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FILE06:彼女のプライド。
生物学的に。




「−…あぁ?さっきから何言ってやがんだコイツ?」
その一言が、イーシス国ならず、全国の男、全てのロマン破壊しつくした。




女性にしてはかなり低い、ビリビリとしたバリトンの声が、広く静かな部屋に響き渡る。
この国の大尉であるあのオルガ・ニヒトが、「己の愛しき運命の女神、マイエンジェル」と崇める−…否、この国、イーシス国の全ての人々が崇める、神にも等しい希望の象徴でもあるあの、伝説の聖女様の口から出た声音は、恐ろしいほど低く掠れたハスキーボイスだった。



「な、な、なっ?!」

あまりの衝撃に軽い言語障害に陥るオルガ。
そんなオルガを更に突き落とすかのように黒髪の聖女様はその麗しい紅い唇を開き、こう優雅におっしゃった。


「つかリオル、いったいコイツなんな訳?勝手に人の靴に口付けるわ、下僕とか、お許しだとか、おかしなこと口走るし−…マジキモいんだけど。」

「きっ、き、キモっ?!」

「あっ、てか俺さっき便所行ったばっかだから靴、汚ねぇぞ?」

「べっ、べ、便所っ!?へ−…へぇ、聖女様も便所行くんだ。そりゃそうだよな、聖女様だって人間だもな。……クソッ、誰だよ聖女様は絶対、汚らわしい便所になんかに行かないって言った奴!」


心底悔しそうな口調で、そこに憎き親の敵を見るように睨むと、この国の大尉はそう絶叫した。





あぁ、我が敬愛なるイーシス国、第三十六代目、リオル・ラー・エクセルト王よ。

私はあなたの人選センスを疑います。





−…どこのアイドルだよそれ。

オルガを抜く三人が、心の中ですかさず厳しい突込みを入れた。


未だぶつぶつ天に向かって、ヤン達には百年かかっても、とうてい理解することが出来ない事を呟くオルガを彼女達は賢明な判断で見捨てることにした。

そして危うく自分まで彼の同類と黒髪の聖女に見られる一歩手前でヤンは、ギリギリその考えを阻止するための行動に出ることにした。

“薬師の娘”であり、この国きっての天才“光の魔術師”(自画自賛)と呼ばれるこの自分があんな顔だけの男と同類にみなされるなど彼女のプライドが許せなかった。

未だ疑惑がこもった瞳で自分を見つめる黒髪の聖女に向かってヤンは優しい笑み(オルガ曰く胡散臭い笑み)を聖女に向かって浮かべると優雅に腰を折った。ヤンの少し赤みがかった栗色の髪が彼女の肩をサラリと流れる。


「お初にお目にかかります、この世界に舞い降りし稀有なるお方。私、この城に仕える“薬師の娘”、ヤン・メリッサと申します。どうぞお見知りおきを…。」

女性にしては少し低めで凛々しい声が、重くなったこの部屋の空気を打破するかのように響く。

すると、国王の隣に今まで固い顔をして佇んでいた黒髪の聖女はほっとしたかのようにその麗しの顔に笑みを浮かべると嬉しそうに…否、

まるで感動したかのようにワナワナと口の端を震わせた彼女は−…、

否、

“彼”は、己が前に膝つくヤンの手を握り締めると大げさとも言える仕種で自己紹介を始めた。

「俺のこと初っ端から聖女とかいわない人に会ったのこれが始めてかも…。まじ感動する…
んな堅苦っしい敬語、俺なんかに使わなくていいよ!俺の名前は蓬田(アイダ) (トオル)…あ、違った!えっと−…こっちはアメリカ風な自己紹介だから−…トール・アイダって言うんだ。宜しくな、ヤン!」

最後に顔を可愛くかしげながらヤンの名前を呼ぶ黒髪の聖女…、

否、

彼の可愛らしい仕種にヤンは不覚にも殺られた。




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