WOMAN'S WAYS〜新宿コンフィデンシャル1(7/8)縦書き表示RDF


WOMAN'S WAYS〜新宿コンフィデンシャル1
作:加賀いつ子



(7)


 「ごめん!ドンキ寄ってたから遅くなっちゃったあ」 
 リナとミカは大きな袋を持って、転がるように部屋へ入って来た。
 それからの一連の出来事は、当然のなりゆきと言ってよかったのかもしれない。
お定まりの、無事を喜ぶ涙と笑いのひと騒ぎを心ゆくまで演じた後に行われたのは、監禁プリンスへの報復行為であった。
あらかじめ打ち合わせしてあったのだろう、二人の少女は縛られているリョウの服に容赦なく鋏を入れ、服を切り下着も切って丸裸にした。リョウは最初抵抗して身を大きくよじったが、鋏の刃が当たって小さな傷ができると、嘘のように大人しくなり、じっっとしていた。
 やがて彼は、髪を磯野波平カットに刈られ、体は二週間は消えないというカラースプレーでペイントされた抽象アートのオブジェと化した。顔の両頬には、『変態』『監禁フェチ』のメッセージ入りである。
 これらの作業を、リナとミカは短時間で黙々と手際よくこなし、完成すると、どうだという風に顔を向けた。村沢が、よかろうというしるしに頷くと、二人はリョウの姿をデジカメや携帯のカメラで撮影し、ようやく引き揚げる気になったらしい。
 折よく、由香の両親がマンションに到着したという連絡が入った。監禁の現場、といっても、被害者の由香は大きな怪我もせず一応服を着ているし、持ち物などから加害者の身元も割り出してあったので、村沢は由香の両親に部屋へ入って来てもらった。
 村沢は、彼らにざっと状況を説明すると、後は弁護士とでも相談するのが妥当だと言い、加害者の情報を知らせた。  
 「私はこの男の背後関係について、確認したい事があるので残りますが、警察へは通報なさいますか。」
 由香の父親は、苦渋の表情を浮かべた。
 「いや、少し考えさせて下さい。」
 「しかし、この男には余罪があるかもしれませんが…」
 「あなたにお任せしますよ。しかし、うちの娘のことは内密に願いたい。」
 父親はたしか、どこか省庁のお偉いさんだったはずだ。
 「わかりました。お嬢さんは困ったところもあるのかもしれないが、いい友達がいるようだ。ということは、それだけお嬢さん自身にもいいところがあるからでしょう。」
 父親はひたすら困惑した表情で、ひたいの汗をハンカチで拭っていたが、やっと請求書を自宅宛に送付してくれるよう言うと、顔をそむけて小さく嗚咽している母親と神妙な顔の娘を両腕に抱きながら出て行き、リナとミカが後に続いた。
 リナが振り返った。
 「おっさん、気をつけなよ。」
 村沢が笑った。
 「おっさんはないだろう。」
 全員いなくなった。村沢はリョウのそばへ行き、かたわらにしゃがみ込んだ。
 「さてと、T&Lの酒井とのつき合いについて聞かせてもらおうか。」


 リョウ――藤原諒一は、高知県から出て来た医大生だった。現役で入学しているが、三年留年している。地元では大いに流行っている開業医の息子で、マンションも親が買い与えたものだ。国立の医大に入った御褒美だそうである。が、入学してからほどなく学校へ行かなくなった。もともとパソコン漬けのネット三昧という傾向はあったが、オタクにしてはルックスがよく、身だしなみにも気を使い金にも不自由していないから、女の子にもてる。ほとんど入れ食い状態である。
 それがいけなかった。女を徹底的にバカにしている諒一は、これも元来の趣味であるサディスティックな映像を作る事を思い立ち、ネットで知識を得るなどして試作を始めた。出演するのは、自分が引っ掛けた女達である。それなりに満足のいく物が出来上がると、これまたネットで得た情報から、自分の作品を不特定多数の人間に見てもらう方法を知った。それが、下落合の店である。
 ネット上で動画を配信するのは、いかにも素人臭くていやだった。プロの意見も聞きたかった。自分はIQが高いだけの医学生ではない、新進気鋭のクリエイター予備軍なのだ、いや芸術家ですらあるかもしれない――妄想に浸された世間知らずのおぼっちゃまは、すぐにやくざな男の術中にはまった。
 今はまだ、酒井は諒一に対して牙を剥いていない。諒一は、酒井が元暴力団関係者であることすら想像もしていなかったが、村沢の話を聞いて、心底驚いたようだった。
 「酒井さんは…喋り方は少し崩れた感じだったけれど、完全にその筋とは関係ないって言ってましたよ。あの人は、金のために仕方なくAV撮ってるけれど、近い将来本格的な芸術エロを撮るんだってオレに色んな事教えてくれて……」
 「新宿のチンピラがか。」
 「新宿に事務所持ってるのは、ここが人間の欲望のカオスで一番面白い、いわば前線基地だからだって。」
 「信じたのか。」
 「あの人は趣味が良かった…ヴィヴィアンの似合うやくざなんていないと思うでしょう。」
 諒一は口を尖らせた。
 「いいか。お前のやった事を酒井はいずれ強請りのネタにして、実家をしゃぶりつくすつもりだろうよ。酒井がもといた組は、事件があって解散したが、わずかに残った構成員も弱小とはいえ関連会社フロントもよそに吸収されて生き残ってる。だから、酒井は危険な男には違いないんだ。」
 諒一は震え上がった。何とかしてくれ、と村沢に拝み倒す始末だった。
 「やくざに対するなら警察が一番だ。そうすりゃ、お前が女の子達にやった事へも責任が取れる。」
 村沢は、新宿署へ電話をかけた。

















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