第二章 驚嘆と屏息 または思慕の序
夜太郎は、暮れなずむ街の中で一人桟橋の上に立ち尽くしていた。夕日が赤々と街を照らし尽くし、街が大火事のようであった。
夕暮れである。街を歩く人々は忙しく帰路に就き始めている。それは、やがて来る闇に追われているかの如くにも見えた。
此れから、暗い暗い夜がやってくるのだ。
「ちょっと兄さん、もう宿に入らなきゃ。一番星も見え始めたのよ。」
夜太郎の背後から現れそう言ったのは夜太郎の旅の連れ、妹の弥生であった。
「それとも、その桟橋の下にでも野宿するつもり?私はそこの宿に泊まるから別にかまいやしないけど。」
「…それも良いかもなァ。俺は平らなとこがあったら、何ッ処にでも寝泊まり出来らぁ。」
夜太郎は冗談めいた口振りで、緩慢な動作で橋の手すりから腰を動かした。
「冗談は止めて、早く宿に向かいましょ。ほら、もうじき真っ暗になるわ。」
「馬ぁ鹿、宿なんてすぐそこじゃねぇか。狭い日本、そんなに急いで何処に行くって、な。」
夜太郎は、からからと笑った。
「もうふざけないの。明日にはお屋敷に向かうんだから、ちょっと早めに寝たほうがいいじゃない。」
「…お前、その物言いだんだん母さんに似てきたぞ。」
「当然でしょう、あの人の子なんだから。馬鹿言ってないでさっさと宿に入るわよ。全く父さんに似てずぼらなんだから。」
ぴしゃりと言い返した、嫌に大人びた口調の弥生は今年で満十二であった。
やれやれ全く何処で覚えてきたのだか、弥生は年の割にませた言動をする。夜太郎は、さも仕方がない、と言わんばかりの表情で弥生の後ろに続き宿へと向かった。
いつの間にか日差しは橙色になっていた。蒼禰はふと筆を進めていた手を休め、窓の向こうを見る。そこには整然と刈り込まれた樹木と、こざっぱりした洋風庭園とがあった。
夕陽に照らされたそれらは、昼に書庫で見た時とはまた別の顔を持っていた。木と木の隙間が、段々と色濃く陰ってゆく。その様に、蒼禰は少しの焦燥感と不安を感じてしまう。夜が来るからだ。
また今日も、夜が来る。暗い、怖い、………夜が。
蒼禰は夜が怖かった。別段昼間ならば暗い部屋も怖いことは無いのだが、洋灯や灯籠が有る、酷く明るい場所であっても夜は怖かった。昔からのことである。もしかしたらこれは、幼少の心傷というものかもしれない。一昨日に読んだ本には、そんなことが書かれてあった気がする。
そんな事を考えている間にも、闇は迫ってきた。ああ、また夜が来てしまうのだな。蒼禰は、自分が酷く不安定な某になる錯覚を覚えた。それは自分が個体か液体か、はたまた気体であるかすら曖昧な、物質として至極不安定な感触だった。
「…どうかしましたか蒼禰さん。」
直ぐ横の椅子に座っていたリチャアドが、蒼禰に話しかけた。蒼禰ははっと我に返り、右に座っているリチャアドを見た。
この幾時間か彼は静かであったが、どうやら居眠りをしていた様子ではなかったらしい。
「いえ、一寸手を休めていただけです。…夕焼けが大層美しかったものですから。」
「そうですか…ああ成る程、もうこのような時間だ。」
リチャアドは手元の懐中時計を見ながらうんうんと頷いた。
「今日は此処までにしておきましょうか。明日は、今日のおさらいと英語の文法についてを少し学びましょうね。」
そう言ってぱちりと時計の蓋を閉め、青年は柔らかな動作で立ち上がる。
「あら、もうお帰りになられるんですの?もう少しくらいこちらにいらっしゃっても…」
「はは。残念ですが、腕車が到着したようですからね。」
「そうですか…」
「そんなに残念がることはないですよ、蒼禰さん。また明日も来ると言ったでしょう。」
いつもの光景だった。いつもの様に蒼禰が引き留め、リチャアドがそれを制す。それは、慣習した、一種の別れ際の挨拶に近い応酬だった。
しかしリチャアドはその後、少し考えるような仕草をしてから、いつもとは違う言葉を口にした。
「そうですね、蒼禰さん。もうすぐ貴女は誕生日を迎えますから。」
「え?ええ…」
「誕生日のパーティの日は、少し長く居させて貰いましょう。」
青年は、その大人びた容貌からはそぐわない、悪戯めいた笑みを見せた。それはさながら少年のような、酷く純粋な笑顔だった。
「…先生!」
「何、どうせ旦那様も、大勢お客様をお集めになるのでしょうから。一人増えたくらい大丈夫です。」
「…よろしいのでしょうか?」
もじもじとした様子で蒼禰が尋ねる。
「はは。大丈夫でしょう。いざとなったら泊まり込むことだって出来るでしょうしね。」
「泊まり!もしかしたら、先生が家にご宿泊されるのですか!?」
蒼禰は目をいつもより少し大きく開き、頬を僅かばかり紅潮させた。それはあまり感情を表に出さない蒼禰にとっての、最大限の興奮を表していた。
願ってもいないことだった。泊まる。先生が。考えただけで楽しくなり頬が緩む。
「まぁ、上手くいけば、の話でしょうけれども。」
「まあ、私おつねに頼んでみます。先生が泊まるお部屋を用意しなさいって。」
リチャアドが半ば仕方なし、といった風に笑いかけようとしたとき、部屋の扉の外側からこつこつとノックの音がした。
「先生、お車の準備が整いましてよ。」
扉が開き、中に人が入ってきた。その途端、部屋の空気は一変した。
その人物は、周囲の空気がぞっとするほどに艶やかな、妖しい美しさの、蒼禰の母だった。
「母様…お珍しいですね、直々に私のお部屋へいらっしゃるなんて。」
おずおずした様子の蒼禰に声をかけられた佐竹絹代は、しかしそれを黙殺してリチャアドを見やる。
「リチャアド先生、お聞こえ頂けませんでした?車が到着しましたからお帰りなさいませ。もうじき日も暮れますわ。」
リチャアドは、少々強ばった面もちで頷いた。
「分かりました。では蒼禰さん、奥様。私はこれで失礼致します。…また明日。」
リチャアドがそう言って部屋を出ようとしたとき、絹代が何かを思い出した様子で彼に話しかけた。
「ああそうでした。明日は本宅にお客様がお見えになりますので、先生はいらっしゃらないで宜しいですわ。」
「え?…ああ、分かりました。それでは失礼致します。」
ぱたん、と扉が閉じられた。かつ、かつという革靴の音が遠のきながら廊下に響く。残された部屋には、しんとした気まずい緊張感が漂った。
「蒼禰さん。明日はお客様がお見えになります。粗相の無いようにしていらっしゃい。」
それだけを言うと、絹代は蒼禰と目も合わせず、背を向け歩き始めた。
「あの、おかあさ…」
蒼禰の呼びかけは再び黙殺され、扉は静かに閉められた。一人残された蒼禰は、知らず唇を噛みしめる。
蒼禰は母が苦手だった。嫌いといえばそうなるのかも知れない。寡黙で、厳格な性格の人だと認識していた。小さい頃から、母が泣いたり笑ったりしている様子はあまり見たことがないのだ。本でよく見るような、母性愛なぞという感情とは疎遠な人なのではないかと思うことがある。
もっと、せめて私の目を見て話して下さってもいいのではないのかしら…そう思うと、僅かばかりにも寂しい気持ちが沸き上がった。
「あ、あをね様…」
振り向くと、閉じられたはずの扉から声が聞こえた。女中のおつねであった。
「おつね…何かしら?」
「はぁ、夕餉のお支度が出来ましたんでお呼びいたしましょうかと…」
「…分かりました。部屋を片付けてから行きます。」
「アノ、あをね様…」
「何かしら?」
「いえ、あの、奥様の言付けですが…そのぅ」
「何なの?はっきりと仰いなさいな。」
「明日は旦那様がお帰りなさいますから、あまりお出歩きなさらない様に、との事です。」
「…分かりました。」
「ハァ、それではこれで失礼致します」
ぱたぱたと忙しい足音は去っていった。おつねから告げられた母からの言付けもいつもの事であった。母は私を必要以上に父から遠ざけるのだ。幼い頃からそうであったので特に疑問や違和感は感じないのだが、通常の家庭では違うらしい。まぁあの母だから、今ではもう古くさいような、女性の礼儀とでも思っているのだろう。
「言付けくらい、私に直接仰ってもいいじゃない…」
誰にとも分からず、蒼禰はひとりごちた。西日が眩しい夕暮れを背にし、がらんとした部屋に長い陰が伸びる。
夜がやって来たのだ。
***
朝と言うには少し早い時刻だった。蒼禰は寝間着のまま寝台から降り、窓へ足を進め窓掛けを開けてみた。
外はまだ薄暗く、夜明けの明星は白く煌めいている。遠くの空には暁の光が茜色に燃えていた。
思いの外早く起床してしまったが、やることが無い。リチャアドからの課題は昨日に終わり、書庫から持ってきた本は粗方読み終えた。さてどうしたものかしらん、と考え倦ねる。ちらと窓の向こうを見やれば、庭の一角で蒼禰が育てている薔薇の蕾が開こうとしていた。
まだ、朝とも呼べぬ時分である。蒼禰は昨晩の母の言いつけを思い出しながらも、少しばかりなら平気だろうと高を括ることにして外に出た。薔薇の様子を見る為である。薄い紫色の寝間着に羽織り物を肩に掛けた程度の服装で、茨の棘に引っ掛ける事を用心して髪だけは一括りに結び、誰かに見られぬ様、足早に玄関を抜けた。
庭に降り立つと路道は朝露の為か湿気ていた。土の香りが濃厚である。気の早い蝉がしゃわしゃわと鳴き始め、季節が六月であることを思い起こさせる。
週に幾度か訪れる庭師が丹念に手入れしているので、庭にあまり雑草は生えていなかった。蒼禰が下駄を履いて土の上を歩こうとも、足下が露に濡れる気配は一向に無い。庭師に剪定の時期や肥料のやり方を聞かなくてはね、と思いながら足を運ぶ。一年前に、蕾が開こうとした時期の手入れを間違えて薔薇を幾つか枯らしてしまったのだ。
蒼禰が薔薇の植えてある場所に辿り着いた時、庭の近くに人影が見えた。
蒼禰は寝間着に羽織り物といった佇まいである。この姿を見られるのは流石にまずい、と思いとっさに近くの茂みに身を隠すと、人影はこちらにやって来た。
「**********。」
「****。********。」
ぽそぽそと何事かを言っているのは聞こえたが、内容までは聞こえない。しかし、こんな朝早くからどうして庭を散歩する人がいるのだろう。
人影が通り過ぎるのを待っていると、不意にある単語が耳に入ってきた。
「……………ちえ、こ……………。」
ちえこ。ちえことは、叔母の千恵子のことだろうか。叔母に用がある人なのか。否、そんなはずは無い。13年も前、この屋敷に住んでいたはずの叔母は失踪し、後に行方知れずのままだと聞いている。
すたすたと足音が遠ざかる。ひとまず見られる心配は無くなっただろうと思い立ち上がろうとしたとき、背後からいきなり
きゃっ
という声がした。
はっと息を飲んで後ろを振り向くと、そこには頭を抱えてうずくまる少女の姿があった。
暫しの沈黙が続く。ふるふると一向に動かぬ少女を見かね、蒼禰が最初に沈黙を破った。
「あ、あの…」
声を掛けると少女はびくんと大きく震え、上目遣いに蒼禰を見上げた。
「ごめんなさい…あの、庭が綺麗だなんて思ってついッ…」
特に敵意や害意などは無いようだった。ふるふると怯える少女を前に、家の人に言いつける気も起きない。
「あ、あの…どちら様でしょう…?」
ぴくんと言葉に反応した少女は、そろそろと立ち上がり頭を下げた。
「ほ、本日よりお世話になります、日下部夜太郎の妹弥生と申します!本来は今日の昼にお伺いする予定だったのですが、緊張の為か早くに目覚めてしまいまして、それならばと思い立ちちょっとお屋敷に行ってみようかと…」
そこまでを一気に言い終えると、下げた頭をくいと上げて、蒼禰を上目遣いに見やる。
「…あの、本当に…」
お世話になる。昨晩母が言っていた客とはこの少女のことだろうか。しかし、「本日より」とは、一体どういったことだろう。
「お世話に…?」
「ええ、あの、暫くこちらに逗留させていただくことになっていましたんですが…巳與治様のお誘いに甘えて…」
成る程、それで父が帰ってくるという事か。日下部夜太郎という人物は、父の巳與治と知り合いなのだろう。
「あの、それで、できれば私が今朝ここに居たことは内緒に…」
弥生が気まずそうに人差し指を唇に当てながら言う。自分としても、朝早くにこんな姿で庭に居たことを知られたくはない。
「ええ、分かりました。秘密に致しましょう。そのかわり、私がここにこんな格好で居たことも内緒にして下さいませんか?」
ぱぁっと顔が晴れ、ほっとしたように弥生は胸を撫で下ろした。
「ええ、勿論です。じゃ、ゲンマンしましょ。」
ゲンマン、とは何のことだろうか。蒼禰は、弥生が差し出した右手の小指を不思議そうに見つめた。
「………ゲンマン、もしかして知らないですか?」
「ゲンマンって…?」
弥生は驚いた様子で蒼禰を見つめる。
「あら、吃驚!何か約束するときはこうしなきゃいけないんですよ。」
そう言って、弥生は無理矢理蒼禰の右手を取り、右手の小指と弥生のそれをからげた。
「ゆーびきーりげーんまーん、嘘ついたら針千本のーますッ」
弥生は世にも恐ろしいことを平気で口にし、ぶんぶんと繋いだ指を縦に振る。最後にからげていた小指と小指を離し、言った。
「ゆーびきィったっ」
とっさに蒼禰が右の小指を隠して恐々と弥生を見つめると、弥生はくすくすとおかしそうに笑う。
「あははっ、ユビキリゲンマンはこうやるんですよぉ。大丈夫、本当に針飲ませたり指切ったりしないから。」
それでも、さも痛そうに小指をさする蒼禰を見て、弥生は吹き出した。
「見かけによらず恐がりさんなのねェあなた。…………あら、そういえば名前聞いていなかったわ。あなたのお名前は?」
いつの間にか敬語が抜けている弥生を、蒼禰は少しばかり悔しそうに見返す。
「笑い事じゃないのに…私の名前は蒼禰、佐竹蒼禰です。」
「あおね、ね。分かったわ。約束よ、誰にも言っちゃ駄目ですからねッ」
そう言うと、弥生は慌てたように空を見た。
「ああ、もうお日様が出てきているじゃない。もう宿に戻らなけりゃ…それじゃあね、あおねさん。また昼に!」
弥生は慌ただしく駆けていった。入り口とは違う方向へ向かったので、きっと裏口から出ていったのだろう。残された蒼禰も、母やおつねが起きないかと冷や冷やしながら玄関へ戻る。
部屋へ戻る前に、ちらと庭を振り返った。しかし、もうそこに弥生やあの人影は居なかった。さっきまで弥生と居た場所に残っているのは、薔薇の芳香と初夏の爽やかな朝焼けだった。
弥生は朝方の街を一人ぽつねんと歩いていた。夜太郎はまだ宿で眠りこけているだろう。さて屋敷に戻るのも気が引ける。この暇をどうやり過ごそうか、と時間を持て余し、近くの桟橋でぼんやりと考えごとをする。
それにしても、と先ほどの出会いに思いを馳せる。今朝、あの屋敷に忍び込んだ時に出会ったアオネという人は。
とても美麗だった。
自分のくせっ毛とは違い、美しく長い髪や端正に整った顔立ち。背丈からして年は近いのだろうが、弥生とは月と鼈程にもかけ離れた艶やかさがある。ああいった人の事を「美しい」と形容するのか。
弥生は水面に映る自分の容貌が目に入り落胆した。昔はこれでもよく親や親戚に可愛いと言われたものだが、アオネはきっと昔の自分の倍も可愛い子だったのだろう。無性に気落ちして、水面の自分を睨みつけた。
佐竹。アオネはサタケアオネと名乗っていた。佐竹の姓を名乗るのだから、アオネは佐竹の屋敷の子ということか。何故あのような格好で朝早く庭に出ていたのだろうか。しかも、茂みに隠れていた。それに、ああしていた事を知られたくないとも言っていた。何やら随分と変わった子である。指切りげんまんを知らない人なぞ初めて見た。
まぁ華族のような上流階級には、庶民には思いも寄らない作法でもあるのだろう。朝早くからああやって外に出るのは不作法なのだろうか。
何にしても、不思議な雰囲気の子である。どこか陰りのある表情が雰囲気をそうさせているのかもしれない。
「お前、朝ッぱらから何百面相の変な顔して歩いてるんだよ。」
後ろから声がした。夜太郎の声である。これでは昨夜の逆である。
「変な、は余計よ、大きなお世話。あんまり兄さんがぐうすか寝ていて起きないから、暇で暇で仕方がなかったんじゃない。」
振り向くと、寝ぼけ眼の夜太郎の顔。
「オイオイ、これでも早起きしたんだぜ。」
「…の割にはお日様がお顔を出してらっしゃるけれど?全く、起きたら鏡くらい見ればどうなのよ、その頭!」
「そんな女みてェな事できるかよ、気持ち悪いったら。」
「つべこべ言ってないでさっさと着替えてきなさいな、もう。あと少ししたら朝餉ですからねッ」
夜太郎は、やれやれといった調子で肩をすくませた。
しばらくとぼとぼと二人で桟橋を歩いていると、弥生の前を歩いていた夜太郎が、低い声音で口を開いた。
「昼過ぎにゃ佐竹の旦那の屋敷に行くぜ。ここらで一等でかい西洋風の屋敷だ。弥生、お前間違ってもそのお転婆で馬鹿な真似するんじゃねぇぞ。」
「兄さんじゃあるまいし、場は弁えてますよ。………………それにしても、貴族院の議員さんのお家だからって、何したらあんなにご立派なお屋敷が建つのだか。きっと裏で悪い取引でもして………」
「馬鹿ッ!口を慎め。天下の往来で不用意にそんな口きくとしょっぴかれる。カブロがどっかにいねぇとも限らねぇんだ。」
一瞬夜太郎の目がぎらりと鋭くなり、弥生の居る方向を振り返った。その眼光は弥生の口を噤ませるに十分なもので、弥生はしまったとばかりに手で口を覆った。
「…………御免なさい………。」
「分かればいい。まったく、誰が場を弁えてるって?」
にやりと笑い、夜太郎が弥生を見下ろす。
「……………。」
弥生はむっとしてぷいと横を向いた。そんな様子に、夜太郎ははたと気が付く。
「時に、お前なんであの屋敷を知ったような口振りだったんだ。俺はまだ連れていってはいない筈だぜ、確か。」
「そんなことより、ご飯よご飯!さぁご飯を食べに行きましょう。ほらお腹減っちゃったぁ。」
しまった、と思い弥生はとっさに誤魔化した。屋敷に行った事がばれると、夜太郎から大目玉を食う可能性があるからだ。
「ご飯よご飯。ほら早くしてよ兄さん。」
そんな挙動不審な妹を見て、夜太郎ははてと首を傾げるのみであった。
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