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Chapter:4 狂気
Episode:21
――ナティエスが!

 この子は私もよく知っている。ルーフェイアの親友で任務に同行してもらったこともあるし、なにより昨日一緒にケーキを作っていたのだ。
 その後輩が無残な姿を晒していた。

 それだけではない。
 奥のほうにはまだ、切り刻まれたとしか思えない遺体がいくつもある。

――最初に聞いた声は、まさかこの子たち?

 そして、その前に立ちはだかるこの男……。
 鳥肌が立つのがわかった。
 かなり……やばい相手だ。
 タシュアを磨き抜かれた名剣に例えるなら、眼前の男はさながらマシンガンのようだった。

 大量虐殺を目的とした武器。
 人を殺すことに悦を感じている。
 苦しむナティエスを見て浸り切っている。

 その彼がゆっくりと顔を上げた。
 なぜだろう? タシュアとこの男との視線が絡む。
 にやり、と男が笑った。

「久しぶりだなぁ、タシュアのアニキ。会いたかったぜぇ」

 タシュアは答えず、倒れているナティエスを抱き上げた。
 左腕と両足が切り落とされている。わき腹も大きくえぐられて、内臓が溢れていた。

「今、呪文を……」
「シルファ、もう無駄です」

 そう言ってタシュアが即効性の鎮痛剤を取り出す。
 まだわずかに息のあるこの子を、少しでも楽にしてあげようというのだろう。

「タシュ、ア……せん……ぱい?」
 鎮痛剤が効いたのか、ナティエスが目を開けた。

「喋らないように。傷に障ります」
 穏やかなタシュアの声。
 それに安心したのか、この子が微笑みを浮かべた。

「せんぱ……あの子……た……おね……が……」
「心配ありません。あの子たちは必ず私が守ります」

 そのタシュアの言葉は、果たして聞こえたのだろうか?
 がくりとナティエスの身体が力を失った。

――微笑みを浮かべたまま。

 私のうちに、怒りが湧き上がる。
 だがそれ以上の怒りを見せたのがタシュアだった。
 私にナティエスを預けると、音もなく立ち上がる。

「バスコ……」

 この場にそぐわない、あまりにも静かな声だった。
 背筋に冷たいものが走る。
 タシュアは……怒りが激しいほどに、その声音が冷たくなる。

「なにを怒っているんだぁ? ガキどもを殺したことかぁ?」
 対して愉しむような薄笑い。それがどうしたと言わんばかりの口調だ。

――狂っている。

 その口調から、瞳から、表情から、狂気がにじみだしている。
 いったい何が、ここまで彼を狂わせたのか。
 それとも「戦い」という狂気そのものに、既に同化してしまったのか……。

「ヴィエンにいた頃は、敵なら降伏しても皆殺し、さらに味方すら見殺しにしたキサマが――死神とまで恐れられたキサマが、この程度で怒るか。
 ずいぶんと変わったものだなぁ!!」

 バスコと呼ばれた男が吼える。
 一方で、対するタシュアはどこまでも静かだった。
 大剣さえも構えず、ただそこに、在る。
 その対峙するさまに、私は圧倒されて、立ちすくむだけだ。




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