FILE04:黒髪の聖女。
聖女様とやらがこの国にやってきて一月がたった。
不思議なことに聖女の姿を見た者は、城の者を含め誰一人としていない。
いつ隣国との戦争が起きるか解らない程、緊迫した厳しい冷戦の最中。
人々は日々の不安からだんだん王を疑い始めていた。
何故、王は、あの、伝説の聖女の存在を隠すのか…?と。
ある者は言った。
「聖女のあまりの美しさに王は、彼女をあの高い塔に閉じ込め、恋に狂ってしまったのだ。」と。
また別のある者はこう言った。
「いや、実はあの伝説の聖女など、この国に存在しないのだ。」と。
噂が噂をつくり、情報が混乱し、次々とイーシス国の人々を混乱に陥れていく−…。
そんな中、
ヤンは王の勅命により、大尉の位を持つオルガと共に城に呼び出され、後宮の奥の奥に隠された黒髪の聖女にあった。
あまりの聖女の美しさに息を呑む隣のオルガを尻目に、ヤンは鋭いサファイアの眼差しで目の前で王と共に佇む聖女を一瞥し…
そして瞬時に、人々から聖女を隠した王の意図を理解した。
−…これはまぁ…。神も皮肉なことをなさる。
あの伝説の、黒髪の聖女を見たヤンの第一印象は最悪だった。
これから起こるであろう出来事を考えると思わず頭が痛くなる。
つい同情的な眼差しで王を見やれば、あんの上バチリと目が合ってしまった。
青い瞳と赤い瞳が瞬時、交差する。
しばし互いの思考を読み合うかのように、目線をかわしていた王とヤンだったが…
それも一瞬で終わった。
この世の疲労を全てその身に受けたかのように、王が深く重い溜息を漏らすと、重々しく口を開いたのだ。
「−…やはりお前には分かるか、ヤン?」
「えぇ。」
王と交わした会話は今の一言だけ。
しかし、「阿」、「吽」の呼吸並みに、とある事情から息がピッタリなこの二人。
再び互いの顔を見つめ合い、これから先起こるであろう混乱を憂い、深い溜息を同時についた。
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