戦いの果てに ルーフェイア・シリーズ(60/80)PDFで表示縦書き表示RDF


戦いの果てに ルーフェイア・シリーズ
作:こっこ



Episode:60


「母に言われて、夢中で裏口から逃げ出したんだ。みんなを連れて。
 ただ子供の足なんて、たかがしれてるだろう? もたもたしてるうちに、町中戦場になっててね」

 それでも必死に、逃げられるだけ逃げたんだっていう。

「けどある場所で、いきなり機銃掃射さ。
 とっさに伏せてしのいだけど……気付いた時には僕と僕が抱いてたリティーナ以外、全員死んでたよ」

 グラスを一気に先輩があおった。

「あとはどこをどう逃げたかもわからない。
 気付いたらリティーナと二人近くの町にいて、運良く誰かが保護してくれたらしくてね。学院への入学手続きなんかもしてくれたらしい。
――もっとも僕も動転してたらしくて、よくは覚えていないんだが」

 また先輩がグラスを空ける。

「来月僕が二十歳になって卒業したら、ここを出て二人で住もうと思ってたんだ……」

 やり切れない思い。
 俺も……何も言えなかった。

 先輩の、いや学院中の嘆きが聞こえる。
 とつぜん命を断ち切られた者の嘆き。
 とつぜん大切なものを失った者の嘆き。
 怒り、苦しみ、戸惑い……さまざまな感情が渦を巻く。
 めまいがした。

「先輩すみません、俺ちょっと、向こうで横になってます。
 帰るの面倒だったら、隣の部屋のベッド使ってください。空いてますから」

 それだけ言って、寝室へ引っ込む。

「結局……誰も守れなかった……」

 先輩の背中から悲痛な声が聞こえる。
 いろんなものに、押し潰されそうだった。


 セヴェリーグ先輩は結局酔いつぶれて、隣のベッドに寝た。
 けど、俺の方はそうもいかない。

――やべぇな。

 まだ声が聞こえる。
 戦闘中に比べればマシだけど、苦しみと怨嗟の声とがずっと聞こえてやがる。
 あまりのすごさにぜんぜん寝れねぇし、マジで参りそうだった。

 実戦自体は、まったく初めてってワケじゃない。ただ……ここまで負の感情を浴びたのは、初めてだ。
 本当の「声」なら、ドアを閉めて耳を塞いで、毛布でもかぶってりゃ聞こえないだろう。
 でもこれはそうはいかない。
 心へ直接聞こえる嘆きの声は、締め出せねぇ。

 かなりヤバいくらいの吐き気がする。

 痛い……       熱い…… 
     死にたくない……     助けて……   苦しい……

 終わらず続く叫び声。
 そこかしこにうずくまる、死んだ連中の影。
 傷つき、血を流し、焼け爛れて……。

 さすがにこれ以上は、耐えらんねぇと思った。
 机の引出しを開けて、錠剤の入った瓶を二つ取り出す。
 片方は精神安定剤。もう片方は睡眠薬。
 以前似たような状況になった時に、見かねてムアカ先生が出してくれたやつだ。

――使いたくねぇんだけどな。

 けどこのままだったら、遅かれ早かれ気が狂うだろう。
 どっちも規定より量を増やして、まとめて口に放りこむ。
 そこまでしてようやく……落ちつかないながらも、俺は眠りに落ちた。










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遠き風に願いし君は 筆者のムーンチャイルド用長編作品です。

筆者サイトへ(筆者連載物「ルーフェイアシリーズ」のまとめ、その日の最新話へのリンク、改行なし版等があります)







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