予選試験
今回の問題を解きたい方は、先にルール説明の特殊判定をご覧いただくとよいかもしれません。
また、本文を読み進めると、解答も目に入ってしまうためご注意ください。
「……それでは始めてください」
合図と同時に、参加者が一斉に機器へと触れた。
教室内には、タッチ音だけが微かに響く。
その静寂の中、花織は一問目を画面へ表示した。
映し出されたのは、対戦を模したパズル問題。
実戦とは異なり、山札や相手の手札を見られるようになっている。
場には何もなく、お互いのライフは4。
花織の手札はファイア1枚のみ。
対する相手はメディテーションが1枚のみ。
魔力は双方6で、その内訳は水と火が3つずつ。
山札はお互い何十枚もあるが、そのほとんどがほぼ意味をなさないパラレルというカードばかり。
ただし、相手の山札にだけ一番上にコンフュージョン、二番目にファイアがある。
そして、クリア条件はこのバトルに勝つこと。
一問目ということもあり、基本を問う出題。
言うなれば小手調べ。
だが、花織は油断せず、約束通り優の教えを思い返す。
その時の会話が鮮明に思い起こされる……。
「今からお前には、考える習慣を身に着けてもらう」
「えっと……? 私なりに、一応考えているつもりなんですが……」
「本当にそうか? ならば、迷いや悩みとの違いはわかるか? やたら長考する人や、凡ミスをする人はこの違いがわかっていない」
「……わかりません」
「なら教えよう。迷うというのは、勘に頼っているのと同じ。気まぐれと言い換えてもいい。そういうタイプの人は、気分次第でころころと答えが変わる。これは、自分の中に判断基準となる軸が存在していないのが原因だ。そしてもう一方。悩むというのは、ゲームの本質が見えていないだけ。そういう人は、物事のリスクを比較できていない。どの択がいいかを、裏目になる確率や、どれ程の痛手かといった明確な基準を持たず、まるで占い感覚で的中させようとしている。どちらも、考えるのとは程遠いな」
「確かに、優さんの言う通りです。私、いつも悩んでばかりですが、いい答えが出せたことはありません。では、どうすれば……?」
「そうならないために、考える際の指針があればいい。今から教えることは全て、その判断基準と状況整理の方法だ」
……まるで隣にいるかのよう。
優に教わったコツが、次々に脳内に蘇る。
それらは厳しく聞こえる言葉ばかり。
だが、その口調は終始穏やかで、わからないことや間違いを責めることは最後までなかった。
言葉がキツく感じるのは、常に断言しているから。
つまり、それは自信の表れでもある。
その心強さが今、一人で試験へと立ち向かう花織を勇気づける!
おかげで緊張が和らぎ、花織は落ち着いて考え始めた。
この問題に出てくるのは三種類のカード。
ファイア、メディテーション、コンフュージョン。
いずれもカウンターを効果に持ち、タイミングを誤ると手痛い竹箆返しを受けてしまう。
例えば、すぐにファイアを使ったとしよう。
すると、相手はメディテーションを使用し、カードを3枚引く。
効果処理の後、再びファイアに対しカウンターを発動するタイミングが生まれる。
そこで、改めて今引いたばかりのコンフュージョンを打ち、結果としてファイアは手札へ戻されてしまう。
再度ファイアを使用する魔力は残っておらず、ターンを終了するよりない。
そして、ターンを得た相手がファイアを使用し、花織の負け。
かと言って、ずっと待ち続けるわけにもいかない。
もしそうすれば、2ターン後にファイアもコンフュージョンも手にした相手が勝ち切ってしまうからだ。
これらの状況を整理し、花織は考えを巡らせる。
この問題のテーマは何か。
それはズバリ、カウンターを打つのに最も適したタイミング。
そのことに気付いた彼女は、ここでようやく機器の操作を再開した。
まず最初に、このターンをパス。
そうすることにより、相手は6魔力がまるまる無駄になる。
かと言って、ここでメディテーションを使用しては、今度こそ花織がファイアを使用して勝つ。
これが、カウンターの後出しの強さ。
相手は渋々ターンを迎えるが、もう勝つことはできない。
この相手のターン中にファイアを打つだけで花織は勝てる。
相手は今引いたコンフュージョンで一度は妨害できるものの、肝心のファイアはまだ山札の上。
それを引くためにメディテーションを使用すると、ファイアを打つための魔力がなくなってしまう。
一方の花織は、次の自分のターンに魔力が回復するため、そこで再びファイアを打てばいい。
以上の順で花織は無事に一問目を突破した。
続く二問目。
相手の場には、フルメタルガーディアンと違法存在グレネードベビーが1体ずつ。
対する花織の場には、天界の修道女とレッサーイーグルが1体ずつ。
相手のライフは1。
花織の手札はウェーブ1枚のみ。
対する相手は0枚。
魔力は双方無限と表記されている。
そして、今回もクリア条件はバトルへの勝利。
花織はこの問題も同様に、考える前に優の言葉を思い返した。
「思い込みがないか、常に注意を払え。何かを決めつけて考えると、他の手段は思い浮かばなくなる」
そのことを念頭に置きながら、花織は状況を整理してゆく。
この問題は、花織の攻撃がどちらか一方でも決まればクリア。
しかし、行く手を阻むガーディアンが2体。
しかも、どちらもカウンター持ち。
ウェーブで戻しても、すぐにまた召喚されてしまう。
以上の中に思い込みがないか、花織はチェックしてゆく。
そして気付いた。
ウェーブの対象にすべきなのは、相手のレプリカではないということに。
後は、解答まで一直線。
まず、レッサーイーグルで相手プレイヤーへ攻撃。
対し、相手はフルメタルガーディアンでガード。
この瞬間、自分のレッサーイーグルへとウェーブを打つ。
その結果、バトルは中断されるが、フルメタルガーディアンは行動回数を消費してしまう。
次に、天界の修道女で相手プレイヤーへ攻撃。
対し、相手は違法存在グレネードベビーでガード。
相打ちとなり、2体とも捨て札へ。
その際、グレネードベビーの効果が発動し、全てのレプリカへ1ダメージをばら撒く。
しかし、レッサーイーグルは手札へ避難しているため、被害は受けない。
ここで満を持してレッサーイーグルを再度召喚し、相手プレイヤーへ攻撃して勝利。
順調に二問目もクリアした花織。
だが、簡単なのはここまで。
残りの三問は、ここまでの基本問題とは違い、テクニックを要する難問揃い。
三問目。
相手の場には、レッドドラゴンが15体。
手札は任意のカードを花織が選ぶことができるが、3枚のみ。
しかも、内2枚は同じカードという指定がある。
加えて、黄泉の門、津波、超魔術は使用禁止。
山札はパラレルばかり。
魔力は無限。
クリア条件は、相手のレッドドラゴンを全て場から退場させること。
四問目。
相手の場にはフルメタルガーディアンが1体。
花織の場は空っぽ。
相手のライフは12。
手札は任意のカードを選べるが、今回はたったの2枚。
ただし、中級のファイアと超魔術の使用は禁止。
そして、山札は役立たずのパラレルばかり。
魔力は今回も無限だが、逆に言うとヒントがない。
クリア条件は、このターン中に勝利すること。
五問目。
相手の場には、ディバインアーマーを6回受けた守り神が4体。
しかも、これらは効果のターゲットに選択不可。
対する花織の場は空っぽ。
相手のライフは20。
花織の手札は任意のカードを1枚のみ。
ただし、黄泉の門、津波、メディテーション、カーム、超魔術は使用不可。
さらに、アルファ博士の使用時に山札からサポートを引くことは禁止。
対し、相手の手札にはウェーブが無限に存在している。
そして、お互いの山札のほとんどがパラレルで埋め尽くされているが、自分の山札の上から6枚のみ任意のカードを選択可。
ただし、それらは1枚の被りも許されない。
双方の魔力は無限。
クリア条件は、このターン中に勝利すること。
いずれも一筋縄ではいかない難問。
その内の最初の問題へ立ち向かうべく、花織は画面を進めた。