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  僕らの旅  作者:yu000sun
 さるさんの意見を聞いて、最近自分の小説の書き方について模索中です。
 どうしたら面白いものが出来るか、ですね。
36.紹介状
「朝よトオル。トオル〜?」

 小鳥がさえずる気持ちのいい朝。扉を叩く音とともにアーウィンの明るい声が聞こえてくる。

「っつぅ〜……」

 一方で呼ばれている透は、布団の中で頭を抱えながら悶えていた。次第に強くなっていく扉をノックする音が頭痛を誘い、彼女の明るく澄んだ高い声がキリキリと絞めつけてくるようだ。ソファーの上で横になっている松之介が、同じく頭痛に苦しまれながらも、恨めしそうに扉を、そしてこちらを睨んでくる。
 あ、音が止んだ。

「……お、おきてま――」
 ガチャッ
「とおる〜?」
「! はぅっ」

 布団から起きあがって弱々しく呼び掛けの返事を言おうとしたその時だった。扉が突然開いたかと思うと、アーウィンが声高らかに叫ぶ。
 敏感になっている耳の鼓膜が異常に震えたかと思うと、頭の内側から真っ二つに割れるような鋭い痛みが走った。
 みっともない叫び声に加え、松之介の野太いうめき声が聞こえる。
 い、今のは相当利くよ。

「これが……これが、通常なら二十歳を過ぎた大人のみが味わう痛みなのか……?!」
「あちゃ」

 無駄にかっこよく一言一言吐き捨てる様に言う透は、最後に「無念」と言うとともにガクッと沈黙に伏した。


 その後、二日酔いに万能的効力があるという、味わい心持にスカッとするお水を彼女から渡された。
 しみこませるようにゆっくりと何杯かのんだ二人は、徐々にはっきりとしていく頭でアーウィンから一つの提案を聞き、難色を示す。
 彼女の提案とは、師を持って腕を鍛えないかという事だった。

 はっきりとした答えを返せずに松之介と困惑顔でチラチラと見合っているうちに、透に会わせたい人が居ると言ってアーウィンは二人を外に連れ出したのだが、待ち合わせ場所の北西門通り噴水広場に居たのは――

「よう、おはよう」

 男勝りで褐色の肌、銀髪で顔に少女の面影を残す女性――リシアだった。昨日の軽い鎧をまとった戦闘服ではなく、今日はシャツにデニム生地のショートパンツを穿き、茶色い革のロングブーツを履いていた。
 野性味あふれ、頭には紅いスカーフを巻き、その結び目が耳の上で結ばれていて、とっても似合っている。

「ん? なんだお前らその顔は」

 昨晩の彼女は、とても可愛らしく三人の会話の中でも、別人だねー、といい意味で話していたのだが、再び男勝りのしゃべり口調に戻っていたことに落胆していることを隠しきれなかった。
 透たちは打ち解けたということで、可愛らしい喋り口調になっていると思っていたのだ。

「たぶん、昨日のことじゃないかしら?」
「? アッハッハッハッ! ああ、アレか」

 一瞬、何が何だか分からないといった彼女の表情が、一拍の間を置いて一瞬にして明るくなり、豪快に笑った。

「あれは気にするな。酒癖かしらんが、ああなるんだ」
「そ、そうなんですか」

 自分のことなのに、「しらんが、ああなる」で済ませる彼女がとても男らしく見えた。

「で、会わせたいって奴が居るんだが――」

 彼女は『付いてこい』といった仕草をすると、レストランとは反対方向の――右回りに表通りへ歩きだした。

「昨日、酒場にはアイツが来ていない様子だったけど、その仲間が二人来てたんだよ。ガードナーっていう類いのやつらなんだが――」

 三人を率いる形で前を歩くリシアの言葉に、透はピンっときた。

「大柄の人と、濃い茶髪の人ですか?」

 咄嗟に思いだした三人目のガードナーの特徴を含めて言うと、リシアは目を丸くして透を見た。
 あ、可愛い。

「あ、ああ」

 アーウィンが『綺麗』なら、リシアは時折見せる仕草が『可愛らしい』。エルフィンも可愛いに入るが、エルフィンの場合、時折見せる素がとても大人のように落ち付いている。
 なんて言うんだろう?……でも、ただの可愛いとは違うよね。

「よく知ってるなぁ。実際に会ったことあるのか?」
「昨日の晩は見てませんけど、一週間くらい前に、アルフォリアさんを含めた四人の人がレストランに来たんですよ」
「へ〜。世の中は結構狭いな」

 ――いや、世の中って規模が大きすぎるでしょ。街の中だし。

 うんうん、と頷くリシアに、透はそうですね〜っと適当に返事を返しながら思った。その後、何気なしに松之介に話しかけて後ろに戻ると、入れ替わるようにアーウィンがリシアと会話し始めた。
 松之介がアーウィンに武器のイロハを聞かされていたのだ。彼は熱心に聞いて頷いている様子だったが、時折生返事に聞こえる相槌が聞こえた。
 一方でアーウィンは、更に熱心に話し込んでいて、話の区切りをつけると、他にも話し始めそうな雰囲気だった。

「……助かったよ透」
「気にすんな」

 少々疲れた様な顔をした松之介がかすれるほど小さい声で囁いてきたので、顔を押し戻して応えた。
 耳元で話されるのって嫌なんだよね。女性だと特に! あ、女性の場合、嫌というよりダメなんだけどね。

「いや、勉強になるんだが――」

 チラッと前を行くアーウィンに視線を移した。彼女らは楽しそうに話している。二人は彼女らから、少し距離を開けて話していた。聞かれたら気分を害すに違いない。

「どちらかというと、俺はもう少しマイペースにのんびり旅をしたくてな」
「……師匠の薦めか?」
「いぇす」

 武器の話になっていたのは、扱う武器で利点、弱点が全く変わりその使い方と戦い方も自ずと変化してくるというもので、まず、お金がたまったら一度、自分にぴったりと合った武器を、お金の出し惜しみをせずじっくり選んでみるがいい、という事だった。
 だとしたら、次の講義は恐らく、同じ武器でも扱い方に千差万別のスタイルがあるということで、色々と説明されることに違いなかった。

「やっぱ話を中断させない方が良かったかな?」

 透の、予想しうる話の続きを伝えると松之介が急にしまったという顔をして呟いた。
 それは――そうかも。

「……お〜、ゴメン」
「え? あ、おい?」

 俯いてしょんぼりと謝ると、松之介が答える言葉に戸惑った。

「あ、いや――そう、この世界(ゲーム)って、体を鍛えると強くなるじゃん? なら我流で戦うのもキツイかもしれないと思ったら……ってことだよ! そう気にすんな?」
「……ぷっ」

 慌てて元気づけようとしているのか、ひきつった愛想笑いをする松之介に、その酷い顔で思わず笑ってしまう。
 引き攣った愛想笑いがホッと安堵の表情に変わったが、透が、いかに松之介が酷い顔をしていたか伝えると、急に怒り出し、そうかと思うと「ま、いいか」とため息をついた。

「そういえばさ」
「ん?」
「アーウィンさんからお前らの話聞いてると、なんだかすごく強いみたいだけどさぁ」
「? ああ、そうみたいだな」

 松之介を顔を見上げると、少し話が見えないと言った顔だった。

「……どうなってんの?」
「どうなってるって聞かれてもなぁ――筋トレして由久とチャンバラをしてたらこうなった」
「言ったってお前……体力差があるって言っても、話に聞く様なほど差はなかったはずだよ、俺ら」

 松之介の答えに呆気にとられた透は、松之介が言った次の言葉で納得した。

「ほら、ゲームだから。レベル上げにあんな制限付けちゃったからじゃね?」
「あ、そーいうこと」
「そういうことだ」

 じゃぁ、実際にどれほど強くなったか証明してみよ、と松之介に言うと、一瞬剣に手を置いたが、思いなおしたようにその手を(おろ)した。

「……さすがに臨戦状態じゃない状況の街中で剣を片手に振り回すのは、危なすぎるよな」
「そうだね〜」

 少し困ったように腕を組んで唸る松之介だったが、透は違う事に頭が回っていた。幾らなんでもあの重たい剣を片手で触れるのかと思うと、驚きだった。
 悔しいな。なんだか二人だけ強くなってるんじゃないか。
 どちらにせよ、現実であれば両手でなんとかといった状況だろうが、片手は無理だろう。魔法さえも使えるゲームだからこそか。

「――わっ?!」

 考えこんでいると、突然後ろから脇腹を掴み上げられ、ぐあっと透の体が持ち上がった。視線がいつもよりとても高い。と少し下がって何かの上に座った。右太ももの横に何か当たる。

「ぬいぐるみを持ち上げたみたいだ」

 驚いて見ると、右足に当たっていた物は松之介の頭だった。透は今、松之介の肩に座っていた。
 ぬ、ぬいぐるみって……。せめて人間(こども)にして!

「……まぁ、すごいが視線が痛い」
「ん? ああ、悪い」

 見下ろすと所々から透を見上げる顔があることに気が付いた。急に視線を感じた透は、ひょいっと身軽に肩から飛び降りる。

「お前、体重何キロ?」
「さぁ。そういえば、こっちで体重計を見たことないよね〜」
「二人とも? なにしてるの」
「あ」

 遠くから叫び声がしたかと思って聞こえた方を向く。アーウィンとリシアがこちらを向いて、お店らしき建物の前で立っていた。
 気が付くと二人と彼女らの間には結構な距離が開いている。慌てて駆け寄った。

「おんや〜? デート気分かな?」

 二人が近づいてくると、リシアが目を座らせてニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。ふと、松之介の顔を見ると渋柿を食べたような嫌な顔をしていることに気が付く。
 おそらく虚しく思っているんだろうな。中身が俺だから。
 俺にはそういう趣味はない旨を伝えると、リシアがギョッとした。ついで、松之介がそれは俺の台詞だ! と反論してしまった為、リシアがザザッと身を引かせる。

「……テラス。あたしはこの二人どっか存在の分からぬところに捨ててきた方がいいと思うね」
「いやね、二人とも照れてるのよ」
「……お二方。貴女たちは、とっても致命的な勘違いをシテイマス」

 青ざめてヒクヒクと顔を痙攣させているリシアと、初々しいわよね、と微笑むアーウィンに、無性に男に戻りたいと思った透であった。
 そもそもこんな姿なのが面倒事の発端だよな。
 ……まぁ、考えてもみれば、先ほどの光景を男で再現しても気持ち悪いことこの上ないねぇ。ふと、エルフィンなら喜びそうな気がした。
 あれ? 俺の中でエルフィンさんがどんどん一般人ばなれしていくな。

「ま、そこら辺は後できっちり矯正してやるよ」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「それじゃぁ、やっぱり照れてるんでしょう?」
「あの、アーウィンさん。まずはお話しを……」
「黙れ! お前たちどちらとも、あたしの友達と二人っきりになった瞬間、首をねじ斬るからなぁ!?」
「……。」

 松之介と透が交互に弁解を試みると、リシアがクワっと表情を変えて怒鳴った。その猛る姿に、二人は背後に百獣の王の姿を垣間見る。
 身の危険を感じた二人は反論するすべもなく、そのまま押し黙って建物に入って行くリシアの後について行くしかなかった。
 その後ろでアーウィンは透と松之介のことをみて、フフフっと笑いつつ、急にはっとすると、じゃぁヨシヒサはどうなるのかしら? と一人、恋話を楽しんでいる。

 う〜ん。アーウィンさんも、最初のころと比べると、大分砕けた印象になってきたなぁ。

 中に入ると、建物の内側の大部分が木造であることに気が付く。入口と呼べる開け放たれた空間から数メートルほどで受付があり、左手に階段、右手には奥に続く通路があった。
 リシアが早速、受付の男性――恐らく三十代後半に見える男性――に話しかける。
 人の気配を感じて上に視線を移すと、一階と二階が吹き抜けになっていることに気が付く。

「ええ、先ほど二名様がそちらの方へお行きになりました」
「そうか。サンキュ」

 受付の物腰丁寧な男性が右手の通路を差したので、リシアはスッと額に二本指を立てた状態で当てると手首のスナップを利かせてピッと振った。
 なんでこの人の行動ってカッコいいんだろ? 男性的でという意味で。

「おし、こっちだ」

 顎で奥の通路に行くことを三人に伝えるとそちらに歩み出した。表通りにそるように伸びる十メートル程の廊下は、窓から日差しが差し込んで光のタイルが出来ているようだった。
 次第に人の気配――会話する多くの声が聞こえてくる。部屋に踏み出すと、そこは隣に立っていた大きな食事処だった。
 四角いテーブルが整然と並び、人々が食事をしている。その多くが、修繕作業をしている街の人だった。

 廊下から来たリシア達に気が付いたウェイトレスの若い女性がリシアの所に駆け寄ってくる。入店の際、聞かれる言葉はこちらでも同じらしい。
 何名様ですか? と聞かれるとリシアは手を胸の高さで言葉を止めるように据え、いや、人と待ち合わせをしてるので結構だ、と首を振った。
 畏まりました、と店員が言うと他の店員が対応しきれずに入口で立っている新規のお客の方へ駆けて行った。

 例の待ち合わせの人をリシアが首をのばして辺りを探していると、ちょうど対角線上にあるような場所に視線が止まり、足早に歩いて行く。
 透も彼女が行こうとする先を見ると、窓際のテーブルで見覚えのある二人の青年の姿が見えた。
 が、座っていたのは翠髪の魔術師と、予想を反して、透がつい先ほどまで忘れていたあの黒に近い焦げ茶髪の青年だった。
 魔術師の方は何やら本を読んでいて、横に座る剣士は夢中になって目の前の食事にガッついている。

「……おう、待たせたな」
「あ、来ましたか」

 彼女が近づいて声をかけると、本を読んでいた青年が顔を上げて笑顔で答えた。彼の名前は確か……ハイウィンド・アスヴァイターという名前であるはずだ。

「こちらも食事を取っていたところなので、どちらかといえば早いくらいです」

 気品あふれた青年魔術師は本を閉じると、テーブルの下――恐らく膝の上に本を置いた。彼の前のテーブルには食べかけのパンとマグカップに注がれた冷め気味のスープが置いてあった。

「そうか。邪魔したな」
「いえ、お構いなく……」

 言葉とは裏腹に正面の席に座るリシアに、魔術師の方は苦笑しながらもマグカップを手に取るとスープを飲む。
 その間に、リシアが三人にも座るように目くばせした。
 それならと、透がリシアを恐れて何気なしに向こう側に行こうとしたところ、急に左手首に痛みを感じ、腕が強く引っ張られ無理やり椅子に座らせられた。

「お前は、ここ」
「!?」

 微笑んではいるが、どことなく邪悪なオーラを漂わせている。
 リシアに骨が軋むほどの握力で掴まれた透は身の危険を感じ、反射的に松之介の腕を掴んで、芋蔓(いもづる)式に松之介もリシア側の席に座った。
 窓際に魔術師が座り、今も食事に夢中になってガッついている剣士の隣にアーウィンが座りその正面に松之介。
 そして松之介とリシアの間に透が座る形となった。六人テーブルの中で、アーウィンの隣に、今のところ変態と認識している二人を座らせるつもりはないらしい。

「さて、私に頼みごととは、一体どういったものですか?」

 一段落ついたと見た魔術師は空になったマグカップを脇に追いやって聞く体勢になる。

「ああ、実は隣のコイツがな」
「え――」

 急に指を差された透は思わず声を発するが、その直後にありえない速さで、リシアの手が風を切って飛んできて、口をふさいだ。

「こいつぁ、具現化の魔術者なんだが、具現化となると――」
「つまり、伯父に紹介してほしいと?」

 具現化の魔術者。この言葉を聞いた途端に察しが付いたという風に表情が変わった魔術師は、言葉を制して聞き返した。
 彼の言葉には不思議と安らかさを感じる。

「おお、そういうことだ」
「そうですか……」

 リシアが頷く。彼は品定めするように透を観察すると、やがて了承したと言った感じで頷いた。

「いいですよ。別にかまいません――ですが」

 彼は紙にスラスラと紹介文を書きつつ言葉を区切った。

「あくまで、私が出来るのは紹介文を書くだけです。伯父は気難しいということはありませんが……。あの人は、どちらかというと師弟関係にはあまり興味を持っていないお方ですので――はい、これをどうぞ」

 差し出された紙はリシアではなく透の方へ向けられていた。戸惑うも、リシアが肘で透をついて後押しする。透は、恐る恐るといった感じで招待状を受け取った。

「他にもご用件は?」
「いや、ないな。一応有ったには有ったが――自己解決した方がよさそうだ」

 リシアの答えに彼はそうですか、と穏やかに答えると、では旅にでる準備があるので、といって席を立ちあがった。

「ああ、今日はありがとな」

 リシアが親しげにお礼を言った。彼は少し顔を横に向けてこちらを見ると笑顔で会釈した。
 いつの間にか食べ終わっていた剣士の方も無言で立ち上がるとこちらに一礼して外に出ていく彼の後を追って行く。
 あれ? レストランに来ていた時よりも随分と印象が変わっていたことに、透は呆けた様子でその姿を追って眺めていた。

「さてと」

 未だにぼんやりと出口を眺めていた透の横で、リシアが立ちあがった。

「お前ら二人。これからあたしの特別講義を設けてやるから――ついてこい」
(……ねぇ、俺たちって昨日会ったばかりだよね? リシアさんと)

 食事をとるかと思えば席を立って出ていくリシアに、二人は眺めるかの様な遠い目で彼女の姿を追った。

(ああ、そうだが……追わないと、また面倒な事になりそうだぜ?)
(そうだね〜)

 松之介が立ちあがると、渋々透も立ち上がる。一定の距離を保って彼女の後を追い、表通りに出る。

(あったばっかりってさぁ、もっと抑え気味の態度が普通じゃない? ほら、礼儀って)
(……いや、俺たちの常識こそ、ここじゃぁ非常識なのかもしれん)
(俺はぁ今、とてつもなく不安になったよ。人見知りにはつらい設定ですわ〜)
(どこのエセ方言だそれ)

 透がしみじみとした口調でふざけると、松之介も幾ばか低いテンションで突っ込みをいれた。逃げ出そうか? その案が出たが、もし捕まった後のことを考えるとその気は失せた。

「あぁ……俺今、とっても憂鬱デス」
「その意見に、俺も同意だ」

 そう言っているうちに、彼女はどんどんと歩いていき、やがて東門通りを通って街の外に――え?

「さて、お前ら」

 外に出て平原を暫く歩いた後、彼女が威勢よく振り返った。同時に透たちの後ろから短い棒が二本、彼女の元に投げられる。
 彼女は身軽に飛ぶといとも簡単に、そして鮮やかな身体技で二本を受け取ると構えた。

「大体、察しはついてるだろうな?」

 リシアがドラマティックな声で楽しむかのように言う。後ろから棒が投げられたことにより、後ろに誰かが居る事に気が付いた二人は、慌てて後ろを振り返った。

「っ!?」

 二人が後ろを振り向くと、見知らぬ男がリシアとは長さの違って棒を三本もって立っていた。後ろでリシアが何か合図したのか、この状況に驚いている二人に一本づつ投げてよこす。

「あのテラスが言うくらいなんだから……どれくらいのものか気になってたんでね」

 声に応じて透が振り返ると、彼女は軽いストレッチを織り交ぜながら、体を斜めにし、腰を落とすと右手を通常持ち、左手が逆手で右肩の付け根の高さに構える。
 それに合わせて後ろの男も構える。松之介が構えていることを見て、透も構えた。
 少し離れた所からアーウィンの応援する声が聞こえた。どうやら、元からこういう事をするつもりだったらしい。
 え〜ちょっとあんまりじゃないですか?アーウィンさん。せめて朝の時に言ってくださいよ……。付け加えて

「……取り敢えず、お腹が減ったばい」
「どこのエセ方言だそれ」

 お腹がぐ〜っと鳴き、透が泣き顔に近い顔で呟くと松之介があきれ顔でツッコミを入れる。

「後で食わせてやるさ――んじゃぁ、行くぜっ?!」

 楽しんでいる様子の挑戦的な笑みを浮かべた彼女の一声で、特別講義が始まった。


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