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FILE39:カオスな展開。

ヤンがその部屋に一歩足を踏み入れると-…

「-…ト、トール、コ、レ…」
「おぉ、ありがとうシグー!」
「べ、つに…。い、い…」

「ちょ、お前!糞ババイ!!抜け駆け禁止っ!!…あ、聖女様こちらもどうぞ」
「え、本当にいいのか!ありがとな、オルガ」
「い、いえ…」

思わず目を、窓の外へと背けたくなるほど気恥ずかしい…。何とも言えない甘い空気がそこにあった。

何だこの展開…。

ニコニコと無邪気に微笑みながら直ぐ両脇に座る男たちの手から「あ~ん!」と昨日ヤンが焼いたばかりな生クリームたっぷりのケーキをその麗しの赤い唇で受け取り堪能する聖女(男)様。時折唇の端についた生クリームを傍目妖しく、赤く長い舌先でペロリと舐め取るその姿は酷く妖艶で…

「う~、おいしぃ~」
粗食したと同時に身体をフルフル子犬のように震わせ、身体全体でその美味しさをアピールするその姿は-…なんとも愛らしい。

「ト、トール…こ、コレ!!」
「聖女様っ、こちらもっ!!」
「え、そんなに沢山…いいのか?」
「「うん(はい)っ!!」」

しかし-…。

「うわ、ありがとう!!お前らいい奴なんだな!!」
「「-…。」」

たかが食べ物如きでそんな-…。
顔だけがとりえな脳内糞狼野郎どもに、出会って直ぐに懐くのはどうかと思うんだが。

「あ、ヤンさんだ!!お早う!!」
「あ、あぁ…」

暫くの間、現実逃避をするようにぼんやりとリビングに繋がるドアの前に佇んでいたヤンは三人分のケーキを食べ終えようやく満足したトールの至福感たっぷりの声になんとか返事を返した。

そしてふと、強い視線を彼のすぐ近くから感じ、内心首を傾げながら前を見やれば…

「「-…。」」
「-……。」

おいおい、命の恩人に対して何だその態度は。というかオルガ、貴様も何だその目は?

敵対心バリバリな四つの目があった。
呆れて言葉も出ないとはこのことだろうか…。
ヤンは思わず空を仰いだ。

「はい、ヤンさんもお茶をどうぞ!」
「あ、あぁ…。ありがとう」
「い、いえ…。えへへ…」

おい。何故そこで顔を赤らめる。

聖女からお茶を受け取った瞬間、更に強くなった二つ視線にやや辟易しながらヤンは「何故自分の家であるにも関わらず、こんなにも朝から疲れなければならないのか」とげんなりする。これからのことを思うと非常に気が重くなるのはなにも気のせいではないだろう。

やっぱこんな話、引き受けなければ良かった。

後悔先に立たず、だ。

「あれ?ヤンさん何処に行くんですか?朝ごはんは…」
「悪いな。朝は食べない派なんだ。では、私は少しやりかけの仕事があるから部屋に戻るが…絶対にココ以外の部屋には入るなよ?」

結論。男の嫉妬は見苦しい。
コクコク素直に頷く聖女を尻目にヤンは変なことに巻き込まれる前にさっさと身を翻した。

確かに聖女は可愛い。
ヤンは疲れたように額に手を当てるとバタンと固く閉じた扉に背をやる。
美人だし、同年代の少年少女と比べとても素直だ。
故に確かにヤンは彼に対し、初対面から好感を持てた。
自分の家で面倒を見てやってもいいと、そう思うほど。
しかし-…。

「それ以上に危機管理能力が無さすぎて厄介だ-…。」

今となって後悔する。

昨夜まであんなに煩くヤンの家に居た青年に対し、「不審者だ~!」と喚いたかと思えば、そんな聖女を守るべく彼の細腰を己の身体に寄せたオルガに対し、「お前は変態だ~!」等とほざ…、ゴホン。お互い騒ぎあっていたにも拘らず、今日起きてみれば(ヤンは面倒くさくなってそのまま放置した)いつの間にやらかなりのフレンドリーとなり、果てには恋愛バトルまで人様の家でなんの恥ずかしげもなく繰り広げているという-…迷惑極まりない現実があった。その上、嫉妬まで向けられる有様だ。

「もうやってられん。」

なんか全てにおいてどうでもよくなった。
もうやけっぱちだ。

未だ騒がしい部屋から離れ、ヤンはただ一人とある作業に没頭した。


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