「ねぇ、アイ。」
ある日の事だった。不意にXが話しかけてきた。
「何でしょうか。」
「アイはいつも何してるの?俺が誰かになってる時とか。」
ちょっと考えるとアイは言った。
「基本的にはあなたの盗んだ品を処分しに行ったり…機材を買って来たり…。と言う所でしょうか。あとはあなたの手伝いですかね。どうしたんですか、急に。」
Xがアイの様子を気にする事なんてめったに無かったのでアイは疑問を持った。
「アイ、今日は俺のコトしなくていいや。」
「は…?」
そんな事を言うのも初めてだった。自分のことばかり考えているこの人が人のことを気遣って物事を行うなんて無かったから。
「だからさ、街に出て買い物でもして来なよ。俺は誰かになってるからさ。」
「しかし、X…。」
「いーからっ!ほら、財布に鞄!行ってらっしゃい!」
グイグイとアイを部屋の外へと追いやる。そしてドアを閉めると、厳重に鍵までしてしまった。
―――…。
買い物に行けといわれても。
買う物も特に無いし、どこかに出かける用事も無い。
気まぐれだな、あの人はホントに。
結局アイは街に出かけるしか他無かった。
***
―――さて…。街に出たのは良いものの…。
何をしようか。
アイは特にどこへ行くというわけでもなくただ町をぶらぶらと歩いていた。財布と鞄はあるものの、する事がないのならただの邪魔な荷物。
「あ!あなたはあの時の!」
後ろから急に声を掛けられた。聞き覚えのある声は桂木弥子のものだった。
今日は手にたこ焼きを持っている。しかも手にかけた袋にはまだ残り五つの箱が入っていた。
「…500万は返せませたか。」
「あなたのあのハンカチでなんとか…。ところで今日はどうしたんですか?」
「主人が急に家から追い出しまして…。特にする事はないのですが。」
主人とは勿論Xの事。
「そう…ですか。だったらこれ、一緒に食べません?若菜のたこ焼き!」
そう言ってヤコは袋の中の箱を1つアイに渡した。特に行く当てもないので、素直にアイは頂く事にした。
「…いただきます。」
***
「どうですか?外はサクサク、中はトローリ。最高のたこ焼きでしょう?」
おんなじコトを何回も言い返しながらヤコは三つ目の箱に取りかかった。そんなヤコを見ながらアイは三つ目のたこ焼きを口に入れる。
同じ三つ目でも、単位が違うから驚きだ。
ふと、こんな疑問が口をつく。
「主人は…何を考えているのでしょうか。」
いや、ずっと前から考えていた。何故今日に限って、Xは私を追い出そうとしたのだろう。
「主人にはもう私はいらないのでしょうか。」
もう私が必要のない存在だからだろうか。
あのネウロと言う男が自分の中身と似ていると思って、もう私の中身は必要はないと思ったのだろうか。
「それは…違うと思います。」
ヤコが三つ目の箱に取りかかる前にこちらを向いて話し始めた。
「私はあなたの主人がどんな人か知らないけど…本当に嫌いなんだったら、そんな追い出しかたはしないと思います。
この前あった時はあなたが主人のB級の品をたくさん持っていて、処分すると言っていましたよね。
あの時のあなたは本当にその人の為に一生懸命働いていた気がしました。
あんなに一生懸命仕事をするあなたを…そう簡単に捨てないと思います、あなたの主人さんは。」
―――…どうしてこの人は私の為に一生懸命話してくれるのだろうか。
だけど、アイにとってその言葉はとても嬉しかった。
思わず、口に僅かながら笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます。桂木弥子さん。」
「そんな、お礼を言ってもらうほどじゃ…。」
そう言いながらたこ焼きを食べ始めた。アイも、残りのたこ焼きに手をつけ始めた。
そのたこ焼きは、さっき食べた物よりも美味しかった気がした。
***
その後ヤコとアイはすぐに別れた。ヤコがネウロに呼ばれたからだ。
アイはまた暇になった。特に当ても無く街を歩いてみたりしたが、特にこれと言って引かれる物は無かった。
そんな時、携帯の着信メロディーがなった。この番号はXにしか教えていない。という事は、彼しかいないだろう。
「はい。」
「アイ?もう帰ってきて良いよ。というより、今すぐ帰ってきて。」
「はい。」
返事をするとすぐXは電話を切った。
―――本当にわがまま放題だな、あの人は。
進む足を止め、Xのいる方へと進む方向を変える。
―――にしても…何を考えているのだろう。
その事がずっと、アイの頭から離れなかった。
***
「お帰り!アイ。」
「ただいま帰りました。」
鞄を床に置き、顔を上げようとすると目の前に小さなリボンのついた箱が目の前にスッと出された。
「なんですか、これは。」
「アイ、確かこの前誕生日だったでしょ?だからあげる。」
「はぁ…。」
ゆっくりと包みを開いてみる。中にはまた箱がある。開いてみると中には青い宝石が四角くカットされた指輪が入っていた。
「これ…。」
「俺がつくんのは赤い箱でしょ、だからアイには青い箱。」
そっけなく言うがアイにとってはとても嬉しい言葉だった。
「ありがとうございます。」
そう言ってアイは右手の薬指にそっと指輪をはめてみた。ぴったりのサイズだった。そこでやっと気付いた。
今日アイを部屋から出したのもこれをくれたのも、アイの誕生日の為だったと言う事を。
物忘れの激しい彼が、私の誕生日を覚えていてくれた。
そして最高のプレゼントをくれた。
その日は、今までのアイにとって最高の誕生日だった。
***
「アイ、これ一応箱に詰めるからさ、運んどいて。」
「分かりました。」
数日後、Xはまた、アイと共に赤い箱を作っていた。
そのアイの指には、あの青い宝石のついた指輪は無かった。そのことにXは今日になって気付き、アイに声をかけた。
「アイ、あの指輪は?」
「箱に入れて保管しています。あなたと仕事をしているとどうしても宝石が汚れてしまうもので。…だから」
そこでアイは一旦切って、Xの方をじっと見ていった。
「あなたの中身がわかって…この仕事をしなくなったらその時に付けます。」
「そうなの?俺その前に殺しちゃうかもしれないよ?」
「その時は私の箱の中にちゃんとこれをいれてください。約束です。」
「いいよ。」
1つあくびをしながらXは言った。
―――私は…アイで良い。
あなたの隣の消えて見えない存在、だから
アイで、良い―――
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