◆Vol・3◆
「あんまりその時のことは覚えてないけど、確かに地獄少女について訊かれたよ」
中村佐織は、裕に向かってそう言った。
そして、彼女がある男にそれを訊かれたのは三年前ではなく四年前だと言う。
「ぶっちゃけた話し、キミは地獄通信にアクセスしたのかい?」
佐織は表情を曇らせてひと呼吸間をあけると
「知らない」
「えっ、だってキミの事だろ?」
「だからその頃の事はよく覚えてないし……それに、そんなの言えません」
彼女はそう言って、家の中に戻って行った。
裕は、佐織という少女の家を女子高の前で会った娘から聞きだしてここまで来ていた。
少しだけと言う事で玄関先へ呼び出し、中学の頃の話を訊いていたのだが、彼女はあまりその頃の事を覚えていないと言う。
本当か嘘かはわからないが、彼女が地獄通信へのアクセスを成功させたであろう事は、裕には読み取れた。
裕の携帯電話が鳴った。
「ちょっと、何処にいるんですか?」
女子高に置いて来た美佳からだった。
「ああ、わりい。急用ができてさ」
裕はそう言って頭をかくと「で、そっちはどうなった?」
「ばっちり、話は聞けましたよ」
「そうか、直ぐに迎えに行くから」
裕は急いで美佳を拾った後、一端社に戻る為に車を走らせた。
「で、どうだって?」
「やっぱり交際してたみたい」
美佳は車の窓を開けて、外の風を車内に取り込んだ。
「でも、最初は援交だったようね」
「援交?」
「でも、彼女が小林弘樹に本気になったみたい」
「本気? だって相手は30過ぎだぜ」
「歳は関係ないって事なんでしょ」
裕は「へえ」と納得いかない相づちをしてから
「それで?」と、前を見たまま言った。
「小林にとっては、お金を出さなくていい都合のイイだけの援交相手だったのかもね。潮時だからと言って、ひと月前に関係を断ち切られたみたい」
「一人と長く続けると、足も着き易いからな」
裕も窓を開けると、タバコを咥えた。
「ちょっと、この車禁煙でしょ」
美佳はそう言ったが
「それで? 渚は地獄通信にアクセスしたって?」
美佳はタバコの事は諦めて話を続けた。
「それが……返事は聞けなかったの。ただ、あんな奴、流れて当然だって」
「地獄へ流す……か」
裕はそう呟いて、半分になったタバコを、灰皿に擦り着けた。
二人は社へ戻ると、再び資料室へこもっていた。
「ねぇ、聖さんは何処に行ってたんです?」
裕は、四年前に地獄通信を使ったらしい少女の話を聞かせた。
「その娘もアクセスしたのかしら」
美佳は小さな流し場で、入れたてのコーヒーをカップに注ぐと一つを裕に差し出した。
「おそらくな」
裕はコーヒーを美佳から受け取ると、スチールの棚から三年前の新聞記事をまとめた部厚い縮小版の冊子を取り出してページをめくった。
「四年前の事件?」
「ああ、佐織の近辺で何かが起きているはずだ」
裕のカンは的中した。中村佐織が通っていた中学で当時同級生の失踪事件が記事として載っていた。
その少女もまた、外出した気配の無いまま真夜中に自室で消息を絶ったらしい。
「もう、完全に地獄通信を信用しているみたいね」
その記事に食い入る裕を見て、美佳が笑った。
「証拠が何も無いんじゃ、信用するとかしないとか、それ以前の問題だろ」
裕は見ていた記事をボールペンで突きながら
「地獄流しの証拠は無いのか? 彼女達はどうやって相手を地獄へ送るんだ?」
「地獄少女にのろいのワラ人形をもらうらしいわ」
「そのワラ人形は? その後どうする?」
「消えるっていう噂よ」
美佳は自分で入れたコーヒーを啜った。
「消える? 跡形も無く?」
美佳はカップを手に、何度も頷いた。
「だいたい地獄少女って何モノだ? 何処に住んでる? 判らない事だらけだ」
ボールペンを机に放り投げる裕を見た美佳は
「益々本気で調べたくなったでしょ」
「謎の失踪事件があるのは事実だ。俺はその謎を解き明かしたいだけさ」
裕はそう言って顔を上げると、コーヒーを啜った。
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