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作:都神紗茅



10.He couldn't tell her the truth without fear.


 澄んだ(さえず)りが響き渡る、いつもの朝がまたやってきた。
 新一はその景色を見る度に、罪悪感に(さいな)まれていた。また一日、出発までのカウントが刻まれていくのを感じていたからだ。

 寝ぼけ眼で窓の下を見てみると、彼女の姿が真っ先に目に入ってきた。今日も迎えに来てくれているんだと思うと、余計に心が傷んだ。
 時計に目をやると、今から家を出てギリギリ遅刻にならないくらいの時間だった。


「おはよ、新一。ちゃんと朝ご飯食べた?」

「あー、食ってない。寝坊したし」

「どうせ、遅くまで小説でも読んでたんでしょ?」

「まぁな」


 新一はこの世界の時計の秒針が一つ進むごとに、嘘を一つずつ身に纏っていった。それと共に、心臓から押し出された血液がじわりと全身に染み渡っていくのを感じた。


「なぁ蘭」

「ん?」


 目の前にある笑顔に、新一は余計に真実を言い出せなくなってしまっていた。結果的にこの行動が(ずる)くなるとは分かっているが、現実へまだ行きたくない自分がいた。


「今日の小テスト、範囲どこだっけ?」

「教科書の九十ページから九十五ページだけど。何か、新一らしくないね?」


 変わらない笑顔で接する蘭から、思わず目を逸らした。今の自分と全く違っている彼女が、隣を歩いていることに違和感さえ感じた。
 そんな新一に、蘭は静かに声をかけた。


「新一、やっぱりおかしいよ?」

「バーロ。何でもねーよ」


 蘭の言葉をはね除けて、新一はさっさと先を歩いていってしまった。
 そんな姿を、蘭はやり場のない思いを感じながら見ていた。









 あっという間に、時間は過ぎていった。結局新一は蘭に告げる機会を見つけることが出来ず、家に帰ってきてしまった。
 目の前にある彼女と繋がる機械を見つめながら、手を出したり引いたりしていた。
 そんな中、それが着信を知らせてきた。軽く震える手で掴み、文章に目を通す。


『数学で分からないところがあるから、明日暇だったら教えて貰っていい?』


 少し悩んでから返信画面を開いた。


『午前中だけでも良いなら』

 
携帯を閉じたときに丁度、返信が来た。


『ありがとう。じゃあ、明日の朝九時くらいにそっちに行くね』


 了解、とメールを打ち、ソファに突っ伏した。そんな姿でも、表情は真剣そのものであった。
 真実を伝えるのがこんなにも苦しいなんて、思ってもみなかった。

 秒針に視線の中心を合わせると、自分がそれの刻む時間(とき)に支配されているものだと実感した。

 いつも見慣れているくせに、心情が違えばこんなに変わって見えるものなのだろうか?

 その内、新一は睡魔に襲われて意識が遠退いた。












 遠くから、人工的な音が新一の耳に侵入してきた。
 両手を使い、だるい体を重力に逆らってソファから起き上がらせた。時計に目をやると、九時十七分であった。
 前日のメールのやり取りを思い出してから、人工的な音の連続がチャイムだと分かった。


「これからシャワー浴びっから、中に入っててくれねーか? 鍵開けとくから」

『うん、分かった』


 後頭部を掻きむしりながら、覚束ない足取りで風呂場へと向かっていった。





「で、Xにその数値を代入していけば……」

「あ! そっか」

「んじゃ、問二も同じようにやってみな?」

「うん」


 『大阪・昼間の繁華街で殺人事件、犯人逃走中』目に、新聞記事の文字が入ってきた。頭にはすぐあの(やかま)しい高校生探偵の姿が浮かんできた。
 それはさておき、すぐ目の前にいる蘭が気になった。
 もうすぐ日本ここを発ち、外国へと向かうと言うのに、周りに広がる景色は悲しいほど不変であった。
一時の迷いを断ち、新一は新聞を降ろして目の前の彼女に言葉を告げた。


「もし、仮に、の話だ」









サブタイトルの直訳:彼は不安なしに真実を告げられなかった

この話の最終部分が、第2話に繋がっていく形になります。
これからは作者自身が書くのを楽しみにしている、新一渡英編へと向かっていきます。











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