戦いの果てに ルーフェイア・シリーズ(57/80)PDFで表示縦書き表示RDF


戦いの果てに ルーフェイア・シリーズ
作:こっこ



Episode:57


 まず三階へ上がり、ルーフェイアの部屋へと向かった。
「いけない、鍵が……」
 手が塞がっているタシュアの代わりにドアを開けようとして、気が付く。

「ルーフェイア、起きてもらえますか? 部屋を開けますから鍵を貸してください」
「……え? あ、はい……」

 タシュアに起こされたルーフェイアが、鍵を差し出した。だがぼうっとしていて、またすぐに眠ってしまいそうだ。
 受けとって急いでドアを開ける。
 寝室まで入ったタシュアが、一旦この子を椅子にかけさせた。

「シルファ、クローゼットからこの子の着替えをなにか、出してやってもらえませんか?
 ルーフェイア、辛いでしょうが服だけは着替えなさい。返り血を浴びたままではベッドに入れませんよ」

 ぼんやりとルーフェイアが目を開ける。見ていても可哀想なくらいに疲れ切っていた。

「タシュア、私が着替えさせるから」
「では私は向こうにいます」

 タシュアが隣の部屋――二人部屋の共用部分――へ出ていったのをたしかめて、この子を清潔な服に着替えさせる。それからタオルを濡らし、顔や手足を拭いてやると、汚れと返り血とでタオルが赤黒く染まった。
 きれいになったこの子をベッドへ移して毛布をかけたが、身動きひとつせず眠ったままだ。

 きっと、辛かっただろう。
 だがそれでも、ルーフェイアは一言も弱音を吐かなかった。繊細で泣き虫だが、こういうところは気丈だ。
 頭をそっと撫でてから、私も共用スペースのほうへ移動した。

「――タシュアは大丈夫なのか?」
 心配になって尋ねる。
 私やルーフェイアほどではないにしろ、タシュアも疲れているはずだ。

「私も完全とは言い難いですね。普段の六〜七割程度です。まぁ、二、三日もすれば回復しますが」 
 言いながらタシュアが、ルーフェイアの太刀を手に取って手入れを始めた。
「放っておいたら傷みますからね。かといって今のルーフェイアでは、やれと言っても無理でしょうし」

 それは同感だった。
 当人は必死なだけだったのだろうが、ルーフェイアの働きは間違いなく学年一だろう。全校生徒の中でも、上級生を差し置いて上位に入るはずだ。
 だがそのせいで、限界以上に疲れ切ってしまっている。

「かなり疲れているみたいだ。今も……身動きさえしなかった」
「そうでしょうね」
 それだけ言って手入れを続けるタシュアの隣に、腰を下ろす。

「タシュア……さっきは、その、すまない……」
「なんのことですか?」
「いや、つい兄弟のことを……」

 タシュアは自分のことを知られるのが嫌いだ。なのにとっさとはいえ、思わず口を滑らせてしまった。
 だが落ちこむ私に、タシュアが僅かに微笑む。

「かまいませんよ。私の方こそかばってもらって、ありがとうございます」
――他の誰もが見たことのない表情。
 冷酷、毒舌で通っているタシュアがこんなことを言うなど、他の生徒には想像さえ出来ないだろう。

「今度から、もっと気をつけるから……」
「ですから、気にしないでください。
――それにしても幸運でしたね」

 とっさに意味が掴めない。 

「その、何が幸運だったんだ?」
「向こうの戦力があれだけだったことと、脅しがよく効いたことですよ。
 もし私ならそんなものは無視して、今のこの時を狙って軍を再編し、急襲しますね」

 さらりとタシュアが言う。

「慣れない戦闘が終わり、ほとんどの生徒が疲れ切って気が抜けています。余力のあった生徒も、怪我人の治療に奔走しているわけですし。
――間違いなく殲滅できますよ」
「……たしかにそうだな」

 言われて初めて、たしかに幸運だったことに気付く。










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遠き風に願いし君は 筆者のムーンチャイルド用長編作品です。

筆者サイトへ(筆者連載物「ルーフェイアシリーズ」のまとめ、その日の最新話へのリンク、改行なし版等があります)







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