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FILE05:聖女の正体。
婚約を口にせし者、
いかなる時、いかなる場合であれ、
その愛、成就するまで、他の者に横恋慕してはならない。


イーシス国、憲法百七十五条より。










「なっ−…なんて、…なんて綺麗なんだ……」



互いに気まずい雰囲気を王とヤンが漂わせている−…。
そんな最中、今まで影のようにヤンの直ぐ傍に影のようにつ立っていたオルガが突然、聞き捨てなら無い言葉を口にし始めたのを幕切れに、ヤンは思わず隣人に向けて目をひんむいた。



「オッ、オルガ?」

「…烏の濡れ羽のように美しく艶やかに地へと流れる黒髪…、まるで絞りたてのヤギのミルクのようにどこまでも透き通った滑らかできめ細かい白い肌…赤い唇…」

「おい、オルガ!しっかりしろ!」

「まるで闇夜の海から生まれ出た俺の女神…、俺のマイエンジェル…」

「って。聞いてるのかっ、オルガ!」


ただ忽然と、その瞳を潤ませ、王の隣で凛と佇む不機嫌な面を隠しもしない黒髪の聖女を見つめ、何かとてつもなくおかしなことを口走るオルガ。


そんな彼の暴走を止めようと、「いい加減目を覚ませこの馬鹿野郎っ!」と、
ヤンが殴ろうとした矢先…





「聖女さまっ!この俺、オルガ・ニヒトと結婚してください!!」




こいつはとんでもないことをいいやがった。








−…いいやがったこいつ…。


こう思ったのはなにもヤンだけではないはずだ。





チラリ、と伺うように王を見遣れば、ヤンと同じく王も、彼、腹心の部下である大尉のご乱心…否、聖女へのプロポーズ宣言を聞き、見事石化していた。

互いに口を引き攣らせ、目下をピクピク、立ち尽くす王とヤン。

しかし、彼らのことなどまるでout of 眼中であるオルガ大尉殿は、その黒髪の聖女の前までスタスタ歩くと、スッと優雅な物腰で膝まずき、恭しく彼女の足先に唇を落とした。




「−…あぁ、俺のマイエンジェル‥運命の愛しき人よ、この憐れな下僕めにお許しを…、貴殿との結婚の許しを頂けませんか?」


静まり返った広い空間に、オルガの低い声が響く。

どこからともなく入って来た風がオルガの金髪を軽く揺らし、窓から差し込んだ光と絡み、キラキラと輝く。


美しいエメラルドの瞳に、彫刻のように調った容姿。


そんな…、
夢物語から抜け出た王子のように美しく甘いマスクを持つ男に、もし女性が、甘い台詞で優しく耳元で囁かれ、攻められたら…

この世に落ちない女性など一人もいないだろう。

が、

しかし、生憎、目の前に心底不機嫌そうに佇む黒髪の…超美人な聖女様は、そこらそこんところにいる女とは全っく違った。



というか……。
目の前に佇む聖女は、


一般そこらにいる全ての女性と違うのだ。





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