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ケン、ターキー ~アメリカン一家の宿題~

作者: 三角 仁

この小説に欧米に対する悪意等はございません。

エセアメリカンとして、お楽しみください。

「ああ! なんてこった!」

 少年は大げさに両手を挙げた。

「どうしたんだ、マイサン。昨日のママのチェリーパイが砂糖と塩を間違えてたってことはママには内緒にしておこうって言っただろ。ごまかすために二人で全部食べたんだ。いまさらお腹が痛くなったからって、ママに話すんじゃないぞ。」

 父親は息子の声に驚きながらも、昨日のことを思い出して吐きそうになった。

「ああ、違うよパパ。そのことじゃないんだ。それにお腹の中身は昨日の夜に全部、下水道のパイプを通っていったさ。」

「じゃあ、何だっていうんだ。」

「パパ、明日は何の日だい?」

「ケンにとって、いい意味と悪い意味がある日だってことくらいは知っているよ。」

「いい意味は?」

「もちろん、君がこの世に誕生した大切な日だ。」

「ありがとう。じゃあ、悪い意味は?」

「ああ、明日で君の夏休みは終わりになるんだろう。」

「そう、重要なのはそれなんだ。」

「どうした、まさか。」

「そのまさかさ、重要な任務の漏れに気づいちまったのさ。」

「ホームワーク?」

「イエス。……オーマイシャカ!」

 意外にも彼らは仏教信仰だった。

「でも、全部じゃないだろう、パパは知っているぞ。休みの前半で数学の宿題を計算機で解いてた賢い君を!」

「ああ、パパ、漏れたのは一つだけ、そう、ただ一つさ。自主性に任せるなんて言っておいて、それなりのレベルに達していなければ、評価もされないし、叱られちまう理不尽なやつだよ。」

「あれかい、やっかいなやつが残っちまったもんだな。」

「そう、理科の自由研究さ。」

 ケンは頭を抱えながら大きなため息をついた。

「ハァー。……でもね、そこでパパにお願いがあるんだ。」

「おおっと、みなまで言うんじゃアない。パパの研究成果を学校にそのまま持ってくってのは、そりゃあご法度だぞ。」

 実は父親は生物学者なのだ。もちろんこの作品はご都合主義である。

「いや、パパ、違うんだ。そう、違う。たしかに考えはしたし、言おうともしたけど、そんな砂糖たっぷりのプティングみたいな考えが許されないことだって知ってるよ。」

「じゃあ、どうするんだい? パパのホルマリン漬けでも提出してみるかい。おー怖い。」

「ハハ、それもいいね。でも、僕は明日の誕生日も楽しめるクレバーな方法を思いついたんだ。」

「さすがはマイサン。さあ、パパはまずどうすればいい。」

「まず、明日のメインディッシュに丸ごとのターキーを準備してほしいんだ。」

「なんだって? それでどうやって宿題を済ませるんだい。ターキーがペンを握ってやってくれるように魔術でも使うつもりかい? まったくファンタジーでクレイジーだ。」

「違うよパパ。あくまでターキーはおいしく食べるためにあるのさ。大切なのは、残った骨さ。」

「骨? ああ、そうかい、わかってきたぞ。さすがはマイサン。クレバーだね!」

「ありがとうパパ、そう、パパの知識を借りて、骨格標本を作りたいのさ。手伝ってくれるだろ。」

「もちろんさ、じゃあ、早速電話で注文をしてあげよう。」

 そういって、父親は電話をかけた。


「もしもし、ああ、注文をしたいのだが……、ターキーの丸焼きを一つ……、え? いや、丸焼きがいいんだ。一匹丸ごと欲しいからね……、まあ、たしかにそうだが、しかしね……、」

「パパ、どうしたの?」

「ん?……ああちょっと待ってくれ、相談をする。」

 父親は受話器のマイクを手でふさいで、ケンに応えた。

「ケン、今、注文をしているところなんだが、一羽を丸焼きじゃなくて、部位ごとに分けたものにした方が食べやすいですよと業者が言ってるんだ。」

「どっちにしろ、一羽丸ごとは来るんだよね?」

「ああ。」

「じゃあ、バラでも大丈夫だよ。業者の人も気を使ってくれているんだろうしさ。」

「わかった。……ああ、大丈夫だ。バラでも構わない。その代わり、特別おいしいのをお願いするよ。……ハハ、息子の誕生日なんだ。……頼んだよ、じゃあ。」

 そういって、父親は通話を終えた。


~ 誕生日当日 ~


「いやあ、ターキーはおいしかったね、パパ」

「ああ、あんなに食感がいいなんて、パパも知らなかったよ。」

 ターキーは食べ終わり、骨は特殊な溶液に浸され、肉を溶かしていた。母親は先に寝ている。

「さて、そろそろいいだろう。ケン、溶液を捨てたら、組み立てていくぞ。」

「わかったよパパ。」

 溶液を洗い流し、きれいになった骨を組み立てていく、父親が生物学者らしく、関節の様子をよく見ながら、どの骨を次にくっつけるか指示を出す。

「それにしても、手羽の部分はおいしかったな。ママも手羽のジューシーさを絶賛してたしね。」

「あ、やっぱり? 僕もあの手羽は最高だと思ったんだ。また食べたいね。」

「そうだな、また何かの記念日には注文をしよう。」

(あれ……?)

 ケンは何かを不思議に思ったが、何かはわからない。

 骨はだんだんと組みあがっていた。

 組みあがっていくほどにケンと父親の顔はこわばっていった。

 最後のパーツをはめる。

「パパ……、これは、なんていうの?」

「……クレイジー。」


 できあがったターキーは、羽が六本あった。そして、鳥類のくせに四足歩行だった。

 家族三人でターキーを一羽食べて、三人とも手羽が食べられることはないはずだった。ケンの違和感はこれだったのだ。


 次の日、パパは仕事場にあのターキーを持っていった。

 ケンは学校にパパの研究成果を持っていった。

 

 その一週間後。

 ターキーを頼んだ業者は廃業した。

 ケンの自由研究は金賞を取った。


もしかするとタイトルが書きたかっただけかもしれません。

ちなみに今作品はあらゆる団体、人物、現象とは関係のないフィクションであります。


……多分。

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