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俺の娘は乙女ゲームのヒロインかもしれない

 勢いで書いてしまいました。
俺の娘は乙女ゲームのヒロインかもしれない


 俺の娘、桃子は超絶かわいい。
 ちょっと予定より早めに産まれた桃子は、はじめましてした瞬間、「ふえっ、ふえっ」ってかわいい声で泣いたんだ。両手に収まるんじゃないかと思うくらいの小さな女の子。たった2400g。俺は一生この子を守るんだって心に決めた。
 生まれてすぐから写真をとりまくったけど、桃子が中心だったものだから、全部の写真で妻が見切れていて後から怒られた。

 生後1ヶ月で、目が合うようになった。
 生後2ヶ月では、抱っこで寝かしつけしても、布団に置いたとたんに大きな声で泣かれて困った。
 生後3ヶ月で、しっかり首が座った。
 生後4ヶ月で、寝返りを始めた。うつぶせになったままになっていないか、夜は心配で眠れない。
 生後5ヶ月で、お座りした。なんだかお姉さんになったなあ。
 生後6ヶ月で、歯が生えてきた。妻が乳首を噛まれたと、大騒ぎしている。桃子のために乳首位……はい、すみません。
 生後7ヶ月、おい、ハイハイしているぞ!こっちだぞ。お父さんはこっちだ。
 生後8ヶ月、つかまり立ちか?おっと、危ない。
 生後9ヶ月、初めての動物園。そうか、桃子はレッサーパンダさんが好きなのか。お父さんが好きなのは、大鷲さんだぞ。
 生後10ヶ月、初めて熱を出した。40℃だぞ。救急車、救急車!妻に赤ちゃんにはよくあることだからと救急車を呼ぶのを止められた。3日目の朝、あっさりと熱が引くと、すぐにおもちゃで遊び始めた。
 生後11ヶ月、立ったー!一人で立ったぞ!
 生後12ヶ月、自由に歩き始めるようになった。桃子はお父さんが大好きなんだな。すぐにお父さんのところに来るんだから。


 1才になると赤ちゃんサークルで仲良くなったって言う近所の親子を妻は家に呼ぶようになった。
 たまたま所用があり、家にいた俺は挨拶だけでもと妻に言われてリビングに入った。
 おい、その子大丈夫か?頭に変なものがついているぞ。
 その男の子の親に聞こえないように、妻に尋ねたが、妻は俺の方が大丈夫かと聞いてきた。
 眼鏡を拭いて、もう一度その男の子を見る。
 やっぱりおかしいだろ。
 いや、おかしいのは俺の頭なのか?その子の頭についているものが、何かのパラメーターに見えるぞ。でも、その針はゼロを指したままだった。
 桃子が「ぱぱぱ(多分、俺のこと)」って言いながら、俺の膝に抱きついてきたから高い高いをしてやる。首がしっかり座るまでは高い高いで揺すぶられっ子症候群になるからとしていなかったが、今ではねだられるとすぐに高い高いしてやる。「きゃっきゃっきゃ」と笑う桃子が愛らしい。
 俺は、その男の子の頭のパラメーターの事なんてすっかり忘れてしまった。


 桃子は4才になった。
 超絶かわいいが、無限大にかわいいに進化した。だって、「おとうしゃん」って俺のことを呼ぶんだぜ。残業断って帰宅すると、玄関で飛び付いてくるんだぜ。膝に乗せて絵本を読んでやると、俺の胸にコトンと頭を傾けるんだぜ。スーパーで一緒にお買い物しているときにお菓子を持って「これしゅきなの」なんて言われたら、つい「かごに入れたらいいじゃないか」って言っちゃうよ。妻は俺が桃子に転がされてるっていうけれど、でれでもいいさ。俺は桃子に出会うために生まれてきたんだから。





「山形に嫁にいった従兄弟がね、離婚して、こっちに戻ってくるんだって。桃子と同じ歳の男の子がいるから、母さんに面倒見てやってって言われたわ」
 妻の従兄弟は、こちらに戻ってくると地元の利を活かしてすぐに仕事を見つけた。実家暮らしなので、子供の面倒は伯父さん夫婦が見てくれるが、まだ友達もいないため桃子に仲良くしてほしいとお願いされた。同じ幼稚園に通うことになった。
「まさきです。よろしくおねがいします」
 うん。なかなか、行儀のいい子だ。ほら、桃子も。
「……」
 桃子は俺の膝にしがみついて離れない。仕方がないなあ。シャイなんだからなあ。ほら、俺のそばにいれば安心だぞ。
 ん???
 雅樹くんの頭になんか変なものがついているぞ。あ、パラメーターだ。

 雅樹くんは、外で外で遊ぶよりも家で遊ぶ方が好きなようだった。おとなしい桃子と気があったようで、次第に仲良くなっていった。二人して一冊の本をのぞきこんだり、Eテレビの子供番組を見て二人で歌ったり踊ったりしている。
 そんなときに気づいた。
 頭の変なパラメーターの数値が上がっている。最初はゼロだったのに、今では50位だ。
 なんだろうか、あのパラメーターは。どうやら俺にしか見えないようだが。一回病院に行った方がいいんだろうか。行くとしたら、眼科か……いや精神科にまわされそうだ。精神科はハードルが高い。よし、このまま様子見しよう。


 注意深く桃子の周りの子供を見てみると、5人の男の子の頭に例のパラメーターを見つけた。
 最初うちに遊びに来た男の子、大河くん。
 桃子の再従兄弟、雅樹くん。
 幼稚園の友達、健二くんと亮ちゃん。
 同じマンションで下の階の雄大くん。
 雄大くんだけ2学年年上で小学1年生、他はみんな同じ幼稚園の年中さんだ。
 そして、パラメーターだけじゃなく、頭にドクロマークをつけている子も見つけたぞ。
 雄大くんの妹の優奈ちゃんとだ。
 優花ちゃんはちょっと意地悪だ。桃子が遊ぼうとしていたおもちゃを先にぶんどって「ダメ」って言うし、他のお友達とと遊んでいると割り込んできて桃子を置いて別のところに引っ張っていっちゃうんだ。最初に見たときは、注意してやろうと思ったけれど、妻に子供同士なんだから普通、ああやって人間関係を勉強しているのって言われて、我慢した。



 その頃、会社の飲み会があった。
 新入社員の一人の女の子が趣味は乙女ゲームだと言っていた。他の新入社員は引いていたけれど、俺も昔は恋愛シュミレーションゲームをしたことがあったので、ちょっと懐かしく思い話を聞いてみた。
 そして思った。
 桃子は乙女ゲームのヒロインかもしれない。


 飲み会の帰りに電車の中でスマホで情報収集する。
 そして疑いが確信に変わった。俺にだけ見えるパラメーターが何よりの証拠だ。
 頭のパラメーターは友好度。それをくっつけた男の子達は「攻略対象」そして、ドクロマークの優花ちゃんは「悪役令嬢」。
 攻略対象だなんて言っても、あの手この手で、ヒロインの気を引こうとするくせに!おのれえ、子供とはいえ、桃子に手を出そうとするとは許せん!


 攻略対象の5人がどんな子か妻から情報収集する。

 まず大河くん。ユーモアがあり、いつも面白い事をするそうだ。まずまず仲がいい。パラメーターでは友好度33。
 雅樹くんは、知ってるから飛ばす。友好度57。
 健二くんは、両親がエリートなせいか幼児学習に熱心で、ひらがなカタカナはもちろん、英語も読み書きできる。少し仲がいい。友好度42。
 亮ちゃんは、お父さんが芸術関係の仕事をしているそうでお絵描きが上手。よく一緒に絵を描いているそうだ。まあまあ仲がいい。友好度41。
 小学生の雄大くんとはあまり接点がないと思っていたら、そうでもないらしい。面倒見のいいお兄さんだったそうだ。優花ちゃんは雄大くんのことが大好きだけれど、雄大くんはベタベタする優花ちゃんが苦手で、その代わり桃子を可愛がってくれた。優花ちゃんは、それがおもしろくなくて桃子に意地悪をするんだろうという妻の分析だった。友好度53。

 桃子、大河くん好きか?
「しゅき」
 桃子、雅樹くん好きか?
「しゅき」
 桃子、健二くんと亮ちゃんは好きか?
「ふたりともしゅき」
 桃子、雄大くんは、
「しゅき」

 なんてことだ、もう桃子に手を出していていたとは。
 みんな悪い子じゃないことはわかった。わかったけれど、そのうちの一人が桃子の彼氏になるかと思うと、たまらない気分になる。第一桃子に彼氏なんて早すぎる。まだ4才だぞ。
 よし桃子から男の子達を引きはなそう!


 そう心に誓ったある日のこと。
「おとうしゃん、うわきとりこんてなに?」
 うっ、子供に一番目と二番目に質問されたくない言葉だ。ちなみに三番目はリストラだ。
 浮気って言うのは、(結婚の)約束をやぶることだよ。離婚っていうのは、絶交することかな?どうしたんだい、そんな質問をするなんて。
「たいがくんのおとうさんがうわきして、りこんするかもしれないんだって」
 ヘビーだ。大河少年に同情する。
 そうか、大河くんは寂しい思いをしているかもしれないな。桃子は優しくしてあげなさい。
「はーーい」


 別の日。
 雅樹くんが、引っ越すかもしれないと妻から教えられた。
 お母さんの仕事が順調で、別の支社に栄転するらしいのだ。
 よっし、これで一人除外だ。
「おとうしゃん、ももこ、まさきくんとはなれるのいや」
 寂しいもんな。そうだ。お手紙を書こう。桃子はひらがな全部書けるかな?お手紙と一緒に、押し花とかも入れてあげるといいぞ。


 また別の日。
 健二くんは小学受験するために、塾に通い始めたらしい。
「けんじくん、いじわるいうのー。ももこが、おてがみのれんしゅうしていたら、まちがっているっていうの」
 どれどれ。ああ、「す」と「ま」が左右反対になってるね。健二くんは、教えてくれたんじゃないのか?
「ちがうの。まえはやさしくおしえてくれたのに、いまは、バカっていうの。いじわるなの」
 うーーん。ストレスが溜まっているのかもしれないな。ストレスっていうのは、がんばりすぎて苦しくなるってことだよ。お受験の勉強も大切だけど、子供は遊ぶことも大切だね。桃子は、健二くんがわーーって楽しくなるような遊びを考えてごらん。


 またまた、別の日、そしてまた別の日も、なぜか亮ちゃんが我が家で夕飯を一緒に食べていた。
 妻が言うことには、芸術家のご両親が創作活動をするときに、亮ちゃんの世話をすっかり忘れることがあるらしい。お腹をすかせた亮ちゃんをほうっておけず、桃子がうちに連れてきたそうだ。
 そうか、芸術家は周りが見えなくなるからなあ。亮ちゃん、いつでも来なさい。泊まっていってもいいぞ。でも、お風呂も寝室も桃子と一緒はダメだぞ。


 そして別の日。
「ゆうかちゃんが、いじわるするの~」
 なんて事だ!優花ちゃんちの親に文句を行ってく……はい、だめですか。妻に止められた。
 優花ちゃんは、桃子の物を隠したり、絵本を破って桃子のせいにするらしい。でも、大河くん、雅樹くん、健二くん、亮ちゃんの4人が守ってくれているそうだ。そして、とうとう優花ちゃんのお兄ちゃんの雄大くんもその事を知ったそうだ。
 明日、子供たちみんなで優花ちゃんを注意するらしい。
 それって、断罪イベントじゃないか?やっぱり、優花ちゃんは悪役令嬢なのか!
 桃子、優花ちゃんのこと嫌いか?
「いじわるなゆうかちゃんはちょっときらい。だけど、ふつうのときはきらいじゃないよ」
 そうか。桃子は心が広いな。
 同じマンションなのに、断罪イベントなんてしたら、この先ずーーっと気まずくなる。子供とはいえ、忘れられない傷になることもある。優花ちゃんのためにも、そして桃子のためにもよくないな。
 みんなで優花ちゃんに注意するのは、止めてもらいなさい。それで、なんで優花ちゃんは桃子にいじわるなのかを、ちゃんと聞いてみなさい。難しいし、嫌な気持ちになるかもしれないけれど、ちゃんと聞いてごらん。
 それでもダメだったら、お父さんが桃子を守ってあげるよ。





 何故だ。何故こうなった。
 攻略対象全員のパラメーターの友好度が100になっている。つまり満タンだ。
 優花ちゃんはドクロマークが消えて、クエスチョンマークになっている。悪役令嬢から、お助けキャラになったってところか。
 イベント一つで満タン&属性変更なんて、いきなりだろう。全員チョロインなのか?子供だからなのか?


 大河くんのご両親はぎくしゃくしているものの元のサヤに収まった。雅樹くんのお母さんは、親の助け無しに一人で育児をできないと栄転を断った。健二くんは、受験勉強が起動に乗ったみたいで落ち着きをとりもどした。亮ちゃんはしばらくうちにいて、それに気づいたご両親が亮ちゃんのためにあわてて家政婦さんをやとった。優花ちゃんは、桃子が取り持って、雄大くんと仲良し兄妹になった。

 もしかして、好感度上げのイベントだったのか?
 引き離すつもりだったのに、好感度をあげてしまったのか?



 大河くんは桃子に黄色のリボンをくれた。
 桃子、大河くん好きか?
「だいしゅき」

 雅樹くんは、水色の手紙をくれた。
 桃子、雅樹くん好きか?
「だいしゅき」

 健二くんは緑の鉛筆を、亮ちゃんはピンクの服を着たももこの絵をくれた。
 桃子、健二くんと亮ちゃんは好きか?
「ふたりともだいしゅき」

 雄大くんは赤い花をくれた。
 桃子、雄大くんは、
「だいしゅき」

 なんてことだ。「好き」から「大好き」になってるぞ。
 あの子達の一人が桃子の彼氏になるどころか、ハーレムにってしまうぞ。これは何とかしなくては。

 そこで、はたと気づく。そう、相手は子供だ。子供は親の言うことを聞くものだ。桃子にあの子達と遊ぶのをやめなさいと言えばいいんじゃないか?

「いや!おとうしゃん、キライ!」
 それと妻の冷たい視線。
 桃子に話しかけても、背中を向けて聞こえないふりをして、エルちゃん人形の口に哺乳瓶を当てている。
 桃子、お父さんが悪かったよ。
 大河くんも、雅樹くんも、健二くんも亮ちゃんも、それに雄大くんだってとってもいい子だ。お父さん、桃子が大河くんや雅樹んや健二くんや亮ちゃんや雄大くんにとられちゃうんじゃないかって、ヤキモチを焼いたんだよ。
 お父さんは、桃子のことが大好きで、桃子がお父さんよりも他の子を好きになったらどうしようって思っちゃったんだ。
 ごめんな。
 桃子が誰を好きになっても、お父さん応援しなくちゃいけないのに。
「ももこは、たいがくんも、まさきくんも、けんじくんも、りょうちゃんもゆうだいくんもすき。あそんじゃめっていわれてかなしかった」
 桃子はエルちゃん人形の顔を見つめたまま言った。
 そうだよな。ごめんな。
「でも、ももこ、おとうしゃんがいちばんすき」
 俺は胸がぐっと熱くなる。眼鏡越しの桃子の姿が涙でぼやけた。とっさに俺は桃子を抱き上げていた。
 お父さんも、桃子が一番好きだよ。
「ぎゅーーーーー!」
 小さい腕が俺を抱き締める。
 ぎゅーーーーー!桃子が苦しくないように、俺も抱き締める。



 その夜、俺は妻にパラメーターが見えること。そして桃子が乙女ゲームのヒロインかもしれない事を打ち明けた。
 精神科受診を勧められるかと思ったら「私の父さんもそんなこと言ってたわね」そう言ってカラカラ笑った。
 お義父さんが?あの強面のお義父さんが?
 それで分かった。俺にとってかわいい娘は桃子だけれど、妻だってお義父さんにしたら同じなんだって。
 俺はライバルを蹴散らして妻の愛を勝ち取った。お義父さんは苦虫を噛み潰したような顔をして、結婚の報告を受けていた。そして結婚式では人目をはばかることなく大泣きしていた。
 いずれ桃子も恋愛をして、誰かと結婚する。俺も結婚式では大泣きする自信がある。
 でも心の底から願っている。幸せになってほしいって。
 なあ、今、幸せか?
 そう妻に問えば、「ふふっ」と桃子とそっくりな笑顔が返ってきた。
赤ちゃんは「ま」や「ぱ」をやたら発音する時期があります。「お父さん」って教えているのに、「ぱぱぱ」なんて言われると俺のこと?って思っちゃうそうです。親ばかですね(笑)

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