分ほどの、大通りから一本入ったところであった。特別目立つわけでもなく、存在感が皆無と言うわけでもない不思議な場所だった。
 しかし、夜は少し遠くに大通りの灯りが見えるだけで、その家の周辺は闇に包まれていた。


「安心して。ちゃんと部屋は分けてあるし、私達がここにいる間、彼は資金援助もしてくれるみたいだし」


 そう言ってラムは庭の戸を開き、玄関へのレンガの道を歩き始めた。新一もそれに倣って敷地に足を踏み入れ、内側から戸を静かに閉めた。
 歩きながら新一は、庭の中に車のガレージを見つけた。白いであろうシャッターは完璧には閉まっておらず、車の影がうすらと見えた。


「あの車も?」


 新一の言葉にラムは一瞬立ち止まり、手に持っていたバッグから家の鍵を取り出して、


「えぇ。そうみたいね」


 言い終えると同時に、ラムは鍵を抜き玄関の戸を開いた。そして手探りでスイッチを探し、とりあえず玄関の内外の灯りをともした。


「そうみたい、って……あの男はどうしてここまでしてくれんだよ? 家を用意したり、車を用意したりよ。いくらお節介っつったって、仮にもオレは少し前までオメーたちの敵だったんだぞ」


 室内に入り、戸が完全に閉まったところで新一はたたみかけるようにラムに言った。彼女に聞いたところで自分を満たす答えが返ってくるわけがないと分かっていた。しかし、聞かずにはいられなかった。
 ラムは少し考え込んでから、


「あなたを認めたんじゃない? 私もあなたの活躍を多少見たことあるけど、なかなかのものだって思ったし。あなたになら出来るんじゃないかって彼は思った……そう言えば、あなたも納得するでしょう」

「その言い方、まるでオメーが作り上げた話みてぇだな。第一、オレは完全にオメーを信用したわけじゃねぇから」


 新一の喧嘩を売っているような言い草に、ラムは全く動揺することもなく落ち着いている。それが逆に新一の不信感を煽った。
 新一の心臓の鼓動が、玄関と言う狭苦しい空間をあっという間に支配した。


「だから何? 彼に認められたとは言え、あなたには逃げ道を行く選択肢だってあったはずでしょう。あなたはどうしてここにいるのかしら」

「そ、それは」


 言葉に詰まった新一に、ラムは新一に同い年とは思わせないほど重くのしかかるようなオーラを絡ませながら、更に続けた。


「じゃあ、質問を変えるけど、何故私があなたと行動しているか分かる? 本部には、一般人のあなた一人の力だけじゃ塵ほどの小さな証拠を手に入れることさえ不可能だからよ」

「……な、何が言いたいんだ?」


 新一がオーラから這い出てやっと発した言葉は、滑稽なほどか弱くかすれていて、無力であった。そんな自分を初めて目にして、新一は気まずそうに視線を右往左往させていた。


「まず一つは、本部は日本支部なんかとは桁違いだってことよ。あなただって分かるでしょう? 日本支部を潰せたからって舞い上がってると、身の破滅に繋がるってこと」


 さらさらと重力に任せて落ちていく砂時計の砂のように、ラムは言葉を口にして行った。全く感情的にはなっていなかったが、その一つひとつは新一の心に突き刺さった。


「そしてもう一つ。それは、日本支部にいたメンバーの中で、私だけがかつて本部に所属していた経験があったからよ」


 ラムの言葉に、新一は目を大きく見開いた。言いたいことがありすぎて、喉の辺りに詰まって余計に言えなくなっていた。その栓にまた一つ、また一つと脳から別の言葉が浮かんできた。そのようなキリがない悪循環に新一はさいなまれていた。











サブタイトルの直訳:悪循環











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう