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Chapter:4 狂気
Episode:22
「――なんでぇ、だんまりかよ?」

 バスコが見下したような笑いを浮かべる。

「まぁ、戦いの最中に女を連れ歩くほど落ちぶれたキサマじゃなぁ。ムリねぇか」

 どこか勝ち誇ったような響き。
 瞬間、思い出した。
 タシュアには弟がいると、聞いたことがある。そしてどこかの傭兵隊にいることも。
 この弟は、兄にあたるタシュアを超えたいのだ。

 だが上手く言い表せないが……彼が知っているのは多分、タシュアになる前のタシュアだ。
 そして今のタシュアは、誰も手が届かないような高みへと昇りつづけている。

――自分を責め続けることで。
 それを、この弟は知らないだろう。

「ほら、なんとか言ってみろよ」
「――シルファ。
 ナティエスと低学年を、安全なところまでお願いします」

 弟の挑発を、タシュアは完全に無視する。

「先ほど上がってきた階段を利用して地下へ降りれば、当分は安全なはずです」
「タシュア……」

 彼が他人に頼み事をすることは、あまりない。だから断ることができなかった。
 だいいち悔しいが、私がここにいてもタシュアの足手まといになるだけだろう。

「頼みましたよ」
「――わかった」

 存分に戦えるようにと、急いで出口へ向かいかける。

「それからこれを」
「え?」

 驚いて振りかえる私に、タシュアが眼鏡を外して差し出した。
 血の色をした瞳が光にさらされる。

 以前タシュアが言っていた。この眼鏡は見るために必要なのではなく……制限するためのものだと。
 強すぎる力を制御するための、いわば手段だ。
 それを私に預けると言うことは――。

「預かっておいてください。後から取りに行きますので」

 その横顔には表情がない。
 表情がないからこそ恐ろしかった。

――やはり、本気なのか?

 私に怒りが向けられているわけでもないのに、身体が冷たくなる。
 タシュアは本気で弟を……。
 戦いが孕む狂気が、辺りを侵しつつあるようだった。


>Imad

 海岸に顔を揃えたメンバーは、だいたい一個中隊ってとこだった。
 資格が限定されっから、上級生のそうそうたる顔ぶればっかだ。次々出る指示にも、反応が早えぇし。

――って、俺が最年少か?
 けどもう一学年下で合格すんのはさすがにキビシいから、まぁそんなとこだろう。

「イ〜マド♪」
「なんでお前がここにいるんだよ……」

 さっきまで一緒にダベってたミルに声をかけられて、一気に不安になる。

――そりゃ、腕はたしかだけどよ。
 ただこいつ、どう考えても性格が……。

「え〜、あたしちゃんと、三級持ってるもん! すごいんだから☆」
「分かった分かった!」

 戦闘直前のピリピリしてるとこで、頼むから素っ頓狂な声で騒ぐなっての。
 案の定、周囲が白い目で見てやがるし。

「おい、シーモアはどうしたんだよ?」
「あ、シーモアはねぇ、船着場行ったよ♪」
「――マジ?」

 頭が痛くなる。
 一縷の望みをたくして周囲を見回してみても、やっぱ同じクラスは俺だけってやつだ。
 ってことは、俺がこいつのお守りか?

――冗談。
 ンなことしてた日にゃ、戦う前に倒れちまいそうだ。

「ねぇねぇねぇねぇ、イマド、そ〜いえばルーフェイアは?」

 こいつやっぱ学習機能ついてねぇ。またきゃいきゃいと騒ぎ立てて、周囲のヒンシュク買ってやがる。

「あいつ、検定受けてねぇんだよ」
「え〜、どしてどして? なんでイマド、ちゃんと受けさせてあげなかったの?」
「俺に言うな!」

 あいつの場合事情が事情だけど、それをここで言うわけにもいかねぇし。

「けどけどぉ、ルーフェイアいなかったらキビしいよね〜」
「いいんじゃねぇか? その分校舎の守備が堅くなるからな」

 他にも向こうには、運営に関わってるような先輩たちが回ってる。

「向こうがきっちり守ってくれれば、俺らは考えないで済むんだぜ?」
「でもぉ」

 その時……聴こえた。

「――悲鳴? どこだ?」




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