新旧天才バトル
大会初日が無事閉幕し、その帰り。
轟は勝利の余韻に浸り、意気揚々と闊歩している。
その横で茶化す優。
そして、二人の後ろを浮かない表情でついてゆく花織。
ふと、轟は花織が一言も発さないのに気づき、振り向いた。
「どうしたんだよ? オレたち勝ったんだぜ?」
明るく声をかけるも、花織は俯いたまま足を止めるのみ。
轟も気遣って立ち止まり、優もそれに合わせて振り返った。
花織はただ一点を見つめ口を閉じていたが、数秒後……。
「……皆さん、とても強そうでした」
消え入りそうな声で呟いた。
対し、轟は頼もしい笑みを返す。
「心配ねえよ! この轟様が全員残らず蹴散らしてやらぁ! それに、優だって何も勝ちを強要してるわけじゃないと思うぜ? なあ、優?」
「……まあ、そうだな。だが、オレはまだ決め手を見つけていない」
「はあ? 何の話だよ?」
「その話だ。そもそも、オレが依頼を引き受けた理由は、答えを見つける手がかりになると思ったからだ。このままだと、オレはまた神に負ける。そうならないためにも……」
「おいおい、そのために利用してるってのか? 酷ェなお前!」
轟が優を批難したその瞬間。
「あのっ!」
花織が声を上げた。
思わずそちらへ向く轟へと、花織はまっすぐに視線を返す。
「お気遣いありがとうございます、轟さん。ですが、優さんは最初にちゃんと言ってくれてます。私はそれを了承してお願いしたんです。なので、優さんを責めないでください」
轟は予想だにしない発言に面食らい、ばつが悪そうに背を向けると先へと歩き出した。
慌てて花織は手を伸ばし……。
「あ、あの! 轟さんも私のことを心配してくれたのはわかります! ありがとうございます!」
誠心誠意、そう叫んだ。
が、轟は振り返らずに先へと行ってしまう。
それを不安気に見つめる花織へと、優は些事だとばかりに笑ってみせる。
「気にするな。あいつも別に怒ってないだろう」
「でも、無視されてしまいました……」
「それは礼を言われて照れてるだけだ」
丁度そう言った直後、轟が振り返った。
「おい優! 余計なこと言ってんじゃねえだろうな!?」
そう叫ぶのを聞いて、優は苦笑する。
「ほらな。心配ない」
優がそう言うと、花織はようやく胸を撫で下ろした。
「よかったです……」
「ああ。……二回戦のことも、お前が本気で戦えばそれでいい。いい試合さえ見せてくれれば、オレが得るものも何かあるだろう、きっと……」
「……いい試合、見せられるでしょうか?」
「それはお前次第だな」
再び俯く花織。
だが、数秒後には顔を上げ……。
「はい。頑張ります!」
力強い決心と共に、日差しに表情を輝かせた。
――そして特訓の日々が再開した。
二回戦は一か月後。
それに向けて、ひたすら練習の日々。
そして、二週間程が経ったある日……。
突如、しばらく顔を見せてなかった翔がカードショップへ訪れた。
彼は優たちの特訓が一段落するのを見計らい、歩み寄ると……。
「ちょっといいかな? 優君と是非とも手合わせ願いたいんだけど」
そう言うなりデッキを取り出した。
花織と轟は驚き、動向を窺う。
見守られる中、優はしばらく考えた後……。
「……敵城の視察か?」
いつも通り、飄々と問いかけた。
だが、翔はいつにもなく真面目な表情のまま、一切崩そうとせず……。
「違うよ。僕は二回戦中に辞退する予定だから。でも、その前に……」
鋭い視線と共にデッキを突き付けた。
そしてさらに、目を見開く優へとまっすぐに視線を交わす。
「君という素晴らしいプレイヤーと戦わずに終わるのは、どうしても惜しくてね!」
強い口調。
真剣な目。
それらは、これまでに彼が見せたことのない姿だった。
優もそれに応じ、鋭い眼光と共にデッキを手に取る。
緊張が漂い、熱戦の気配を嗅ぎつけて観客が集いだす。
そして、バトルが始まった。
優の初期手札5枚に対し、翔は4枚。
その代わりに場の手前に伏せられた1枚のカード。
先攻後攻が決定すると、翔はそれをオープンした。
公開されたカードは、忍耐の象徴ジェイド。
設置という効果により、初期手札1枚の代わりにストックゾーンへ置くことができるカードだ。
翔は、1ターン目を迎えると即座にそれを手に取った。
「忍耐の象徴ジェイドを使用。ライフを1消費し、魔力を1つチャージさせてもらうよ」
「……カウンターの使用をスキップする」
「なら、僕はこれでターン終了」
ターンが回ってきた優は、まず火の魔力をチャージ。
そして、火の国の軍師を召喚し、超魔術サボタージュ・リライトを手札に加えてターン終了。
続く翔の2ターン目。
「木の魔力をチャージ。そして、ストーンペアーを召喚。カウンター、使うかい?」
「……パスだ」
「なら、ストーンペアーでプレイヤーへ直接攻撃!」
ストーンペアーはアサルトという効果により、召喚してすぐに攻撃が可能。
イラストに描かれた梨のモンスターが、3ダメージを受けた優を嘲笑うかのように歯を剥き出している。
実際、これは上手い攻め。
ダメージを与えたから、というわけではない。
仮に、ここで軽量レプリカを並べた場合、全体ダメージで返されてしまう。
かと言って、強いレプリカを出そうものなら、手札へ戻すカードで対応されて終わり。
だが、アサルトによる攻めを兼ねていれば、話は別。
たとえ手札に戻されようとも、与えた3ダメージはそのまま残る。
回復するためには、さらに手札と魔力を支払わなければならない。
現状、それを行えるだけの十分な魔力がない優は、仕方なくウェーブフィッシュを召喚し、ストーンペアーを手札へ返した。
苦肉の策だが、これで場は優が有利。
加えて、前のターン召喚した火の国の軍師により1ダメージを翔へと与え、僅かながらライフ差も挽回している。
だが、翔はこれで終わるような生温い相手ではない。
続く3ターン目……。
翔は再びストーンペアーを召喚し、攻撃した後さらにカードを場に出した。
「ゲイルスパローを召喚」
「……スキップだ」
「使用時の効果でカードを1枚引き、その代償に……」
翔は山札を手に取り、目的のカードを探し始める。
そして、見つけ出すとそれを捨て札へ置いた。
「インフェルノブリンガーを捨て札へ。これでターン終了」
インフェルノブリンガー。
パワーとライフ共に6と強力なカード。
だが、このカードの真の脅威はそこじゃない。
魔力が6溜まってさえいれば、それらを消費することもなく捨て札にあるだけで各プレイヤーへ2ダメージを与える効果を持つ。
当然、翔にも被害が及ぶ。
しかし、先に倒し切るという彼の戦略上、恩恵の方が間違いなく大きい。
現に今、優は二度の攻撃を受けてライフ14。
何とか流れを引き寄せようと、優は再びウェーブフィッシュの召喚を宣言。
しかし、その瞬間……。
「カウンター発動! サボタージュ!」
「……っ!」
サボタージュ。
その効果は、消費魔力0でレプリカの召喚を妨害できるという強力なもの。
ただし、その強力さ故に難点も併せ持つ。
打ち消された側は、使用した魔力を回復するか、もしくはそのレプリカを手札に戻せる。
しかし、前者を選べば予定変更を強いられ、後者を選べばテンポをロスしてしまう。
特に後者は速攻相手には選び難い。
よって、優は思わしくない表情で渋々ウェーブフィッシュを諦めた。
そして代わりにシールドマンボウと火の国の二等兵で守りを固め、ゲイルスパローでドローを進めてターン終了。
迎えた4ターン目。
翔は次なる難題を突きつけるべく、カードを場に出した。
「教祖サンセットを召喚」
「……スキップ」
「使用時の効果でトークンを3体場に出し、さらに祝福の神官を召喚」
「……」
祝福の神官は、使用時に味方全てのライフを1増やす効果を持つ。
1枚で4体のレプリカを並べる教祖サンセットとは相性抜群。
だからこそ、優にも予想はできていた。
しかし、非常に強力なコンボであるという事実に変わりはない。
優は思わず閉口するも、この場面もスキップを選択。
そこへさらに、前のターンに出したストーンペアーの攻撃が加わり、ガードしたシールドマンボウが捨て札へ。
返しのターン。
優が場に出したのは、炎天の修道女と天使の弓兵。
前者は2回復と全体1ダメージ付きのガーディアンで、後者はターゲット1体へ1ダメージを与える効果を持つ。
それらの効果と併せ、既に場にいた3体の攻撃可能なレプリカにより4体の敵を撃破。
さらに、残った魔力でシ-ルドマンボウを召喚し、守りも固めてタ-ン終了。
しかし、ストーンペアーとサンセットのトークン1体は残ったまま。
そんな状況下で迎えた5ターン目……。
翔は木の魔力をチャージすると、捨て札にあるインフェルノブリンガーを一番上に並べ替えた後、手札を1枚場に出した。
「ターン開始時、インフェルノブリンガーの効果により各プレイヤーへ2ダメージ。そして、マンチニールを召喚」
そこに描かれているのは、同じ名称の実在する有毒植物を元にした木のモンスター。
そのリンゴに似た緑色の実は当然、葉の表面さえも毒で覆われているため伝った雨さえ浴びれば有害。
さらには燃やした煙も有毒。
そんな木をモチーフにしたカードはどんな効果になるか、想像に難くないだろう。
その効果が今、優へと牙を剥く。
「使用時の効果で、各プレイヤーへ2ダメージ! そして、召喚済みのストーンペアーで攻撃!」
「シールドマンボウでガード!」
「なら、僕はこれでターン終了。そして、終了時にマンチニールの効果で各プレイヤーへ2ダメージ!」
使用時と各ターンの直接ダメージを持つマンチニール。
そして、ゲイルスパローの効果で山札から捨て札へ置いたインフェルノブリンガーが猛威を振るう。
現状、優のライフは10、場の味方は3体、手札はたったの2枚。
ギャラリーの目には、優の劣勢に映る。
そんな中、翔は不敵に笑う。
「さあ、これで終わりじゃないよね? 見せてもらうよ、君の真価を!」
そう呼びかけた対面……優は真顔を返していた。
【デッキ紹介】
デッキ名:アンダンテ
タイプ:オールラウンド
使用者:翔
【デッキ内容】
忍耐の象徴ジェイド:1枚
ソーダ味の魔法石:4枚
ワイズパロット:4枚
幼きエスパー:4枚
ゲイルスパロー:4枚
サンセットの暴徒:4枚
祝福の神官:4枚
教祖サンセット:4枚
ストーンペアー:4枚
超魔術リンクス・リライト:4枚
コンフュージョン:4枚
サボタージュ:4枚
サイレンス:4枚
オネスティ:4枚
インフェルノブリンガー:4枚
マンチニール:1枚
超魔術インサニティー・リバース:1枚
超魔術ファルコン・リバース:1枚
【解説】
設置したジェイドを初手で使用し、緩急自在に攻めるデッキ。
山札から捨て札へ送る効果を利用し、インフェルノブリンガーの効果を起動しよう。