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二人ぼっちの世界

作者: 月宮ほのか
車のクラクション、目が眩むような光と共に流れる音楽に人々の喧騒の声。あぁ、本当にこの世界は音で溢れている。

「……くだらない」

無駄な思考を打ち切り、俺は舌打ちをして真っ暗な世界と同じ色のフードを深く被り直した。本当はこんな時間に外になど出たくない。だが、今日は出なくてはならない……半強制的に。
騒がしい道を抜け、裏通りに入れば闇の中でも際立つ、流れるような金髪と整った顔立ちの少年が壁に寄りかかっている。此方に気づくと、笑顔の様なものを浮かべた。

「ひーちゃん、待ってたよ」
「……その呼び方は止めろと言わなかったか? (さとる)
「だって、呼び捨てでも怒るじゃん。だったらこっちのがマシでしょ? 」
「……ふん」

クスクスと楽しそうに笑っている奴を見ていると、一発腹にでも叩き込んでやりたくなる。が、なんとか腹立ちを押さえ込んで、睨みつけつつ口を開く。

「はぁ……で、今日はなんの要だ? 」
「んー? 僕がひーちゃんに連絡する理由なんて一つでしょ? 」
「…………」

胡散臭い笑顔で言い切られる。つまりはいつもの事で呼び出されたと言う事か。心底面倒だと言うのを 押し殺しつつ口を開く。

「今日は誰だ? 」
「んーざっくり言うと、ゴスロリ命の十七歳の可愛い女の子かな」
「……関わり合いたくない人種だな」

うんざりした顔を隠しもせず言えば、彼は笑顔を苦笑に変えた。

「派手なの苦手だもんね、ひーちゃんは」
「当たり前だろ、わざわざ目立つ格好をする奴らの思考は理解不能だ」
「はいはい、わかったわかった。とりあえずその子が僕の隣に居るんだからそういう事言わないの」
「……え」

慌てて目を凝らすと、夜の暗闇でわからなかったが彼の隣に小柄な少女が、何故か顔を真っ赤にして立っていた。頭には真っ黒のヘッドドレス、黒いフリル付きのケープに紫ベースのロリータ服……つまりはゴシックロリータに身を包んでいる。

「氷室さん……この服の良さをわかってくれない人に頼みたくない! 」
「お、抑えてくるみちゃん! ひーちゃんに悪気はないから! 」
「余計にタチ悪いじゃないですかこの人っ! 」
「本当ごめんね、この子お洒落とか無頓着なんだ。だから許してあげて? ね? 」

どうやらお怒りの様だ。大きく巻かれた縦ロールの黒髪をブンブン振っているし、高めの可愛らしい声にイラつきがみてとれる。と言うか、人を人差し指で指すなよと言いたい。見るからに怒ってます、みたいな感じがうざったい。
なんとか悟がなだめきり、その子はなんとか怒りを収めたようだった。まだ腕を組んでこちらを睨んでるあたり、絶対納得はしてなさそうだけど。正直彼女が本気で嫌がってくれれば帰って寝れたので残念でならないが、これも仕事だと飲み込む。

「えーと、こちらが今回の依頼人である綾小路(あやのこうじ)くるみさん。かの有名な綾小路メーカーのお嬢サマ。んでこっちは宇佐美光(うさみひかる)。こう見えても優秀な魔法使いだ。あ、自己紹介し直しとくと僕は氷室悟(ひむろさとる)。ひーちゃんの幼馴染で、依頼人との架け橋をやっているよー」
「……ここまで来て難ですけど、何やら胡散臭いなとは思っていましたがまさか魔法使いときましたか。冗談ですよね? 」
「まさか! 見せてあげなよひーちゃん」
「……先説明しとけよ」

奴に軽く暴言を吐きながら、綾小路と目を合わせる。……ふぅむ、なるほどな。

「悪かったな、怯えさせて。この目つきの悪さは生まれつきなんだよ。それに、こうしないと読めないんだ」
「えっ……嘘……」
「これが彼女の魔法……いや、能力のが正しいかな。目を合わせた人の心が読めるんだ。色々条件はあるけど、今は割愛かな」
「……」

相変わらず説明が上手い。話しにくい所を一切合切言わないままなのに、読まれた事への驚きが強すぎて何も言えなくなっている。
ちなみにさっき綾小路は『何この目つき、怖すぎる……』と心の中で言っていた。俺だって、好きでこういう目つきになった訳じゃないってのに。

「んで、僕は触れたものや自分自身を好きな所へ飛ばせる……所謂テレポートってやつが出来る」
「……ちょっと常識から逸脱し過ぎてる気がしますが、信じて良さそうですね」
「理解が早くて助かるよ」

『わっけわかんないけど信じるしかない……』オイ、心の声聞く限りじゃ理解しきれてないじゃないか。必死で納得しようと頑張ってくれる所は有難いがな。
じゃあそろそろ本題に入っても大丈夫だろう。

「で、依頼内容は? 」
「えと、実は……」

*****

「ここだね、佐倉徹(さくらとおる)君の家」
「はい、間違いありません」
「こんな依頼引き受けるんじゃなかった……」
「いくら小声でも、依頼人である私の前でそんな事言っちゃいます? 」
「明らさまにどんよりした顔しないの、やるって言っちゃったんだからやるしかない。でしょ? 」
「……お前の所為だろ全面的に」

悪態をついてもごめんごめんで流される。気に食わないが、さっさと終わらせて帰りたいので渋々黙り、目の前の一軒家を見上げた。
彼女の依頼は『理由もなく半年も付き合っていた人が振るわけがないので、せめて最後に理由を聞かせて欲しい』と言うなんとも馬鹿げたものだった。しかも元彼の話になった途端、イキイキと惚気話を始めたもんだから砂糖吐きそうになった。元だってのにあれだけ話せるって未練ありすぎだろ。とは突っ込めず、彼女が教えてくれた住所通りに悟のテレポートで飛んできた訳だが……

「……あの、どうやって彼の心を読むんですか? 」
「さっき見せただろ? 目を合わせる。それだけだ」
「それってつまり……」

何故か綾小路の額に汗が浮かんだ。

「さて彼の部屋にテレポートしよっか」
「やっぱりそうなるんですか……」
『不法侵入って言葉ご存知なんでしょうかこの2人……』
「知ってるが、これが手っ取り早いんだ」
「さらっと心読まないで下さいぃー! 」

彼女の盛大な突っ込み絶叫を最後に、彼の家の前から自室に飛ぶ。部屋の中心へ降り立つと、ベッドに寝そべってスマホをいじっていた少年が、此方をみてぽかんと口を開けていた。うわぁチャラ系イケメン……関わりたくない人種その二だ。

「……もしもーし、佐倉徹さーん? 」
「……はっ?! 」

悟が彼の前で手をひらひらと動かしながら呼びかけると、やっと正気に戻ったらしい。

「なんでくるみが急に部屋に現れたんだよ! ドアすら開いてないぞ! 後あんたら誰だよ!! 」
「えっとね、徹くん、これは……」
「矢継ぎ早とはこの事だねぇ。まぁ、ささっと終わらせるから、くるみちゃんは見てて」
「あ、はい」
「俺への説明は?! 」

かなり手酷い扱いを受けているようだが、放置で行くか。悟もああ言ってるし、終わらせよう。

「とりあえずこっち見ろ、佐倉」
「はぁ?! 」

凄い勢いでこっちを見た奴と目を合わせる。これで一定時間は読み取り放題だな。

「なんで綾小路と別れたんだ? 」
「んな事あんたには関係ないだろ」
『思ってたより愛が重すぎて、耐え切れなかったとは言えない……』
「……」

どうしよう、此奴が不憫になってきた。なんかそう言うの面倒だって思うタイプなら、重い子は生理的に無理だったんだろうな。

「……愛が重すぎたらしいぞ」
「そんなっ?! 私毎日朝起きて直ぐにLINE10件位入れて、学校で会ったら抱きついたり甘え倒したり、隙さえあればキスしたりする位ですよ? 」
「……どうしてわかったって突っ込む前に、そこまで言って気づかない君をどうすればいいか知りたいね」
「くるみちゃん、それはどうしたって君が悪いよ? 」
「で、でもそんな事一言もっ……私は今も変わらず貴方だけを好いているのに……」
「……あれから1年以上経ってるのに? 」
『ずっと想っててくれたの? 』

綾小路の想いは確かなものだと思うが、正直真っ直ぐ過ぎてこのチャラ男には通じな……あれ、なんか感動してるぞ? 後凄い面倒な展開が読めてきたんだが。

「そうだよ! 大好きなの! このまま終わるなんて嫌で、ずっとずっと思い続けてたんだよっ……! 」
「くるみ……! 」
「徹くん……! 」

手を取り合いお互いしか見えていない感じがひしひしと伝わって来た……。悟に目配せして、二人で家の外へテレポートする。
肌寒い空の下に降り立つと、二人で同時に大きく息を吐く。

「まさか、あんなラブラブに戻るとはねぇ。人間って怖い」
「俺も正直ドン引いた以上に驚いたよ」
「まぁこれで依頼完了だね。それよりひーちゃん」
「んだよ」
「いい加減、俺って言うの止めない? 女の子なんだから」
「煩いな、俺の勝手だろ? 」

軽口を叩きながら、寒空を歩く。テレポートすればいい事だが、こうやって悟と歩くのは悪くない。俺が俺で居られる時間をくれる人といるのは、やはり居心地が良い。

「じゃ、さ。僕と二人の時だけは私にしない? 」
「なんでだよ? 」
「その方が、僕が嬉しいから! 」
「理由になってねー」
「いいじゃん! 」
「……仕方ないな、私とか柄じゃないけど、やってやるよ」
「ありがとー! うん、やっぱりそっちのが可愛いよ! 」
「……ばーか」

友達以上恋人未満の私の相棒。二人ぼっちの世界で満足していて。私はもう君無しでは生きていけないから。
誰にも言えない言葉を心の中で紡ぎながら、二人で騒がしい世界へ戻っていく。ずっとこの時が続くように願いながら。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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