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  7 -seven- 作者:瀬谷和泉
    2.繋ぎ止められた眼差し
移動教室から戻ってきた廊下に、落ち着かない様子で教室内を覗いている男の子がいた。
腕に嵌めた学年章代わりのレザーブレスの色から一年生だって分かる。

(…誰か、探してるのかな…)

「どうかした?」

いきなり声を掛けたのがまずかったみたい。
ううん、肩を叩いたのが驚かせてしまったのかも。

「わっ! あ、あの…あぁっ!!」

両手で抱えていたプリントが、勢い良く廊下に散らばってしまった。

「ごめんね!? あぁもう…」
「いえ! 違うんです、僕が――」

四本の腕が忙しなく紙を拾い集めるその中に、新たな腕が侵入してきた。

「如月くん」
「あ、会長!」

別々の呼び方で同じ彼を呼ぶ。
同時に重なった声に面食らったような顔をした如月くんが、少し間を置いて笑った。

「息がぴったりだな」

大きな彼の手は、私と一年生の二人分と同じ位の働き振りで。
あっという間に束ねられたプリントの山。

「ありがとうございました、先輩…ああっ」

律義にぺこりと頭を下げて、その勢いでまた山が崩れ落ちそうになる所を如月くんの手が止めた。

「すいません……会長! あのこれ、資料出来上がったんでチェックお願いします」

束ねた山の一枚を手渡して。
今度はしっかりプリントを押さえた状態で、頭を下げていなくなる。

なんだかオモチャみたいに賑やかで、楽しい子だなって。
後姿を見送りながら笑みが浮かんだ。

「あいつ、仕事は恐ろしく出来る奴なんだけど…いかんせん、さっの調子でね。まぁ色々とやらかしてもくれるんだ」

会計を担当する彼は、箕輪くんって言うんだって。

「放って置けないタイプね、彼」

当然同意してくれるものだとばっかり思ってた声がなかなか返って来ないから。
そちらを振り仰ぐと、軽く握った手を口元に当てて私を見下ろす如月くんの目が、楽しそうに細められていて。

「……それ、楠が言うんだ?」
「えっ? ――あ、」

――“ホント放って置けないよな、楠って”

同じような台詞を以前彼に言われた記憶が引っかかった。

……っていうことは。

「私って――おもちゃみたい…だったりする?」
「おもちゃ?」

私が箕輪くんに抱いたような印象を、如月くんも私に抱いているんだとしたら。
すごく子供みたいに思われてるんじゃないかって、恥ずかしくなった。

「あ、い、いいの! なんでもないわ!」

慌てて取り繕おうとする私に、

「楠は、子犬みたいだよ」

くすくす笑いながら如月くんがそんなことを言う。

「あちこち引っ掻き回して騒がしい…から?」
「――巧いこと言うね。俺は単純に見た目で言っただけ。拗ねた時の顔とか、可愛くて思わず抱…手を差し出したくなるからさ」

結構頻繁に、如月くんから手を差し延べられてる気がするけど……
つまり、それだけよく拗ねてるって…ことよね?

(やっぱり私ってば、子供みたいに思われてるんだわ)

「ほら、それ」

俯き加減で何気なく口を尖らせていた私は慌てて顔を上げた。

「…イジワルだわ、如月くん」

小嶋くんが「あおいを困らせてやりてぇ」って言ってる気持ち、今ちょっと分かった気がしたかも。

気付いたら見返した如月くんの手が、私に伸びていた。
首元につけた学年章代わりのチョーカー。
フェザーのトップがついたそれを、彼の指がそっと持ち上げた。

鎖骨付近を撫でていった指に、肩が竦む。

「首輪でもつけて、どこへも行かないようにしようか」

冗談めかしに言ってるだけなのに。


…どくん。


――また。


大きく鼓動が胸を打って、少しだけ呼吸が苦しくなる。

いつもよりちょっと甘い、ドキドキさせるような眼差しを向けてくるから。
色気の混じった声で、言ったりするから。


胸が、どんどん苦しくなる。
笑顔が、どんどん眩しくなる。


お願いだから。――これ以上、困らせないで。


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