第零話『一年前の出来事』
~四十九階~
一番上にいけば願い事を何でも一つ叶えてくれる……そういう言い伝えがあった。
入る前は数千人居た。
その表情が皆晴れやかで、希望に満ち溢れていた。
進むにつれて、仲間の死、自分の実力では敵わない相手、その事で来る恐怖と絶望。
あと一つで……だというのにほとんどの人は死相がでており、疲れ切っていた。
あんなにいた人も、今じゃ九十人に減り、三グループに分かれて……横幅が長い、十三段ある階段を次々に上っている。
今上っているのは、一番少ない中立派、二十人のグループ。
そのリーダーである深紅と言われる男も重い足取りで上を目指している。
その誰もが無傷とは言えず、中には支えて貰わなければ、歩くことさえままならない者も居た。
しかし今の人数では引き返すのはもはや無理。このエリアで一流と呼ばれる強者達が何人死んだか、数えるのも馬鹿らしくなる。
その事は誰もが分かっており、上を目指すしか道はない。たとえ僅かな可能性でも五十階にいるであろうエリアボスを倒すしかなかった。
皆が濁った目をしている中、深紅の眼には輝きがある。
俺が皆を守るんだ。その男は生き残っている精鋭九十人の中でも最強の部類に入り、中立派に残っている人達の希望であった。
私が深紅を守る。傍らにいる少女ソハネは、もはやその男以外目に入っていなく、密かに決心をする。
次第に五十階が見え、最初のグループの人達が歓喜の声をあげているのが聞こえる。
心臓の鼓動が速くなる。
まさか……という思いと、もしかしたら……という希望と。
それを聞いた男と少女も顔を見合わせ、急いで階段を駆け上り五十階についた。
そこにはエリアボスが居なかった。
変わりに見えたのは、精根尽き果てたような顔でわなく、人々の喜びに満ち溢れた顔。
死んでいったもの達のために、とうとうここまでたどり着いた事により涙で見上げている者。怪我をしているのも忘れ、周りと抱き合って喜びを爆発させている者。その中で二人の人物がこちらに気付き駆けよってきた。
「深紅さん、ソハネさんとうとうやりました。私達本当についたんですね」
「そうだ、とうとう着いたんだ。やったぜソー、ようやく終わったんだ」
「やったねクー。本当についた」
話している内に徐々に感情が爆発し、深紅はソハネと手を繋ぎ、くるくると回っていた。
それを見て、先ほど話しかけた女は微笑む。
「ハハハァ、この魔王と歌姫にかかれば、ジョウロよりちょろいもんだぁ」
そう言っている割には、致命傷は無いが、その男が一番傷が多い。
それもそのはず、一番多い四十人のグループを途中から引っ張っていたのが彼だった。
このエリアで一番体を張り、それを芳賀にもかけず、口は悪いが仲間思いな男。
それを知っている女は心深い笑みで。
「そんな事ばかり言ってると、寒い男だと思われますよ」
と、心の中で思っている言葉と別の言葉を紡ぐ。何故なら彼は嫌うからだ、感謝の言葉を。
一度彼女が言ったら『できればやめてくれ……なんか感謝の言葉を言われると湿っぽくてむずむずすんだ。それに俺たちゃ仲間になったんだろ……まぁソハネや深紅は思ってくれてるかもしんねーけど、他の奴らはわかんねーけど、少なくても俺はそう思ってんだ。お前はどうなんだ。仲間に誘ってくれた……様』と茶化す様に言われたが、目は真剣だった。
『私は当然仲間だと思ってますよ……様』と茶化し返し、以来彼女は彼の前では感謝の言葉を口にしなかった。
「こりゃ~一本取られたな」
と、苦笑し、自然な流れで彼女の肩を抱こうとしたが、第三者によって手を振り払われる。
「いつも言ってるだろう、貴様が触ると高貴な……様にカビが移ると、フェリ、深紅、おめでとう。お前らならここに着くと分かっていた。後は欲に溺れた憐れなグループだけだ」
割り込むようにして彼女の横に立ったその男に全員が苦笑いを浮かべる。
その男も又、負けず劣らず無数の傷が付いていた。
彼が蔑む様に言ったのは、残ったグループの三十人。
リーダーの女は、入ってきた時と今じゃ性格がだいぶ違う。
今エリアの五十階まで、第一グループと第二グループは交互に入れ変わってモンスターと戦っているのに対し、第三のグループは何もせずただ後ろから付いてくるだけ。
あるのは願いを叶えるという欲望。仲間の死などもはや何も心に響かなかった。
今でも正常に判断できる人物もそのグループにわいるが、二、三人程度で、後はそういう人物。
それも無理はないと深紅を初めここにいるメンバーは思っている。
この大規模遠征で数えきれないほどの仲間の死を目にして狂っても何らおかしくはないと。
「着いた…ようやく…治せる…待っててね…」
いつの間にか第三のグループが到着しており……そして上から声が聞こえた…………破滅と絶望の原因を招く声が……。
~本当の地獄はここからだった~
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。