第一章 1.夏空と彼女
「今週末の試合は、大丈夫そうだな」
翳した指の隙間から差しこむ眩しい光に、瞳を細める。
短く揃えられた癖も跳ねもないカーキ色の髪がさらり、揺れた。
例年より二週間も早い時期から長雨を齎した梅雨前線。
余程居心地が良かったらしく、次々に過去の気象記録を塗り替えた。
長居していた梅雨が明けたのは七月に入って数日後。
夏休みを二週間後に控えてようやく覗いた日差しに、胸を撫で下ろした学生は多いはず。
週末には、甲子園出場を決定する野球部の大事な試合観戦を控えていた俺―如月蒼―もまた、空を見上げて安堵していた。
いつものように傘を取り出そうとシューズクローゼットを開けてしまった、今朝の出来事を思い出して一人苦笑いする。
「おはようございます――」
横を男子生徒の一人が軽く会釈をして過ぎて行く。
「会長」
「おはよう、箕輪」
高校在籍二年目にして生徒会長を務めることになって三カ月。
その名で呼ばれるのにはまだ慣れない。
声を掛けた後輩もまた、少々神経質な三年生と共に一年生ながら会計という仕事を卒なくこなしている生徒会役員の一人だった。
先を行く頼もしい後輩の背中を、勢い良く飛び込んだ友人らしき男子生徒が力一杯叩く。
箕輪が前のめりに体勢を崩した所で、再び空を見上げた。
――七月七日、晴れ。
何億光年先の星空では年に一度の逢瀬が繰り広げられる、そんな時間。
彼女は、目の前に現れた。
◇
背景に広がる暗緑色に対する肌の白さと同じように、小さな顔に大きな瞳もまた非対称的で……鮮烈な印象として俺の中に焼きついた。
「――よろしくお願いします」
下げた頭が再び上がる。
細い両肩に下りたチョコレート色の緩やかな波がふわり、揺れた。
彼女に対して運命的なものを感じたのは、一目惚れなんて洒落たものじゃない。
今日が、晴れた夜空を眺望出来る数年ぶりの七夕ということを理由にするにも、少々気障過ぎる。
確実なのは。
そこに昔から纏わりつく数字が、見事に重なっていたからだ。
「楠はあの一番後ろ、如月の隣だ」
担任に指定された席へ歩み寄って来た彼女と、視線を交わす。
「よろしくね、如月くん」
「あぁ、よろしく」
黒板に書かれた彼女の名前に、苦笑したのは恐らく自分だけだろう。
――楠七海。
名前に含まれていた一つの数字。
七月七日、七夕の今日は。
十七歳を迎える俺の誕生日でもあったから。
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