2.纏わりつく「SEVEN」
――七福神。
――ラッキーセブン。
「7」という数字は幸運を意味するものに表されることが多いけど。
俺の今までを振り返れば一概にそうとも言えなかった。
誕生日に始まって、出席番号や日常の中で当然のように絡んでくる数字を意識し始めたのは、小学校の高学年に入った辺りからだった。
七月になると必ず骨折や捻挫などの怪我に見舞われるのは、今でも変わらない。
中学の時期などは七のつく日が金曜日にかかると、決まって寝込んでしまうほど体調を崩していた。
けれど一方で、受験やここぞという時のくじ的な部分に関わった時は、幸運を逃したことがない。
――良くも悪くも自分について回る数字、それが「7」。
「如月くん。おはよう」
昇降口を抜けて階段に足を掛けた時だった。
頭の天辺が俺の肩にも届かない背丈の女子生徒が、横から顔を覗かせた。
爽やかな朝を迎えるに相応しい柔らかな笑顔に、つられるようにこちらも表情が緩む。
「おはよう」
「昨日はありがとう。ノート、すごく助かったわ。すごく綺麗にまとめてあって、参考書なんかより全然分かりやすかった! ……えっと」
脇に抱えたキャンパス地のカバンの中を、細い腕が右へ左へ忙しく彷徨う。
触り心地のよさそうな質感や肌の白さが、日に日に増していく夏の日差しより眩しい。
「あ…あれ? ちょっと待ってね! 確かに入れたんだけど」
ほんのり紅潮した頬が、人為的に色付けられたものではないことを知っている。
少し甘い花の香りが、緩やかな曲線を描く髪から漂っていることも。
必死に捜索中の彼女―七海をしばらく見守る。
この後に起こるだろう事態を予測しながら、緩みそうになる口元に力を込めて引き締めた。
音が先、声は後。
階段の踊り場に差し掛かった辺りで、中身が勢いよく飛び出した。
「あぁっ! もう…」
――またやった。
とでもいったように呆れ顔で溜め息を漏らす七海を目にするのは、もう何度目だろう。
その度にやっぱりな、と。
必然的に受け止める位には、こういった場面に居合わせている。
「ホント…放って置けないよな、楠って」
好意的な意味合いを含んだつもりだけど、伝わることはまずないだろう。
「そんなこと言うの、如月くんくらい。面倒見が良過ぎるんだと思うわ」
拗ねたような口ぶりに、やっぱりな、と再び心の中で納得する。
俺の家族といえば父親と、母親代わりの若い叔父と、やたら明るい二つ下の弟。
唯一の異性でありながら、制服のスカートを毛嫌いして登校拒否気味の風変わりな妹。
どちらかと言えば華のない家庭に育って来ただけに、飾らずとも自然に愛らしさの溢れるタイプの女子には昔から自然と目が行くようになってはいたけれど。
「ノートは後でいいよ」
「ごめんね」
反省する度に、しゅんと耳を垂らした子犬のような可愛さを見せる女の子出会ったのは、七海が初めてだ。
一緒になってその場に屈み散らかった荷物を拾い集めていると、視線が正面の撓んだキャミソールの胸元に集中してしまう。
悟られないようすぐに目を逸らしたものの、脳裏に焼きつけられた柔肌の谷。
彼女のものでなかったら、さして気にも留めないのに。
自分から、こんなにも異性を意識したのは初めてだった。
彼女は“特別”。
本能的に区分けされた七海という女の子は、俺の中でとても大切な存在だった。
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