苦戦
思考を巡らしている最中の優へと、神の容赦ない次の一手が放たれる。
「残りの魔力でヒメカゼスズメを召喚」
神の場にも戦力が生み出された。
しかも効果により山札から手札へ1枚加わる。
どんどん事態が悪化してゆく中、迎えた優の3ターン目。
開始時の一連の準備をした後、彼はまず全軍で神へと攻撃宣言した。
追い込まれていようとも、さすがの熟練者。
これは正しい手順。
もし、召喚を先に行おうものなら、まとめて全体ダメージの餌食となり被害が拡大してしまう。
それを避けてのプレイング。
結果、攻撃は無事に通り、3ダメージを与えることに成功。
続いて、優は1枚のカードを場に出した。
「シヴァルリーを使用」
「カウンター発動。パラダイムシフト」
先に述べた通り、シヴァルリーは強力なカード。
故に、神が使用した時と同様、やはり優も即座に打ち消されてしまう。
だが、今のやり取りでお互いに使った手札は1枚。
アドバンテージは失っていない。
そしてさらに、次に使用した天使の弓兵は打ち消されずに召喚成功。
その効果により、神のヒメカゼスズメに1ダメージを与え、倒した。
残りの魔力は温存し、ターンエンド。
迎えた神の4ターン目。
彼は光の魔力をチャージすると、迷いなくカードを場に出した。
「コールを使用」
「……何?」
宣言されたカード名を聞き、優は疑問を抱く。
なぜなら、そのカードと神のこれまでの戦略に噛み合いを感じなかったから。
コールは、山札から2魔力以下のレプリカを3枚サーチするという効果のカード。
当然、それが最も輝くのは速攻デッキでの使用。
しかし、これまでの流れを見る限り、神の戦い方は長期戦を見据えた守り主体のもの。
にもかかわらず、一転して小型レプリカの大量サーチ。
その意図を見極めるべく、優は長考に入る。
デッキタイプの偽装か?
はたまたこれ自体が陽動か?
否、神はそのような小細工をする必要がない。
そんなことせずとも、彼には勝つ実力がある。
ならば、サーチしたそのレプリカの効果により、さらにキーカードをサーチするのが狙いか。
そう断定し、今度は妨害すべきか否かを考慮する。
手札にあるカウンターカードの内、コールをうち消せるのは超魔術コンフュージョン・リライトのみ。
しかし、このカードで打ち消した場合、相手に魅力ある二つの選択肢を与えてしまう。
一つは、打ち消されたカードによって消費した魔力の回復。
もう一つは、打ち消されたカードを手札に戻す権利。
どちらにせよ、優はアドバンテージを失う。
なので、彼は仕方なくコールの使用を通した。
神は山札を手に取り、カードを探し出す。
そして、選んだカードを公開。
その内訳を見て、さらに優は困惑する。
提示されたのは、見習い天使2枚と宣教師。
宣教師はサーチ能力があるのでともかく、見習い天使の効果はトークンを1体召喚するというもの。
それこそ、速攻に相応しい効果。
ミスマッチにしか思えないカード。
しかし、当然そこには思惑がある。
普段の優なら、その狙いの正体を見抜けていたに違いない。
しかし彼は今、精神的に追い込まれている。
加えて神の止まらぬ揺さぶり!
なおも彼は追撃のカードを場に出した!
「シヴァルリーを使用」
「……」
最早、声すら出ない優。
それもそのはず……なぜなら今、彼の手札にある対抗手段は超魔術コンフュージョン・リライトだけだから。
これがもしパラダイムシフトなら、相手に消費魔力は回復されるが、しっかり捨て札へと送ることができたのに……。
優とて、本当ならそうしたかった。
しかし、そう都合よく引けないのがカードゲーム。
それに、今戦ってる相手は神。
彼には全てお見通し。
今回だってそう。
運悪く優に対抗手段がなかったのではない。
優に対抗手段がないからこそ、神は付け入ったのだ。
これに対し、優はどう応じるべきか。
もし、なりふり構わず打ち消せば、この後の展開が厳しくなる。
神はアドバンテージを得たことに満足し、決着を遅らせればいいだけの話。
優もそれがわかっているため、苦渋の決断により打ち消しを断念。
しかし、さすがの天才ゲーマー……ただでは起きない!
代わりにカードを1枚選び、場に出した!
「カウンター発動、カーム……!」
静かに、しかし力強く宣言!
その目に宿すは反撃の意思!
そう、これは最善のタイミング。
シヴァルリーを使用された後だと、加わったトークンの餌食にされる。
そうなれば、温存した魔力が無駄になってしまう。
なぜなら、シヴァルリーで加わるトークン――オネスティで打ち消された場合、消費魔力は戻ってくるのだが、相手のターン中であるため、その使い道が優にはないからだ。
故に、ディスアドバンテージを強いられることなく使うには、これがギリギリのタイミング。
実に合理的な戦術。
ただし、神も当然想定済み。
彼は慌てることなく、手札から1枚場に出した。
「超魔術コンフュージョン・リライト」
「くっ……」
惜しくも打ち消され、渋々カードを手札に戻す優。
しかし、これでハンドアドバンテージは1枚分取り返した。
ただし、シヴァルリーの効果により神もオネスティをストックゾーンへ2枚追加。
神が有利のままターンエンド。
そして迎えた優の4ターン目。
彼はまず、リライトの効果によりカードを入れ替えた。
それから全軍で攻撃し、4ダメージを与えることに成功。
続いて、先程打ち消されたカームを使用。
しかし、またもやトークンのオネスティによって阻まれる。
だが、これにより神の防壁も1枚崩れた。
さらに、回復した魔力で場と手札を整え、ターンエンド。
続く神の5ターン目。
彼はストックゾーンのカードに手を伸ばした!
「魔力を支払い済みの超魔術テンペスト・リザーヴを……解放する」
静かに、厳かに為された宣言!
青い瞳が凍てつくような鋭さを放ち、その異様な雰囲気から白銀の髪は煌々と輝いて見える!
そのオーラに気圧されつつも、優は応戦すべくカードを場に出した。
「超魔術カウンタースペル・リライトを使用」
それは、直前のターン開始時にリライト効果により入れ替えたカード。
通れば完全に打ち消すことができる。
しかし……!
「カウンター発動。オネスティ」
神もトークンで対抗。
だが、優もこれで終わりではない。
用意の一手が今、場へ放たれる!
「カウンター発動。サイレンス」
サイレンスの対象範囲はスペル。
これはオネスティの種類と合致している。
しかも、消費魔力は0コスト!
手札に抱えていた奥の手。
しかし、目の前の化け物に見抜かれていないはずがない!
すぐさま神はカードを場に出した!
「サイレンスに対し、オネスティを使用」
「ッ……!」
顔面蒼白になってゆく優。
凍りつき、口はポカンと開けたまま。
目の焦点は合っていない。
その視界の先にある、絶望の1枚。
たった今使われたオネスティはトークンではない。
シヴァルリーによって加えたカードではなく、元からデッキに入っていたカード。
サーチ能力によって加えたわけでもない。
則ち、何ターン目かのドローにより引いていた、ということになる。
つまり、対戦相手からすれば知る由もない情報。
だが、バトルという非情な舞台においては、それはプレイヤーの責任。
読めなかった者が悪いと、運の女神はただ突き放す!
これにより、優は万策尽きた。
滅ぶ優の陣営。
そして、神の猛攻が始まる!
彼は2枚の見習い天使と宣教師を召喚。
見習い天使の効果により、場へ並んだレプリカはトークン含め5体。
そしてさらに、宣教師の効果でサーチしたカードが今、公開される!
「加えるのはこのカード……神風」
「ッ!?」
優は息を呑んだ。
それは、1ターンの間だけ自陣のパワーを2増加させるサポートカード。
このままでは一気に大ダメージを受けてしまう!
なんとか敗北を免れようと、優は回ってきたターンで本来使う予定のない火の魔力を緊急チャージ!
そして、リライトを交換し、すぐさま場に出した!
「超魔術バーニング・リライトを使用!」
いつになく必死の宣言。
そのカードは相手の場に全体ダメージを与える効果。
しかも、カードの種類はディザスター、属性は火。
ウィズダムを対象とするパラダイムシフト、スペルを対象とするサイレンス、水のサポートを対象とするオネスティ……それら全てを掻い潜れる!
通れば神のレプリカは全滅!
しかし、それは幻想に過ぎない……。
その希望を打ち砕く奥の手が今、神の手によって場に出された!
「カウンター発動。杞憂」
そのカード名に優は硬直し、震えから歯がカチカチと鳴り出す。
打ち消し用のカウンターカード、杞憂。
このカードが対象とするのは……ディザスター!
カウンターの打ち合いに使えるパラダイムシフトやサイレンスは、入っていてもおかしくない。
しかし、ディザスターは範囲が狭いため、それを対象とする杞憂は腐りがちと判断され、採用率は低め。
そこをしっかり対策してきた神。
どこまでも抜かりない戦略に、優は恐怖のあまり全身が震える。
当然、返せるカードはなく、希望は潰えた。
そして迎えた神の6ターン目。
彼はまずレッサーイーグルを2体召喚した。
そのレプリカは消費魔力が光1つと軽く、なおかつすぐに攻撃可能なアサルトという効果を持っている。
ズラッと並んだ攻撃可能なレプリカ7体。
そこへ今、全体強化がかかる!
「神風を使用」
「……」
神の宣言にまともに反応を示さず、ただ呆然と立ち尽くす優。
数秒の間の後、神が再び口を開く。
「カウンターが残ってないのはわかっているよ」
静かに言い放つ神。
そう、対抗手段がないことは見透かしている。
だからこその一連の手順。
本来であれば、先に召喚してからの全体強化及び攻撃は、返された時のリスクを伴う。
しかし、神は手札を読めるため、こういう場面で一切の躊躇がなく、かつ全て成功する。
その化け物染みたプレイングを前に、優は戦慄。
彼の手札がテーブルへパラパラと落ちてゆく……。
そして数秒後……。
「うああああ!!」
絶叫と共に、優はデッキを置いて駆けだした!
咄嗟に花織は「待ってください!」と呼び止めるが早いか、必死に後を追う。
轟も「おい! 待てよ!」と怒鳴り、後へ続いた……。
【デッキ紹介】
デッキ名:ドーンブリンガー
タイプ:中速バランス
使用者:優
【デッキ内容】
幼きエスパー:4枚
ヒメカゼスズメ:4枚
宣教師:4枚
天使の弓兵:4枚
見習い魔法使い:4枚
ダークエレメンタラー:4枚
インフェルノブリンガー:4枚
カーム:4枚
オネスティ:4枚
シヴァルリー:4枚
サイレンス:4枚
パラダイムシフト:4枚
超魔術ライト・リライト:4枚
超魔術サボタージュ・リライト:4枚
超魔術コンフュージョン・リライト:4枚
【解説】
手の内を読める神に対抗すべく、バランスよく組んだデッキ。
しかし、突出した部分が少なく、迷走から生まれた失敗作と言わざるを得ない。
【デッキ紹介】
デッキ名:ブラックスワンプ
タイプ:一撃ワンショット
使用者:神
【デッキ内容】
幼きエスパー:4枚
宣教師:4枚
ヒメカゼスズメ:4枚
レッサーイーグル:4枚
見習い天使:4枚
コール:4枚
カーム:4枚
オネスティ:4枚
シヴァルリー:4枚
コンフュージョン:4枚
杞憂:4枚
パラダイムシフト:4枚
カウンタースペル:4枚
超魔術テンペスト・リザーヴ:1枚
超魔術ライト・リライト:4枚
超魔術コンフュージョン・リライト:2枚
神風:1枚
【解説】
見た目は速攻のような構成だが、一撃で沈めることを目標としたデッキ。
序盤は準備を整え、神風で一気に勝負を決めよう。