圧倒
モニターに映る各バトルの様子。
中でも一際注目を浴びているのが翔の一戦。
その戦いぶりから力量を計ろうと試みる優。
そこへ神が解説を加えている。
「翔さんはね、カードゲーム黎明期に革命を齎したんだよ。当時流行していたカードの中に、ダメージを軽減するものがあってね。そのせいで速攻は下火になってたんだ。ところが、翔さんはそれを打ち破る秘策を編み出してね。その秘策というのが、ダメージ軽減カードをピンポイントで捨て札へ送れる除去カード」
その話を聞いた優は少し考えた後、怪訝な表情を浮かべた。
「……別に、普通じゃないのか?」
「今の時代ならね。けれど、当時は速攻に異物を入れるなんて邪道だと言われてたんだ。非常識だと批難されてもなお自分を貫くのは、とても勇気がいることだよ。それでも自分を信じ続けた。きっと見えていたんだ、何が正しいのかが……。彼はこう言ってたよ。速攻はただ速ければいいってものじゃない。相手のリズムを狂わすことが勝ちへと繋がる、とても奥深いテーマだと……。今もほら」
神の指さした先、モニターに映る戦局が躍動している。
消費魔力0のコンフュージョンで全体ダメージを打ち消し、それをワイズパロットで回収。
コンフュージョンで打ち消したカードは、相手の選択次第で捨て札から手札に戻されてしまう。
が、ワイズパロットで戻せるカードは2枚のため、リソース勝負では負けない。
最小限の抵抗で、最大限の有利。
戦況は捌けている!
そして、また決着。
……と、バトルの様子を眺めていた少年が、不敵な笑みを浮かべデッキを取り出した。
後ろに並ぶ四十代の参加者から説明を受けた、あの少年だ。
彼がデッキを手に立ち向かってゆくのを止めるべく、その後ろの参加者が手を伸ばす。
「おい、やめとけ」
「いいから見てろって、おっさん。どんなに強くたって、速攻だとわかってれば勝てる。ガッチガチに対策したこのデッキでな!」
「悪いことは言わん。あいつの速攻は変幻自在だ」
「速攻には変わりないんだろ? なら、大丈夫さ」
そう言い残し、駆けてゆく少年。
止め損なった参加者は、対する翔がデッキを変えるのを見て……。
「終わったな……」
と、呟いた。
直後、開幕した少年の悲劇。
序盤は先程同様に低コストのレプリカで攻める翔。
それを低コストガーディアンで迎え撃つ少年。
そこまでは、誰の目にも少年が順調に見えた。
翔の攻めを凌いでいるかのように……。
しかし、中盤に移ると翔は一転、タフなレプリカを召喚しだす。
さらに、終盤には強力な切り札をも降臨させた。
こうして緩急自在の攻めに翻弄され、少年も敗北。
周囲の動揺が加速する。
と、そこへ……。
「こっちにも注目しやがれ!」
怒鳴り声が響き渡り、参加者たちが一斉に顔を向けた。
その目に映ったのは、轟が圧倒する姿!
哀れ、対戦相手はいつものあの罵倒を浴びている。
「お前ら何もわかってねえな! 王の座に君臨するのは、この轟様だ! 見ろ! これが王者の風格だ! 暴れろレッドドラゴン!」
「させるか! カウンター発動、ウェ-ブ!」
その宣言を受けた瞬間、轟は目を見開いた!
その脳内に優との初試合が蘇る。
屈辱を味わった苦い過去。
だが、その記憶も、今や成長のきっかけをくれた良い思い出。
その想起と共に、轟は「ふっ……」と穏やかに笑った。
そして、あの時の自分を超えるチャンスの到来に、ギラギラと目を輝かせる!
「合格だよ、お前。この轟様が認めてやる。あの時のオレになら勝てただろうな……。だが、今の轟様には届かねぇ!」
「何ぃっ!?」
「カウンター発動! オネスティ!」
「ッ!」
ウェ-ブを打ち消され、言葉を失う相手。
対し、生き生きと猛攻を開始する轟。
もう止まらない。
豪快に勝利を決め、次なる犠牲者へと指をさした。
その間にも、再び始まっていた翔のバトルが、終わりへのカウントダウンを刻みだす。
同様に曲者三人衆も次々と勝利を重ねてゆく。
そしてさらに、参加者たち最大の誤算が今、目の前に突きつけられる!!
その存在を気にもかけてなかった彼らに、予想外の方向から……!
「そんなバカな!? 何でこっち側が負けるんだよ!?」
悲惨な叫び声が上がった。
声の主は最前列の男性。
その視線の先、花織に負けた参加者が項垂れている!
轟はそちらをチラリと見ると、不敵に笑った。
「疑いもしてなかったぜ! そうさ、オレたちはなあ……強ぇんだ! お前らに負けるわけねえだろ!」
轟は吠え猛り、さらに勢いを増す。
そして、花織も緊張が和らぎ二戦目へと突入!
相手の攻めに応じて最良のカードで対抗してゆく。
その隙のない戦略に、参加者たちの認識も激変。
逃げるように列を離れてゆく。
だが……。
「どこへ行くんだい?」
その背に向かい、翔が言葉を投げかけた。
何人かはギクリとして立ち止まるも、ほとんどの人は無視して逃げ続ける。
その様子を見て、翔は呆れるあまり溜息を吐いた。
「まだわからないのかい? 準々決勝へ進めるのは6人。そして、僕たちは合わせて6人。つまり、君たちは僕らの内誰かを落とさなきゃならないんだ」
その言葉に、参加者たちはみるみる蒼褪めてゆく。
そこへさらに容赦ない追撃の一言。
「……さあ、わかったら戻っておいで」
そう告げられた参加者たちは、半狂乱で翔たちへ挑む。
しかし、敵うはずもない。
絶望のどん底へと落ち、次々に敗退してゆく……。
しばらくして進出者が決定。
会場にアナウンスが鳴り響く。
「これにて、本戦第一回戦を終了いたします! 進出者は……キャンディ選手! マリー選手! カメレオンパンダ選手! 轟選手! 花織選手! 翔選手! 以上の6名です! 準々決勝は一か月後。それまでさらなる向上を目指し、励んでください!」
会場に拍手と歓声が響き渡る中、進出者たちはお互いの顔を確認する。
轟は負けじと火花を散らすが、花織は不安に表情を曇らせていた。
【デッキ紹介】
デッキ名:トゥモロー
タイプ:長期戦
使用者:花織
【デッキ内容】
聡明の象徴アクアマリン:4枚
ワイズパロット:4枚
幼きエスパー:4枚
サラマンダー:4枚
溶岩の精:4枚
コンフュージョン:4枚
サボタージュ:4枚
カウンタースペル:4枚
ネゲイション:4枚
パラダイムシフト:4枚
サイレンス:4枚
オネスティ:4枚
水神の怒り:4枚
火竜祭:4枚
ラファエルの化身:1枚
アルファ博士:1枚
守り神:1枚
火吹きのヴォルケーノ:1枚
【解説】
どんな攻めに対応できるよう、バランスよく組まれたデッキ。
低コストの大群には全体ダメージを浴びせ、切り札の猛攻はカウンターで対処。
直接ダメージは守り神の軽減とラファエルの化身の回復で乗り切ろう。
【デッキ紹介】
デッキ名:メガスマッシャー改
タイプ:魔力ブースト&猛攻
使用者:轟
【デッキ内容】
忍耐の象徴ジェイド:2枚
聡明の象徴アクアマリン:4枚
心眼の象徴アズライト:4枚
ワイズパロット:4枚
火の国の軍師:4枚
幼きエスパー:4枚
カーム:4枚
コンフュージョン:4枚
パラダイムシフト:4枚
サイレンス:4枚
リアリティー:4枚
オネスティ:4枚
超魔術コンフュージョン・リライト:4枚
超魔術プラン・リライト:4枚
インフェルノブリンガー:3枚
レッドドラゴン:1枚
火吹きのヴォルケーノ:1枚
アルファ博士:1枚
【解説】
優に敗れたデッキの改良版。
召喚を妨害するカードをピンポイントで対策済み。